俺がデパートの深夜警備のバイトをしていた時の話。
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自分の番になったので、警備室に相棒をひとり残し、俺はフロア巡回に出かけた。
真っ暗なデパート内を、懐中電灯の明かりを頼りに、異常がないか見て回る。
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B1F、食料品売り場。異常なし。
1F、服飾雑貨売り場。異常なし。
2F、婦人肌着売り場。異常なし。
そして、3Fの婦人服売り場。
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動くものの気配はない。物音もしない。
あるのは最新のファッションに身を包んだ、様々な恰好をしたマネキンたちのみ。
――特に異常はないな。
そう思い、俺が警備室に戻ろうとしていた時、
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shake
――バタバタバタ!
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数人の慌ただしい足音が響き、それがこちらに近づいてきた。
俺はビクリとしてその場で凍りついた。
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見るとそれは警備室に残っていた相棒と、同じ会社の同僚たちで、俺の方へすさまじい勢いで近づいてきた。
そして、何を思ったか俺の背後のマネキンをボコりはじめた。
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俺はあっけにとられてそれを見ていたが、相棒が
「大丈夫でしたか!」
とすごい形相で尋ねてきたので、「どうしたんだ一体?」と俺は質問で返した。
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「警備室のカメラで見てたんですけど、このフロアに着いた時からずっと○○さんを追いかけ回している人影があったんです。
そいつ、○○さんが背後を振り返りそうになるとピタって止まって動かなくなるんです。気づいてなかったですよね?」
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同僚の方に目をやると、派手な服を着た見知らぬ女が床に倒され押さえつけられていた。
女の前には、マネキンの顔の部分だけを切り取ったお面と、女性には不釣り合いな大きさの出刃包丁が落ちていた。
作者綿貫一
こんな噺を。