中編7
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白のドレスvol.2

お話しの登場人物は

私=みゆ

みずき

りさ

しいの

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「今晩は!失礼します。お隣り、いいですか?」

「君たち可愛いね!!」

「ありがとうございます♪」

「ありがとうございます。」

「何歳なの?」

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出たよ。なんで歳を聞くかね。どうせ若いほうがいいんでしょ。あいにく私は若くありませんがね。

心の中で悪態をつきつつ、顔は努めて可愛らしい笑顔を心掛け私は答える。

「27です!」

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「え!?まじで!?見えないねー。もっと若いかと思ったよ!」

それで褒めてるつもりなのか。

ま、「ババァじゃん!!」に比べたら天地の差がある。

しばらく他愛のない話をしてた。

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「ところでさー。なんか怖い話しないの?」

季節も季節。今は夏だからたまにはそんな話題にもなる。

「怖い話しー?そういえば、りさちゃん。みずきちが言ってたね!」

「あー、トイレっすか?白いドレスの。」

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「そうそう。あとあそこの柱だって。」

「やっぱりなー。そんな感じしたんだよ。トイレって店の奥?」

「そうですよ。

…え?見えるんですか?」

「見えないんだけど、感じるって言うの?あっちの方になんかいる。」

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「嘘でしょ!?ちょっと!トイレ行けないじゃん!!」

昨日の今日だから余計に怖い。

「りさちゃん、その時は一緒に行こうね!」

「みゆさん。私、今行きたいんすよ、実は。」

「まじかー。」

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こんな話題の中に行くってちょう怖いじゃん。

「…今はやめたほうがいいよ。」

戸惑っていると、もう一人のお客さんが、ぼそりと言った。

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「…なんでですか?」

「うまく言えないけど。。。あっちの方、重い。」

平日に関わらず満卓の店内はとても賑やか。重いなんて感じはしない。

「お客さん用のトイレはどこのあるの?」

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「キャスト用の手前です。」

この席だけ空気が重くなった。

「じゃ、3人で行こっか!俺もちょうどトイレ行きたいんだよねー。」

気を利かせて明るく言ってくれた彼に、私も冗談で返す。

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「じゃー、手繋いで行きましょうか!」

もう一人はお留守番、荷物番?ということで席に残して3人でトイレに立った。

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とは言ってみたものの、お客さんと手を繋いでフロアを歩くのは、はしたないのでお客さんの後ろをこそこそ着いていった。

私とりさちゃんは手を繋いで。

「…やばいよー。みゆさん。タンク満タンな上に、怖くて漏らしちゃいそうです私。」

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りさちゃんはよく面白いことを言う。怖がってるようには見えない。

「りさちゃーん、面白いこと言わないで。笑った拍子に出ちゃうじゃん。」

でも。

きっと今日は怖さを紛らわしてたんだと思う。

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トイレに行くにつれて、空気が変わったことが酔っ払ってる私達にも分かった。

それでも、出るものは出る。

私とりさちゃんは同時にトイレに入った。

トイレがふたつあってよかったー。

ひとりで待つのも怖いもんな。

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ジャー。バタン!

りさちゃんが先に済ましたようだ。

「みゆさん!待ってるから早くして下さい!」

トイレの扉の隙間からりさちゃんが動くたび、ゆらゆら影が動く。

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スッ…。

ほんの一瞬。影じゃないものが動いた。

たぶん、ドレスの裾。

白いドレスの裾…。

「わーーーーっ!!!!!!」

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だって、りさちゃんはクリームとエメラルドグリーンのマーブル地に花柄のロングドレス。

見間違えようがない。

みずきちが言ってた白いドレス!!

パンツもそこそこにバタバタと出てきた私に驚き、固まってるりさちゃん。

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「りりりりりさちゃん!し白いのでた!!白いドレスの!」

パンツを直しバシャバシャ手を洗いながら、りさちゃんに伝えると、

「えぇっ!?みゆさん!それ手洗ってる場合じゃないよ!ちょっと!」

早く逃げ出したいりさちゃんに腕をつかまれ、急いで蛇口をしめる。

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「え…?

みゆさん、あ、あれ…なに?」

言いながら更に私の腕を引っ張るから、私はバランスを崩し、転んでしまった。

そりゃ、15センチヒール履いてたら機敏に動けないよ。

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「いったーい!!」

「みゆさんっ!!早く!」

慌ててるりさちゃんなんて珍しい。

つい後ろを振り返ってしまった。だってさっき、りさちゃんが私の後ろを指さしてたから。

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見なきゃよかった。見なきゃ、まだ気のせいにできた。

うちのトイレにはロッカーがある。生理用品などを置いてる棚だ。

そこにこちらに顔を向ける白いドレスの女性がいた。

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表情はよく分からないけど、青白い顔色をしてた。目は真っ黒でよくわからない。

「みゆさん!!はやく!!」

りさちゃんに引っ張ってもらい、なんとか起き上がって、2人でバタバタとホールまで戻った。

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「もしかして…、見ちゃったの?」

付き添ってもらったお客さんが声を掛けてきた。

「どこいたの!?」

「ちょー怖かったんですけど!!」

私とりさちゃんでぶーぶー文句を言う。

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「女子トイレには行けないでしょ。それに鍵掛かってるし。」

ホールと店裏には鍵の掛かる扉がある。

開けるには暗証番号が必要で、もちろん社外秘だ。

「とりあえず、大丈夫みたいだよ。

ドア、閉めたんでしょ?それならこっちには来れないよ。」

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確かに、鍵まで閉めた。

…だって来て欲しくないでしょ?

