◆前回までのあらすじ◆
太樹(タイキ)と大樹(ヒロキ)は、一卵性の双子だ。
高校生の頃、2人は左右対称の館を探索する夢を何度も見た。
話を擦り合わせると、どうやら太樹(タイキ)は右、大樹(ヒロキ)は左と別れて探索している事を知る。
そして太樹(タイキ)の側には、大樹(ヒロキ)の姿をした何者かが居ると知った2人は、館からの生還を目指し、互いに協力し合う事を誓ったのだ……。
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………………何処だ?ココ……?
見た事の無い部屋だ。
辺りを見回すと、どうやら食事を作る部屋らしい。
一瞬、“あの夢”では無いのでは……と考えたが、双子のシンクロ特有の感覚が、“あの夢”だと告げている。
躊躇う事無く、部屋を飛び出す。
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廊下で、現在地を確認する。
背後……窓の外……階段の伸び方……
今いた厨房は、1階3つ並びの真ん中の部屋だ。
再び大地を蹴り、一気に2階を目指して突き進む。
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「どこ?!ドコ?……何処だぁ!!」
叫んでも仕方ないと知りつつも、気持ちが焦って仕方がない。
一刻も早く、開かねばならないのだ。
しゃがみこみ、乱暴に辺りを掻き回す。
……扉と階段の境……絶対此処にある筈だ!!
血走る眼に、キラリと鈍い光が留まる。
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「あっっったぁあぁ!!鍵ィィッ!!!」
全身から咆哮を上げ、大樹(ヒロキ)はそれを拾い上げた。
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………………何処だ?ココ……?
見た事の無い部屋だ。
辺りを見回すと、小さなテーブルと椅子のセットが数脚、崩壊した棚にボロボロの書籍が数冊見える。
雰囲気から察するに、ちょっとした談話室の様だ。
一瞬、“あの夢”では無いのでは……と考えたが、双子のシンクロ特有の感覚が、“あの夢”だと告げている。
躊躇う事無く、部屋を飛び出す。
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廊下で、現在地を確認する。
背後……窓の外……階段の伸び方……
今いた談話室は、1階3つ並びの真ん中の部屋だ。
それを確認したと同時に、気が付いた……“奴”がいない!
遭遇してから、背後にピッタリくっついていた、“奴”の姿が無い。
……これはチャンスだと、動き出そうとした
………………………その時………………………
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………ダ…ィィ……ギ…ヒイィイィィ…
…………タ…ィィ…ギ…イィイィィ…
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ノイズの混じった、ラジオの音の様な物が響き渡る。
酷く耳障りだ。
直ぐに分かった……奴が自分を探しているのだと…
恐怖で走り出したい衝動をグッと押さえ込み、じっと耳を澄ます。
………………近い。
だが廊下に奴の姿は無く、前方からは聞こえない。
自分は、3つ並びの中央から出てきたのだ。
……“奴”は一番端の『ホール』に居る筈だ!!
大地を蹴り上げ、一気に2階を目指して走り出す。
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shake
バンッッ!!
背後で、何かが弾ける音がした。
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shake
shake
……タァアァアイィィイキヒイィイィッ!!!
shake
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雄叫びが、木霊する。
声の濁りが多少消えて、後方から明確な気配が迫ってきた。
移動速度が、結構速い!
焦りと恐怖で形振り構わず、階段を駆け上がる。
涙と冷たい汗でグチャグチャだ。
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中央扉にしがみつく。
力一杯引き寄せて、力一杯叫んだ。
「ヒィロォォオォオッッ!!」
太樹(タイキ)の絶叫が響き渡る。
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小部屋の扉が、ガチャガチャ音を発てている。
どうやら鍵を開けるのに、悪戦苦闘している様だ。
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shake
「早く早く早く早く早く早く……頼むから!お願いだから!後生だから!!早くぅ!!!」
焦らせては逆効果だと、頭の片隅で冷静な自分が告げている。
分かってはいるが、追ってくるこの恐怖に、もう1秒も耐えられそうに無い。
ガチャンッ!
音と同時に扉が開く。
背後と……目の前の扉が同時に動く。
太樹(タイキ)は全身を投げ出す様に、目の前の扉に飛び込んだ。
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バンッ!……カシャンッ!!
