【Prologue】
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とある不動産業者から依頼があった。
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「古屋敷の見回りをしてほしい」
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何てことはないただの巡回作業。便利屋を営むうえでは、極力何でも引き受ける。難しい仕事依頼ではなかったので、俺は素直に引き受けた。
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それに、ただ建物内を見回って確認するだけで金がもらえるならいくらでもやる。ラッキーだな、とさえ思った。
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だが、実際に現場についてみると、その異様な雰囲気を放つ古屋敷に不安が全身から込み上げる。そして、この後に不吉なことが起こる、そう俺は確信した。それでも進まなければならない。これは立派な仕事であり、引き受けた以上断れないからだ。
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それに、俺は既にゲームの主人公になりきり、このミッションをクリアして、グッドエンディングを迎える、という使命が俺の中で生まれていた。
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【Start】
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Scene1
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ボロの軽トラックには、俺とヒロシが乗車していた。何件もの依頼業務を終えると、最後の現場に向かう。
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「もう六時超えてるじゃないすか」
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助手席に座っているヒロシは携帯電話に視線を落としながらそう言った。便利屋「バーリトゥード」に入社してまだ一カ月のアルバイトだ。頭に巻いているタオルが様になってきている。
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「まあ、そういうな。後は、ただの見回りだからすぐに終わるさ」
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俺は、ナビを見ながらヒロシを宥める。
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そろそろなんだけどなあ。砂利道をひたすら直進する。周りを見渡すと、ほとんど明かりがなく、東京郊外とは言え、想像以上の田舎風景に俺は戸惑っていた。
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「ノボルさんまだつかないんすか? もう二時間近く乗ってる気がするんすけど」
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「いや、もうつくよ。てかもうついた」
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えっ。
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ヒロシはあからさまに驚いてみせた。もちろん、俺も同様だった。
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突き当りにぶつかった先には、暗闇に佇む屋敷が現れた。日本らしい所謂「武家屋敷」。入口には立派な門が待ちかまえ、その奥に二階立ての屋敷が聳える。
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「これって死亡フラグっすよね」
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助手席から震える声がするので、ヒロシを見てみると、既に顔が青ざめている。これは誰でも怖いな、と俺は思った。だが、死亡するしないはプレイヤーの腕にかかっている。これは一発勝負だな。
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俺は昨晩までにホラーアクションゲームをやっていたこともあり、この状況がゲームに似ていることから完全にゲームの登場人物になりきっていた。ヒロシのようなビビりキャラは当然死んでしまうが、これは現実世界だ。まあ、死ぬことはないだろうが、無事に帰すのも俺の立派な役目だな。
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「まあ、確かにそうか。でなきゃ俺たちみたいな便利屋にわざわざ金かけて依頼する筈がないからね」
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そう言うと、俺は俺の中でゲームコントローラーを握った。
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[便利屋車内]
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【調べる】
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―【ヒロシ】
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―左右の腕を交差させ、二の腕を摩っている。よほど怖いのだろう。
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―【運転席】
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―【依頼書】【チェックシート】
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―依頼書とチェックシートを手に入れた。
依頼書とチェックシートを小脇に抱え、俺は外に出る。ヒロシも後に続いて、嫌々ついてきた。
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【道具】
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―【南京錠の鍵】【玄関の鍵】【カッター】【ガムテープ】【ヘッドライト×2】
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―ヘッドライトを取り出した。
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背中に巻いているポシェットからヘッドライトを二つだし、一つをヒロシに渡した。
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「多分見た感じ相当建物が古い。もしかしたら床が抜ける可能性があるから慎重に行こう。慌てず、ゆっくりな」
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「はあ。いや、めっちゃこわいっす」
既に腰が引けている。俺は雰囲気を和まそうとあからさまに笑って見せた。
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「大丈夫だって。一緒にいれば怖くないって! 残業代も出すし、何ならこの後飯も奢るよ。だからちゃっちゃっと終わらせよう」
そう言って、俺はヒロシの背中を軽くポンポンっと二回叩いた。
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【道具】
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―【ボールペン】【南京錠の鍵】【玄関の鍵】【カッター】【ライター】【ガムテープ】
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―南京錠の鍵を使った。
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門についている南京錠に、予め依頼主から拝借した鍵を差し込む。難なく開錠すると、ゆっくりと扉を押した。
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軋む音が静寂を突き破る。まるで悲鳴にも聞こえた。
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「いやいやいやもうこれド定番のお化け屋敷じゃないすか」
俺の後ろに隠れ、へっぴり腰のヒロシ。恐怖のあまり黙っていられない様子だった。
ヘッドライトの明かりだけを頼りに中に進んだ。地面に大きめの石が埋め込まれ、玄関まで続いている。その一つひとつを慎重に辿った。
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――途端に門が勝手に閉まる。
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「いやあ! ちょっと!」
飛び跳ねるヒロシ。俺の肩を強く握り、背中にまた隠れた。
「いやだもういやだ。もう帰りたい」
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この雰囲気に相当怖がっている。どうする? やっぱり車で待ってもらおうか?
