※注意※
このお話は最終話です。
先に『太樹と大樹 ータイキとヒロキー 後編1双子編』をお読み下さい。
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女性の部屋というのは、どうも居心地が悪い。
ホラーアドベンチャーのゲームでは、そんな事はお構い無しに家捜ししているが、実際に自分がやるとなるとそうもいかない……。
さて一体、何処から手を付けて良いものやら……と、太樹(タイキ)は溜め息を漏らす。
今更ながら、自分のジャンケンの弱さを呪いたくなる。
しかし、そんな事を言っている場合では無い。
何と無く感じるのだ……この建物を脱出できなければ、自分は永久に目覚める事は出来ないと……。
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「…………開けますよ…」
誰が居る訳でも無いが、一応声に出して断りを入れ、太樹(タイキ)は机の引き出しを引っ張り出す。
中には、如何にも女性らしい美しい色彩の、ノートや紙が入っていた。
肝心の『鍵』は無い。
他の引き出しも開けてはみたが、手懸かりになりそうな物さへ見付からない。
諦めて、机から顔を上げる。
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今度はピアノに近付く。
ゲームでもドラマでも、ピアノには秘密が隠れている事が多い。
現実にはただの楽器なのだろうが、此処は夢の世界だ。
少なからず、自分達の潜在意識も影響しているかもしれない……そう考えたのだが…………
「………………甘い、か……」
……何も無い様だ。
大体、太樹(タイキ)はピアノを知らない。
調べると言っても、付いている蓋を開けて中を覗く位が関の山だ。
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おまけに触れてみようとして、置いてあった楽譜を、派手に落としてしまった。
「嗚呼~!もうっ!!」
反射的に拾い集める太樹(タイキ)の指先に、1枚楽譜ではない紙が触れる。
何かの走り書きの様で、癖のある読みにくい文字が並んでいた。
何気無く目を走らせる。
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沢山の者は『死』を憎む……そこには消滅しかない。
迷える者は神にすがれ……母なる者の掌(タナゴコロ)が、望みの物を抱く×
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紙を睨み付けたまま、暫し固まる。
太樹(タイキ)の中でザワザワと何かが暴れだす。
頭の中をぐるぐると、大好きな漫画の台詞が回り捲っていた。
『みるという事は、見る事では無く観察(ミ)る事だ』
そんな風に書いてあった。
今、太樹(タイキ)は走り書きを観察(ミ)ている。
必死に頭と全神経をフル回転させる。
ポケットから乱暴に引っ張り出した、手書きの見取図を並べ、交互に観察(ミ)ては唸り声を出す。
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やがて……太樹(タイキ)はゆっくりと顔を上げる。
「駄目だ…俺だけじゃあ、半分しか解らん!」
叫ぶ様に、敗北を宣言した太樹(タイキ)は、スクリと立ち上がり部屋を出た。
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廊下に出て直ぐ、左目の端に違和感を感じた。
特に考える事も無く、左を向く。
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「ウソだろ?!」
叫びそうになって、慌てて口を塞ぐ。
施錠をした筈の中央扉が……開いて小部屋の扉が見えている!
それはつまり……『奴』が左側に侵入したという事だ!!
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カタン……
下の階で微かに音がした。
……俺達が1階に行くって言ってたから、下に行った……のか?