倒れ込んだ太樹(タイキ)の背後で、大小それぞれの破裂音がする。
大樹(ヒロキ)が、扉と鍵を段取り良く閉めたらしい。
2人の男の吐く、はぁはぁという荒い呼吸の音が、静かな廊下に木霊する。
暫しの沈黙……そして…………
shake
「てめぇ、ふざけんなよ!あんなに急かされたら、手元が滑って仕方ねーだろ!!ちっとは考えろ!ボケェッ!!!」
shake
「ああん?!ふざけてんのは、てめぇだポンコツ!!こっちがどんな思いで走って来たと思ってんだ!鍵くらいサッサと開けろや!!このボンクラァ!!!」
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額と額を付き合わせて罵り合う……醜い兄弟喧嘩だ。
お互い激しく相手を睨み付ける……が、何故か口許はヒクヒクと震えてしまい、いまいち迫力が出ない。
「大体、てめぇが変なモンになつかれるから…こっちが苦労して、鍵探しなんか…………クフッ」
「…ふざけんな、お前が追い掛けてくんだから…お前が苦労すんのが…あた…当たり前だろ…プグッ」
…………多分、お互いにアドレナリンが出過ぎて、おかしくなっていたのだろう……。
堪えられないとばかりに、双子は同時に噴き出し、その場で笑いこける。
今しがた、施錠したばかりの扉が、向こう側からバンバン叩かれ、軋んでいるのさへ可笑しかった。
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「…………はぁ…なんか喉渇いたなぁ…?」
一頻り笑った、太樹(タイキ)が言う。
無事に本当の弟と合流出来た事、そして扉に施錠が出来た事で、大分気持ちが和らいでいる。
全て作戦通りだ。
「あ?…なら、1階行ってみるか?厨房があったから、水くらい飲めるかもよ?」
それに応じる太樹(タイキ)の口調も柔らかい。
先程の罵り合い等、まるで無かった様に緩やかなのは、やはり安堵感が大きいからだろう。
う~んと太樹(タイキ)が唸り声を出す。
「……そうだなぁ、考えたら俺、この館で廃墟と何も無い部屋しか見てねーし……ちょっと寄り道してみるか!」
足取りも軽く、双子は1階を目指して歩み出した。
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1階3つ並びの部屋中央……今夜の夢で、大樹(ヒロキ)が最初にいた厨房だ。
蛇口を捻ると、美しい水が出た。
冷蔵庫には幾つかの食品と、ミネラルウォーターが入っている。
「……水はヨモツヘグイに入るのかな…?」
大樹(ヒロキ)の疑問に、太樹(タイキ)が答える。
「そのミネラルウォーターは、怪しいかもな?」
「だが、流れ水は含まれない……多分、な?」
そう言って、止める間もなくゴクゴクと、蛇口の下に突っ込んだ喉に水を流し込む。
「プハッ!五臓六腑に染み渡るぅ!!」
「あ、それ俺が言いたかったのに……」
ブツブツ言いながら、大樹(ヒロキ)も喉を潤した。
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その後、2人はどうせだからと残りの1部屋も確認する。
中は豪奢な食堂で、如何にも高そうな装飾が施されていた。
「生活するなら、左半分で事足りるな……右半分は娯楽施設だったのか…?」
太樹(タイキ)が小さく呟いた。
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事態が急変したのは、3階の廊下……そろそろココを出ようと、外階段を目指した時だ。
「…………何だよコレ……ふざけてんのか……?」
大樹(ヒロキ)の声が震える。
「………………ウソ……だろ…?」
太樹(タイキ)の顔色は真っ青だ。
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外階段へと続く扉が…………………………無い。
まるで最初から存在していないかの様に、古びた煉瓦の壁がそびえている。
「は?何でだよ?俺、ココから入って来たんだぞ?」
ペタペタと壁をまさぐりながら、大樹(ヒロキ)は喘ぐ様に言葉を絞り出す。
信じられないのは、当然の事だ。
しかし、太樹(タイキ)は意外に冷静だった。
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「……ちょっと落ち着け、大樹(ヒロキ)……リアル過ぎて忘れてるかもしれないが、これは“夢”だ…何だってあり得る。」
「何だってって……じゃあ、どーすんだよ?」
噛み付く大樹(ヒロキ)を手で制して、太樹(タイキ)が言葉を紡ぐ。
「お前、男の部屋が在るって言ってたよな?そこに連れてってくれ。」
「多分、そこが館の主の部屋だ……何かヒントがあるかもしれない……。」
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2階3つ並びの部屋中央……男性の部屋
「おっ!紙があるな、ちょうど良い。」
太樹(タイキ)が重厚なデスクの上で、サラサラとペンを動かす。
