「鏡よ鏡よ鏡さん、世界でいーーちばん可愛い女の子はだーーれ?」
それは勿論、花ちゃんですよ♪
「やったー!」
花子は今日も鏡に話しかける。
鏡の前の花瓶に水をやりながら、もう一度聞いてみる。
「ねえねえ、それじゃあ世界で一番美しい女の人って誰ー?」
それは勿論、15年後の花ちゃんですわよ♪
「やったー!」
無邪気に喜ぶ花子。
襖一枚隔てた向こう側から声色を変えて話す母親の存在など知る由もなく。
10年後、花子は高校生になっていた。
3年前に母親が他界し、花子は祖母の家から学校に通っている。
中の良い友達を家に呼び、今日も花子は花瓶に活けられた花に水をやりながら鏡に問いかける。
「鏡よ鏡よ鏡さん、日本一可愛い女子高生って誰かしら?」
それは勿論、花子お嬢様で御座いますわよ♪
「ふふふ」
「すごーい!鏡が喋ったー!何これちょっとやばくない?」
花子の友達がびっくりして、鏡を調べ始める。
「この鏡ね、本当の事しか言わないの」
花子が自慢げに鼻を鳴らす。
襖一枚隔てた向こう側から声色を変えて話す祖母の存在など知る由もなく。
10年後、花子はお母さんになっていた。
3年前に亡くなった祖母に見せてあげられなかった2歳の娘、美流来(みるく)を抱きながら、今日も花子は鏡に問いかける。
「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しい女性はだーーれ?」
それは勿論、15年後の美流来ちゃんでございますよ♪
「はっ?いまなんて言った?」
花子は手元にあった花瓶の水を鏡にぶち撒けた。
襖の向こう側にいる旦那が震え上がる。
「鏡が嘘を言っちゃいけないね!」
花子は娘の小さな頭を鷲掴みにすると、鏡に向かって勢いよく打ち付けた。
すると鏡に螺旋状の亀裂が走り、美流来の額から赤い血がポタポタと滴り落ちた。
「あらー、大変!美流来ちゃん後で洗って絆創膏貼ってあげるから泣かないであっち行ってて頂戴!」
花子は娘をお風呂場へ追いやると、また鏡の前に戻ってきた。
おい、もう一回聞くぞ?
鏡よ鏡よ鏡さん…
【了】
作者ロビンⓂ︎