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・【一緒に来てもらう】
・【車で待機してもらう】
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【一緒に来てもらう】を選択した。
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いや、ここは一緒に来てもらおう。二人いた方が何かあった時に互いに助け合える。それに、こんな暗い中で一人だけで待っているのも怖いだろう。
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「ほら頑張れ。車で一人で待ってるのも心細いだろ? 俺がついてるから安心しろって」
俺は、ヒロシの背中を強めに叩き、気合を入れた。
「は、はい」
仕方ない、といった様子でヒロシは俺の後をついてきた。
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格子状になった扉がぽっと現れる。隙間にある硝子から中を覗こうとしたが、曇硝子のようでよく見えなかった。
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【道具】
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―【玄関の鍵】【カッター】【ガムテープ】
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―玄関の鍵を使った。
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スライドして開ける古いタイプの扉だった。中央にある差し込み口に鍵を入れ、ゆっくり右に回す。カチリ、と音が鳴り開錠された。そして、ゆっくりと扉を開ける。
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ヘッドライトに浮かび上がる玄関。段差の先には障子で仕切られた部屋が一つと右に曲がる廊下が続いている。既に清掃されているのか床には何も落ちていない。靴や置物、ゴミでさえもなかった。
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さあ、どこから調べる?
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・【大広間】
・【さらに奥に行く】
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【大広間】を選択した。
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近場から一つひとつ潰していこう。広い屋敷だから迷う可能性もある。
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俺たちは土足で中に入り、先ずは手前にある襖を開けた。
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ヘッドライトが向こう側の壁まで照らす。結構な広さで、そこも何も置いてなくがらんとしていた。一体これは畳いくつ分なのだろうか。
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「大丈夫そうだな」
「そうですね。早く次行きましょう」
ヒロシは早くこの仕事を終えたいようで俺を急かす。その癖に俺より先に行こうとはしない。まあ、可愛い後輩だ。
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大広間は更に襖で仕切られいたので、そのまま次の部屋に進んだ。
同じような部屋がまた現れた。そして、やはり何もない。畳がただ目の前に広がっている。
「あれ、一階楽勝なんじゃないすか?」と急に強気になるヒロシ。
「この調子で進めばな」
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――壁際にあるいくつもの窓が急に開く。突風が舞い込んだ。
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ヒロシは絶叫して俺の背中で蹲った。しきりに「ごめんなさい」と呟いている。さすがに俺も心臓が縮みあがる思いだった。
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「たまたま開いただけだ。先を急ごう」
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ヒロシを抱え上げると、そのまま次の襖に直進する。
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また同じような部屋が現れ、次の襖を開けると、また同じ。何度か繰り返しているうちに俺は違和感を抱く。いくらなんでもこれは間取りとしておかしい。キリがないのだ。いくら襖を開けようが限界がこない。永遠に続く襖。俺は咄嗟の判断で踵を返す。
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「どうしたんですか?」
恐怖にくたびれた様子のヒロシは、既にだいぶ弱っていた。顔が引きつり、声に覇気がない。
「この辺は問題ない。上の階に行こう」
俺はあえて違和感を覚える原因は伏せておいた。変に不安を煽ることになりそうだったから。
元来た先には、いくつもの開き放たれた襖が続く。その先は、漆黒の暗闇だ。
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shake
ヘッドライトが点滅する。
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「もう電池切れか」
俺は、指先で電源を押し、オンとオフを繰り返した。そして、接触が悪かったようで、問題なくまた明かりを照らし始めると正面に向き直った。
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――明かりの先に、人影があった。しかもそれは少しずつこっちに近づいてくる。徐々に姿が浮かび上がる。
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――ボロボロになった衣服を纏った男。目と口がある部分は、ぽっかりとくり抜かれたように空洞があった。そして、その男はうめき声を漏らしながら、俺たちの方に歩み寄って来る。俺は確信した。こいつは人間じゃない、と。
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慌てて周りを見渡す。一カ所襖とは違う、ノブのついた木製の扉があった。選択肢はない。そこに逃げよう。