汗が吹き出る。
呼吸が乱れる。
心臓が、音を発てて暴れだす。
太樹(タイキ)は全身の音を殺すつもりで、静かに動く。
そのまま、大樹(ヒロキ)のいる男の部屋の扉を開けた。
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「太k」
喋り出そうとする大樹(ヒロキ)に、黙れとハンドサインを出し、小声で早口に話出す。
「ヒロ、奴が近くに居る!お前は此処を動くな!隠れてろ、俺が囮になって奴を引き付ける!」
「奴が上に上がる気配がしたら、お前は右側に行って、『礼拝堂』を捜せ!」
「俺が思うに1階のすぐの部屋だ……そこはまだ見てない!!マリアを捜せ、鍵があるとしたらそこだ。」
大樹(ヒロキ)の手に、あの走り書きを握らせて、言いたい事だけ言うと、部屋を飛び出す。
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正直、自信があった訳ではない。
あの走り書き自体、信用して良いのかも分からない。
しかし、今はそれに賭けるしか道が無い。
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階段の所で、わざと大声で叫ぶ。
「俺は3階に行くぞーッ!!!」
耳を澄ますと、1階でガタゴトいう音が聞こえる。
それを確認すると、太樹(タイキ)は全力で階段を駆け上がった。
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「俺は3階に行くぞーッ!!!」
太樹(タイキ)の叫び声が聞こえた。
直後にドドドっと足音が響き、数分遅れてまた足音が近づき……遠ざかって行く。
万が一、奴がココに来た時に備えて、ベットの下に潜り込んでいた大樹(ヒロキ)は、足音が完全に消えたと判断して、静かに這い出る。
太樹(タイキ)が心配だった。
それと同じくらい、恐怖で逃げ出したかった。
太樹(タイキ)は凄い……心からそう思う。
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『対策を練ろう』と話し合ったあの時、太樹(タイキ)は大樹(ヒロキ)が奴と会う事を反対した。
オカルト好きの太樹(タイキ)は、『アレが大樹(ヒロキ)のドッペルゲンガーだったら』と、大樹(ヒロキ)の事を心配したのだ。
だから、中央の扉を開ける時も、大樹(ヒロキ)に扉の陰から出ない様にと指示していたのだ。
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太樹(タイキ)は凄い……心からそう思う……だからこそ歯を食い縛って、行動を開始する。
それが太樹(タイキ)の優しさに報いる、たった1つの方法だから。
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大樹(ヒロキ)は右側の建物、1階の廊下に立っていた。
「……また鍵探しか……しかもこのメモ…」
呟いて太樹(タイキ)から渡された、走り書きのメモを見る。
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沢山の者は『死』を憎む……そこには消滅しかない。
迷える者は神にすがれ……母なる者の掌(タナゴコロ)が、望みの物を抱く×
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…………確かに迷ってますけど。
…………母なる者=マリア様も分かりますけども。
…………望みの物があるのも事実ですけども。
「……後半の一文見て『礼拝堂』って言ったんだよな?……『×』付いてるけど大丈夫か?」
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17年、太樹(タイキ)と双子をやっている。
頼りにもしているし、ぶっちゃけ2人でいれば、考えるのは太樹(タイキ)の仕事だ。
そして大樹(ヒロキ)には、太樹(タイキ)の思考回路が良く分かる。
「『×』を“走り書きの+(クロス)”と読んで、『礼拝堂』……分かるけど……本当に“バツ”で罠だったらどうすんだ?」
一人言が多いのは、不安な時の大樹(ヒロキ)の癖だ。
しかし、立ち止まっていられないのも、良く分かっている。
「…………当たって砕けるか!!」
………………いや、砕けるのは不味いですけども。
自分の言葉に、自分でツッコミを入れつつ、大樹(ヒロキ)はその部屋に足を踏み入れた。
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「タイちゃん、ビンゴーッッ!!!」
大樹(ヒロキ)の声が、半壊した礼拝堂に響き渡る。
実に5年ぶりに太樹(タイキ)をタイちゃんと呼んだのだが、そんな事はどうでも良い。
礼拝堂は存在したのだ。
急いで、マリア像を捜す。
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「またまた、ビンゴーッッッ!!!」
何だか、泣きたくなってきた。
崩れて、瓦礫が積み上がったそこに、腰の辺りからボッキリ折れて横たわる、マリア像を見付けたのだ。
後はマリア像も手に乗っている鍵をゲットすれば、太樹(タイキ)のトリプルビンゴだ。
瓦礫に注意を向けながら、眠るマリア様に近付いて行く。
「………………鍵……無い?」
大樹(ヒロキ)の声が、一気に乾く。
マリア像の手の平は、今や縦になっている。
手が横を向いていた時とは違い、受け皿の役目を果たしていないのだ。
…………と、なると、鍵はマリア像から滑り落ち、この瓦礫の何処かに消えた事になる。
「………………………………ウソだろ?!」
絶望的な声を上げて、大樹(ヒロキ)が這いつくばる。
結局、こうなる。
なんでこうなる。
……太樹(タイキ)め、覚えてろ!