何をしているのかと覗き込むと、この館の見取図を描いていた。
「いや、部屋数が多いから、いざって時に迷わない様に…な?」
廊下も部屋の並びも同じだから、紛らわしいだろ……そう言って、1つ1つの枠に何の部屋か書き込んでいく。
その間にも、太樹(タイキ)の口は、忙しなく呪文の様な言葉を繰り返している。
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「3階建ての建物……3部屋の並び……3人の男……」
最初のうち、何の事だか分からなかった大樹(ヒロキ)にも、段々と言葉の意味が理解出来てきた。
「全部“3”……全部“3”じゃんか!!」
やや、興奮気味に大樹(ヒロキ)が言うと、太樹(タイキ)が頷く。
「ああ、だから思ったんだ……入口が2つで出口が1つ……これで出入口も“3つ”なんじゃないか?……てな」
目を輝かせる大樹(ヒロキ)、それと対照的に太樹(タイキ)の表情は、暗い。
「でもそこが、何処なのかが分からん…クソッ、良いとこまで来てんのに……!」
その言葉に、大樹(ヒロキ)がキョトンとした顔をした。
「……えっ?何ボケてんの、太樹(タイキ)……?そんなモン、3つ目の場所だろ?」
「…………………………3つ目の場所……?」
マジマジと大樹(ヒロキ)を見詰める太樹(タイキ)の目は、『コイツ何言ってんだ?』と物語っている。
そんな兄の掌から、大樹(ヒロキ)がペンを引ったくった。
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「いや、俺も太樹(タイキ)が描いたコレ見るまで、気付かなかったんだけどさ……」
そう言って、紙に描かれた建物の中心をペンでぐるりと囲む。
「この館、“左側”と“右側”の2つに別れてんじゃ無くて、“左”“右”“中央”の“3つ”に別れてんじゃね?」
「ほら、『3階建て』『3部屋の並び』……条件満たしてんじゃん?!」
大樹(ヒロキ)の囲んだ丸の中には、縦に並んだ3つの小部屋が描かれていた。
太樹(タイキ)が、ハッとした顔で弟を見る。
「3階建て、縦並びに3部屋……そうか!!出口は『玄関』か!!」
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初めてこの館の夢を見た時、鍵が架かっていて開かない玄関を、2人共に見ている。
位置的に考えて、正面玄関の場所は間違いなく、1階中央の小部屋の中だ。
「あの時、玄関が開かないから、外階段を使ったんだった……そうか…出口専用か…」
太樹(タイキ)の言葉に、今度は大樹(ヒロキ)が大きく頷く。
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「ただ問題が無い訳じゃない…俺達は、1階の小部屋の鍵を持ってない……。」
と、大樹(ヒロキ)が言う。
「…………鍵を管理してる可能性は、館の主か奥方だ……此処か隣か…捜すぞ。」
と、太樹(タイキ)が応じる。
双子の兄弟は、感じていた。
この長い冒険に、漸く終わりが近付いている事を…。
そしてそれは……決して平坦な道では無いという事も……感じとっていた…………。
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後編2 完結編へ続く……
作者怪談師Lv.1
長い駄文にお付き合い頂き、有り難うございます。
まさかの後編2部構成(笑)、今回は少し作品の裏話を。
この夢の話は、僕と僕の双子の実体験を元に、一部盛大なフィクションを入れて書いています。
実際は兄の僕は大樹(ヒロキ)、弟が太樹(タイキ)の夢を見てました。
のほほんとした兄なので、弟が死ぬほど怖い思いをしている時に、純粋に探索を楽しんでいましたw
因みに、
・シンクロの感覚はマジに感じます。
口では説明出来ないんですが、某漫画の言葉を借りると『通じたと体で感じた』というやつです。
・太樹(タイキ)と大樹(ヒロキ)では無いですが、実際もこんなややこしい名前をしてます。
親が『大きくなった時に、名前の事で喧嘩しない様に』似た字面で付けたそうですが、郵便物を間違えて開けたり、病院でカルテ間違われたり、なかなかハードルが高いです……おとん(´・ω・`)ショボン
・双子の左右の分担は、食事を与える際、親が子供の面倒をみる為に自分の両脇に、座らせる事から始まる様です。
僕は左、弟は右……利き手も僕は左ベースの両利き、弟は右ベースの両利き……まだ布団を並べて寝てた頃、反対に寝かされても、朝には入れ替わって寝てる徹底ぶり(笑)
某漫画の言葉を借りると『馴染む馴染む』という感じです。
ご感想を下さる皆様、怖ポチして下さる皆様、そして何より、こんな長い話を読んで下さる皆様!
本当に感謝しております!とても励みになっております!
最後が一番クソ長いのですが、謎解き?編です。
選択肢の無い3流ホラーアドベンチャーだと思って、お付き合い頂けると幸いです。
有難うございましたm(__)m