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「おいヒロシ! あそこの扉に走れ!」
「え、なにが……」
ヒロシも奇妙な男の姿を見てしまう。
絶叫。腰を抜かし、動けないようだ。パニックに陥り、訳のわからない言葉を連発する。
「ほら早く! しっかりしろ!」
俺は無理にヒロシを立たせ、腕を取り、扉まで走った。
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奇妙な男はもうすぐそこだった。
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扉には幸い鍵はかかっていなかった。すぐに中に入り扉を閉めた。力づくでノブを内側に引っ張る。だが、しばらくしても何の反応がない。
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「あ、あ、あれはなんだ、幽霊か」
混乱しているヒロシ。俺の後ろでぶつぶつ呟いている。
「このまままた戻るのは危険だ。ここから先に進もう」
ノブから手を離すと、後ろに振り返った。
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ヘッドライトが照らした先に、不穏に佇む階段がそこにはあった。
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Scene2
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「もうこれは仕事どころじゃないかもな」
階段を上りながら俺は言った。
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「そうですよ。というか問題があったって報告すればそれで成立ですよ」
ようやく落ち着いたようだ。ヒロシがまともなことを喋っている。
「さっきのところに戻る勇気はさすがに俺でもない。二階から逃げよう」
「そうですね」
会話を終えたちょうどの頃合いで、二階についた。左右にまたいくつかの襖が連なっている。
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さあ、どこから調べる?
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俺は、迷わず左にある手前の襖から調べることにした。また、化け物が出てくる可能性がある。念のため武器に代わるものを持っておこう。
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【道具】
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【カッター】【ガムテープ】
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―カッターを装備した。
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「開けるぞ」
ヒロシはこくり、と黙って頷いた。
そこは、一階とは異なり、あらゆるもので散乱した六畳程の部屋だった。そして、怪しい人影はいなかった。
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「この部屋荒れてますね。なんかあったのかな?」
確かにそうだ。あきらかに一階とは雰囲気が違う。俺は、落ちているものをざっと眺めてみた。
泥を被った衣服、湿った書籍、割れた食器……。この状況を見るからに、争った後の形跡だ。
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「ちょ、ちょっとノボルさん!」
「どうした?」
ヒロシの驚いた呼びかけに、俺はすぐにヒロシの元に駆け寄った。
「これ……」
ゆっくり床を指さすヒロシ。
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その先には、畳一枚分液体で湿った跡があった。屈んでみると、どす黒い色をしていることがわかった。
「もしかしてこれって……血ですかね」
後ろからヒロシが言った。この荒れた状況を考えれば、血液の可能性はなくもない、と思った。そして、あの奇妙な男を霊と考えるのなら、これはあいつの血なのだろうか。
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「もういい。これ以上ここのことを調べても仕方ない。そもそも夜に来たことが間違いだった。日を改めてまた調べればいい。とにかくここを出よう」
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俺は、ここが異常な場所だと理解できた途端、勝手にそう口が動いていた。恐怖からパニックが起こり、そして怪我をすることだってありえる。現場の責任者として俺は、正しい判断を下すべきだ。
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「とにかく窓を探そう」
俺とヒロシはその部屋の壁際を調べた。ヘッドライトを当てながら壁際に沿って歩くと、天井から床まで一枚布で覆われている個所を見つける。咄嗟に、布を捲るとガラスが一枚があった。しめた、と俺は「ヒロシ! ここから先外に繋がっているぞ」と声をかけた。
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「マジっすか!」と違う個所を調べていたヒロシが俺の元へすっ飛んでくる。
布はカーテンだったようだ。分け目を見つけ、勢いよくカーテンを開けた。室内に月光が差し込む。僅かながらも明るくなった。
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よかったと思ったが、すぐにして俺は言葉を失った。
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その先はちょっとしたベランダになっているのだが、そこには一人の女性がこちらを覗いていたのだ。腰まで伸びた髪の毛の間から見える顔は三つの空洞があり俺たちの方を見据える。纏っているワンピースはボロボロで、胸元から足にかけての至る部分に血痕が付着している。さっきの男の霊と特徴が似ていた。
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ヒロシはまたここ一番の悲鳴を上げた。女はゆっくりと窓を開ける。
「逃げるぞ!」
俺はまたさっきと同じく、腰を抜かしているヒロシを立たせ、逃げようとした。だが、出入り口に振り返ると、
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そこにはさっきの男の霊が立っていた。挟み撃ち。逃げるところを失った。
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さあ、どうする?