ありったけの八つ当たりをぶちまけながら、大樹(ヒロキ)の鍵捜しは始まった。
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左側3階 寝室
太樹(タイキ)がその部屋に飛び込んだのは、一番隠れる場所が多いのは、寝室だと考えたからだ。
だが、逃げ込んだ直後、目に飛び込んできた物に太樹(タイキ)の心は奪われた。
ずっと進まなかったパズルが、たった1つのピースによって突然完成した様なこの感じ……。
草木1本存在しなかった砂漠が、スコールの後に森に変身するかの様なこの感じ……。
走り書きのメモが、頭に蘇る。
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沢山の者は『死』を憎む……そこには消滅しかない。
迷える者は神にすがれ……母なる者の掌(タナゴコロ)が、望みの物を抱く×
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「…………そうか……そういう事…か……」
一人言を呟いて、慌てて体を動かす。
……こうしてはいられない。
他の部屋と繋がる、内扉に施錠をしなくては……出入口は1つが良い。
鍵を掛けた瞬間、隣のリビングの扉が、バタンッ!と派手な悲鳴を上げる。
どうやら奴が来た様だ。
内扉が施錠されている事に気付けば、太樹(タイキ)が隣の寝室にいる事にも気付く筈だ。
太樹(タイキ)の体が素早く動く。
チャンスは1度しか無い、急がねば!
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太樹(タイキ)が動く音を聞いて、奴が隣の部屋から出てくる音がする。
廊下に、ノイズがかった不快な声が木霊する。
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………ダ…ィィ……ギ…ヒイィイィィ…
…………タ…ィィ…ギ…イィイィィ…
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人の不安を煽る、嫌な声だ。
まるで壊れたレコーダーの様に、何度も何度も太樹(タイキ)の名前を繰り返している。
ゆっくりと、扉の前で立ち止まる。
気配は、中の太樹(タイキ)にも伝わっていた。
一気に緊張が膨れ上がる。
その瞬間が、刻一刻と迫っていた。
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…………イィィイィイィ……
蝶番の軋む音が、やたらと響く……
…………タ…ィィ…ギ…イィイィィ…
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扉が……………………開かれた……!
狂気じみた“大樹(ヒロキ)”の目が、太樹(タイキ)を探して室内を見る。
……だが…………………………
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扉の正面には、室内に配置されていた鏡がある。
正確には、三面鏡のドレッサーだ。
その鏡面が一斉に、“大樹(ヒロキ)”の姿を映し出す。
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アアァアァァア…… …………ィィ……ギ…ヒイィイィィ…!
室内に、狂ったノイズが響き渡る。
喉を掻き毟る様な仕草を見せて、“大樹(ヒロキ)”の姿が崩れ始めた。
……………ィィ…ギ…イィイィィ…アァァアァァア…………
“大樹(ヒロキ)”が溶けていく。
ボタリボタリと肉が落ち、床に染みとなって消えていく……
やがてそれは……ノイズの余韻を耳に残して、床の染みに変わった。
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沈黙の中、太樹(タイキ)は漸くベットの下から這い出してくる。
消滅をその目で見ていても、恐怖の余韻で出られなかったのだ。
後に残ったのは、どろどろに溶けた鏡面の三面鏡と、こちらもどろどろに溶けた男の水溜まりだけ。
「………………ビンゴ……だったか…」
呟く太樹(タイキ)の声が震える。
太樹(タイキ)を救ってくれた物……それはやっぱりあの走り書きった。
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沢山の者は『死』を憎む……そこには消滅しかない。
迷える者は神にすがれ……母なる者の掌(タナゴコロ)が、望みの物を抱く×
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この館のもう1つのルール、それが『沢山の者は『死』を憎む……そこには消滅しかない。』だ。
「3(サン)は4(シ)で消滅……単純で良かったんだよな~。」
それに気付いたのは、部屋に入って三面鏡を見付けた時だ。
コレを使えば、1つの空間に4人の人物を出現させる事が出来る。
鏡が有効なのかは分からなかったが、自分の姿が映らない様に、移動するのには随分、骨を折った。
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かなりの賭けではあったが、ずっと引っ掛かっていた、『何故、偽大樹(ヒロキ)は現れたのに、偽太樹(タイキ)は出て来ないのか?』という疑問も、スッキリした。
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「あくまで3に拘る訳だ……という事は!今消した分、また違う3人目が現れるのか?!」
またしても時間が無い。
早く大樹(ヒロキ)と合流して此処を出なければ、3の無限ループに嵌まってしまう。
何だってこの夢は、俺をこんなに走らせるのか……?