すり抜けられるかも知れないけど、怖いものは遮断したい。

「招かざるものだから、今のところ、こっちまでは来ないよ。さっ。飲みなおそ!」

お客さんの軽い感じに、今見たものが気のせいだったような、そんな気がしてきた。

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違う。ホントは気のせいにしたかったんだと思う。

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「おい!!お前退けよ!邪魔なんだよ!退けって!」

突然、みずきちが怒鳴った。

お客さんと乱闘??みずきちならあり得る…。昔はしょっちゅうやってたらしいから。

けど、みずきちを見るりさちゃんの顔や、周りの顔は真顔だった。

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乱闘の時は眉間にシワを寄せたり、呆れ顔になる人が多い。

今日は不思議そうな顔してる。

それもそのはず。

みずきちは誰もいない、何もない空間に向かって怒鳴ってる。

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同じボックスに座ってるしいのが

「みずきち!!みずきちってば!どうしちゃったの?なんもいないよ!」と小声でみずきちをせっつく。

「あ゙?そこにいんじゃん。さっきから突っ立ってこっち見やがって。トイレ行きてーんだよ。邪魔だよ!」

みずきちは言いながら立ち上がり、何かをどかす動作をしてトイレへ行ってしまった。

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「うん。あの人酔っ払うといつもあーだから。気にしないで!ね!気にしないで!乾杯ー!飲もう飲もう♪」

フォローになってるのかなってないのか、しいのが言い、周りも気を取り直して店内はまた賑やかさを取り戻した。

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あとで聞いたら、茶髪の子が柱から少しずつみずきちに近寄ってきたそうだ。

ずっとガン飛ばしてたけど、消えもしないし、退きもしないから蹴りとばしてやったらいなくなった!と元気に教えてくれた。

私は思った。

みずきちは怖い、と。

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きっと彼女に幽霊の怖さは通用しないんだ。

白いドレスの事も聞いてみたけど、別になにもいなかったよと事も無げに言われた。

足を挫きそうになった私達はまだまだひよっこだ。

けど、みずきちがそう言うならトイレも更衣室も行ける。よかった。

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営業が終わり、今日は掃除当番じゃない私とりさちゃんは帰り支度をして、オーナーのいる事務室へ訪れた。

今日の出来事を伝えるため。

「あー。たまにあるんだよね。

知らなかったの?

このハコに憑いてるみたいね。前から。

何もしなきゃ、何もされないから気にしないで。」

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「何もしなきゃって…。

ゆうじさん!今日、みずきちが幽霊蹴飛ばしたんだよ!」

「蹴飛ばしたー??あの人怖いね…。

けど、お祓いはしてるんだよ。何回か。だから、

触らぬなんとやらだよ。みずきちにも言っといて!」

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そんなぁ。。。

私とりさちゃんは顔を見合わせてがっかりした。

夜の世界。

突然明日から来ません!てわけにはいかない。

しかも、知らなかったの?って。

系列から移動してきて1年経つけど知らなかったよ。

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「そんな顔しないで!

教えてあげるよ。たいした話じゃないんだけど…。

この店、2階あるの知ってる?もちろん今は塞いで上がれなくなってるけど。」

うちのオーナーがこのハコを買う前、ここには違うキャバクラが入ってた。

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その前は紳士服屋で、更にその前は居酒屋だったらしい。

居酒屋と紳士服屋のときは1階と2階を使っていたらしく、その後、キャバクラになってしばらくして2階は塞がれたそうだ。

詳しくはオーナーも聞いてないらしいけど、誰もいないはずの2階からドレスを着た女性がゆゆらゆらと降りてくるのを見たと言うホステスが相次いだ。

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その頃、もともと2階は使われておらず、使わないソファーやテーブルが階段前に置いてあり、物置スペースになっていた。

2階に行くにはその積み上げられたソファーやテーブルを退けるか乗り越えなくてはならない。

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ドレスを着てヒールを履いた女性がそんな面倒なことするはずがないし、まず、2階には用がない。

その時のオーナーはお祓いを頼み、念には念をいれ階段を取り払う工事をした。

けど、今度はホールで幽霊騒ぎが始まった。

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キャストは次々に辞め、半年も経たず、営業ができなくなってしまい閉店したそうだ。

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「オーナー…

そんな店買ったんですか?」

「うん。お祓いすればしばらくはでないからね。それにお陰で安かったし。」

“お祓いすればしばらくはでない。”

もちろん私たちはオーナーにお店のお祓いをお願いした。

安いからって幽霊騒ぎは勘弁してもらいたい。

Concrete
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