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・【カッターで戦う】
・【モノを投げつける】
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【カッターで戦う】を選んだ。
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俺は握っていたカッターの刃を全て伸ばし、男と女の霊に向けた。だが、二人の霊は依然に近づいてくる。
もうやぶかぶれだった。俺は男の霊の方に突っかかる。
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当然といえばそうなのかもしれないが、見事に男の身体をすり抜け、
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俺は勢いのまま前に転んでしまった。
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すぐに起き上がり、後ろを振り返ると、意外な光景が目の前で繰り広げられていた。
男と女の霊がお互いに掴みかかって争っている。俺は、瞬時にチャンスだと思った。
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「おいヒロシ! 今のうちだぞ!」
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近くでしゃがみ込んで耳を押えているヒロシ。俺は無理やりヒロシを抱え起こし、半ば背負う感じでその場から逃げ去った。
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玄関から飛び出る。もう後ろを振り返る余裕はない。門を捨て身で体当たりをしてこじ開けると、そのまま車まで突っ走る。まさに火事場の馬鹿力だ。
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「おい! ヒロシ!」
車の前まで来ると、ヒロシを一旦降ろす。呼びかけても未だに怯えているので、俺は助手席を開けて、ヒロシを持ち上げて無理やり押し込んだ。
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俺は慌てて運転席に乗り込みハンドルを握る。目の前には、やはり不気味な古屋敷が佇む。
早くこの場から離れよう。俺は車のエンジンをかけた。
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【Epilogue】
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俺は先ず、栄えた町を目指した。ファミレスでも何でもいいので、そこで落ち着きたい。そういえば、依頼書とチェックシートを忘れてきてしまったようだ。
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また、明日にでも日中に来れば問題ないだろう。ヒロシはもう連れてくるのはやめとこう。
助手席にいるヒロ縺ゅ>縺�∴縺� �撰シ托シ抵シ���スゑス� �ク�ケ�コ�ア�イ�ウ�エ�オ �ァ�ィ�ゥ�ェ繧ゥ譁�ュ怜喧縺代ヱ繧ソ繝シ繝ウ讖溯�繝サ遐皮ゥカ�樞包シ搾シ�ソ��。繹ア竭�竇���スゑス� �ク�ケ�コ�ア�イ�ウ�エ�オ �ァ�ィ�ゥ�ェ繧ゥ……。
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今ある状況は、今まで集めてきた道具や蓄積した思考を駆使して切り開いてきた結果だ。
そう考えれば、人生だってゲームであるし、自分が主人公でプレイヤーでもあるのだ。
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だが、プログラミングの技術が甘いとこうしてバグが起こってしまう。
これが、俺の詰めの甘さなのだろうか。
作者細井ゲゲ
三年ぶりの投稿です。
名前を細井ゲゲに改名致しました。
ホラーとゲーム、そして小説を組み合わせた実験的な小説を書いてみました。
まだまだ粗さはありますが、このアイデアをもっとよりよいものにするためにみなさんの
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