……愚痴を言っても仕方がない。
涙目になりつつ、太樹(タイキ)はコレが最後とばかりに、全力で走り出した。
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階段を一気に駆け降りた太樹(タイキ)を、開け放たれた1階の小部屋が出迎える。
他の階の小部屋より、随分明るい……玄関がある証拠だ。
推理は見事に的中した様だが、大樹(ヒロキ)の姿が見当たらない。
小部屋が開いているという事は、大樹(ヒロキ)が鍵を手に入れて、開放したという事だ。
「大樹(ヒロキ)!!何処だ?!何処にいるっ!!」
大声で大樹(ヒロキ)を呼ぶ。
…………返事はない………………何かあったのか?
まだ右側の建物にいるのかと、小部屋に飛び込む。
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次の瞬間、玄関にあたる場所から、眩い光が射し込んできて太樹(タイキ)の体と意思を包み込んだ。
…………………………嗚呼……玄関を開放すると…………強制終了なのか……
光の中で、太樹(タイキ)は考える。
まるで下手なRPGのエンディングみたいだ……そんな思いを残して、太樹(タイキ)の意識は光に溶けていった。
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「太樹(タイキ)!!太樹(タイキ)!!起きろよ!太樹(タイキ)!!」
目を覚ますと、見慣れた部屋の天井と、コレまた見慣れた双子の弟が、上から太樹(タイキ)を見下ろしている。
ぼんやりとする寝起きの頭が、現実の覚醒を拒否している。
「ウオオッ!起きたぁ!!心配させんな、バカ野郎~!!!」
涙目で吐き捨てる大樹(ヒロキ)を見て、やっと頭が回り出す。
どうやら、無事にミッションクリアの様だ。
「ああ……………お疲れ。」
最初に出た言葉に、大樹(ヒロキ)が目を白黒させる。
「…………………………は?何だ……それ?」
呟いて大樹(ヒロキ)が笑い出す。
爆笑のあまり、寝ている太樹(タイキ)に飛び乗ってくるから、太樹(タイキ)も堪った物ではない。
「おい、馬鹿、やめろ!大樹(ヒロキ)」
言いながら、大樹(ヒロキ)につられて笑い出す。
朝方の室内に、双子の馬鹿笑いが響き渡る。
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一頻り笑って、大樹(ヒロキ)が顔をあげた。
「……しかし、本当にビビったよ……漸く鍵を見付けて、玄関開いて『俺達!完全勝利!!』って思ったのに、太樹(タイキ)全然起きなくてよぉ!んで、漸く起きたと思ったら『お疲れ』って、何だそりゃ!」
おどけた口調で大樹(ヒロキ)がからかう。
それに応えて、太樹(タイキ)も負けてない。
「ああ?!何が『完全勝利!!』だよ、馬鹿!俺の事、置き去りにしやがって!こっちは1歩間違えりゃあ、死ぬとこだったんだぞ!!」
責めるつもりは毛頭無い、努めて明るい口調で反撃した……つもりだった。
しかし、どうやら失敗した様だ……大樹(ヒロキ)の笑顔が凍り付く。
「おい、気にするなよ!玄関開けたら強制終了何て、知らなかったんだから!先に戻っても、怒ってないって!」
慌ててフォローを入れるが、遅すぎた様だ。
大樹(ヒロキ)の笑顔が、完全に消えた。
「…………ウソだろ?」
泣き出しそうな声色で、大樹(ヒロキ)が、呟く。
「ウソじゃねーよ、俺は本当に気にしてなんk」
「俺達『一緒』に帰ってきたじゃねーか!!!」
大樹(ヒロキ)の絶叫に、今度は太樹(タイキ)が凍り付く。
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………イ…ィィ……ロォ…ヒイィイィィ…
…………ヒィ…ィィ…ロ…オキイィィ…
………………廊下でノイズの様な声がした……。
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完
作者怪談師Lv.1
◆Special Thanks◆
★珍味様
貴方のご感想がなければ、この話は終わりませんでした。
★My twin brother
僕と同じオカルト好きだから、このサイト見てる?ゴメンね?
★mami様
隅じゃない!重箱のど真ん中だったΣ(´□`;)修正出来ました……でしょうか?。
★And you
読んで下さった全ての皆様へ、感謝を込めて…
◆お疲れ様でした!そして有難うございました!!◆
◆中途半端な感じで終わってすいません……◆
◆◆◆End◆◆◆
Present by 怪談師Lv.1