中編3
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嫁と姑

二か月前まで病院で働いていたんだけど、そこはホントにやばかった。

業務内容とかも法律違反しまくりでやばかったし、幽霊も見たけどそんなこと関係ないくらいヤバイことがたくさんあった。

俺の担当の病棟にシズってバアちゃんが入院してて、そのバアちゃんが半身不随でほぼ寝たきりなんだけど、嫁さんの多香子さんって人は毎日毎日見舞いに来ていた。

シズさんは痴呆も進んでて、嫁さんが誰かすら分からない状態だった。

それでも多香子さんは毎日来ていて、俺たち職員も「良い嫁さんだなー」って思っていた。美人だったし余計に。

でもある時、シズさんの部屋(個室)に体温計忘れてきたのに気付いて部屋に戻った俺は、見てはいけないものを見てしまった。

「はーい、あーんして?あーんは?」

多香子さんがシズさんに何か食べさせていた。

邪魔しないように、後から出直そうと思ったけど、多香子さんが持ってるものを見て動けなくなった。多香子さんがシズさんに食べさせてたのは、どう見ても使用済みのスポンジを細く切ったものだった。

いくらボケてるとはいえ、シズさんは口を開けない。

そうしたら多香子さんは、「おーいクソババア?口開けろよ?」と言って、割り箸をシズさんの口にねじ込んで無理矢理開けさせて、スポンジを押し込んでいた。それ以上は見ていられなかった。

俺は走って婦長に知らせに行ったが、「わたしたちは何も知らないのよ。」と言われた。要するに他言無用、忘れろということだ。婦長たちも前から、多香子さんによる虐待に気付いてたんだ。

俺はそれがすごく怖かった。美人で優しい出来た嫁さんだった多香子さんの、あのすごく楽しそうな歪んだ表情より怖かった。

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でも、この話には続きがある。

それから半月もしないうちに、シズさんが亡くなったんだ。死因は誤嚥性肺炎だった。誤嚥性肺炎というのは、食物あるいは食物以外のものを誤って飲み込んで起きる病だ。

俺は多香子さんのせいに思えてならなかった。

しかし、シズさんの引取に多香子さんはいなかった。

なんでだろう、と思っているとシズさんの息子さんが話し掛けてきた。

「先日、妻も亡くなったばかりなんです」と。

息子さんも理由は言わなかったが、俺はなんとなくシズさんの復讐のような気がしていた。

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それに、亡くなってからわかったんだけどシズさん、ボケてなかったんだ。全部演技だったんだ。

遺品から出て来たシズさんの日記に、多香子さんから受けた虐待が全部細く書いてあった。唯一動く右手で必死に書いてたみたいだ。

そして、最後のページを見た時、俺は本当に怖かった。

「多香子死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね多香子死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね多香子多香子多香子多香子死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

ひたすらそう書いてあった。文字は震えることなく力強く書かれていた。

人間の執念に心底恐怖した。

そして「人を呪わば穴二つ」って本当なんだと思った。

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