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長編10
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暑中見舞い…、

梅雨が終わり、夏休みが近づいてくる今頃…、

私は、毎年、ある出来事を思い出します…。

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それは、私が中学生で、妹が小学校の高学年の年の事でした。

私の家では、夏休みが始まると同時に、

担任の先生と、お稽古の先生と、クラスメイト達に、

暑中見舞いを書く…、という恒例の習わしがありました。

と言うのも、8月に入ると同時に新学期が始まる1週間前までの間を、

母の実家に帰省するので、友達と全く遊ぶ事がないので、

母の教えで、

「また、2学期も、元気に登校して仲良くしようね?」と

挨拶をしておきなさいと、夏休みと同時に、ハガキを手渡されるのです。

私は中学生になってからは、仲のいい友達と、小学生の間、お世話になった先生、中学でお世話になってる先生、

仲良しの先輩、そしてお稽古の先生と書く相手に変化がありましたが、

妹は、小学校の6年間、ずっと1クラスで変わる事のないメンバーに、書いていました。

妹が私に、

「私も、違う人に書きたいよ。毎年毎年、同じ人の名前ばっか…。書く事ないし…。」

と、愚痴をこぼしました。

私も、小学校の間は、

ずっと代わり映えのないメンバーへの暑中見舞いを、

苦痛に思っていた頃があったので、

少しでも気が楽になるようにと、

「でも、毎年送ってて、来なくなったら、友達心配するかもよ?たくさん、文を書くのが嫌なら、

『夏休み、楽しもうね。』って書いて、絵とかで隙間を埋めればいいんだよ。」と、言いました。

私、絵、下手だもん…、

そう言う妹に、私は、

こうすれば良いよと、

ハガキいっぱいに大きなスイカの絵を描き、真ん中に、

夏休み楽しんでね、元気に過ごしてね、2学期もよろしくねなどの文を書けば良いと、お手本を書いてやりました。

妹は、

「スイカなら描ける!色も緑と黒だけだし!

それにするッ!」と言いました。

いつもは、ダラダラなかなか進まない作業が、

その年は、たったの3日ほどで書き終え、

妹がクレヨンを使って描いたスイカの絵が、

なんだか味があって、

それに、最初は丸いスイカばかり描いていたのに、

三角に切り分けたスイカも描いていたりして、

母はそれらを見て、

「今年はとっても、素敵なのが描けたね。

夏らしくて、良いじゃない。」と、

妹を褒めていました。

私達が書き上げた暑中見舞いは、

父と母の暑中見舞いの書き上がりを待って、

母の実家に帰省する前の日に、ポストに投函されました…。

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8月の間、母方の実家で、

普段の田舎とはまた違った、海のある田舎暮らしを堪能し、

私達は、家に戻って来ました。

荷物を片付け、ご近所にお土産を持って行き、

ようやく落ち着いた頃に、留守の間の郵便物をチェックします。

我が家は、玄関の扉にポストの口がついていて、

郵便屋さんがポストの口に手紙を入れてくれると、

それらは扉に取り付けた箱の中に溜まるようになっていました。

これは、外にポストを設置していて、野生の猿にイタズラされ、郵便物をグチャグチャにされた時に、父が手作りで作ったものでした。

箱の中に溜まった、およそ1ヶ月分の郵便物を、私は宛名を見ながら、両親、妹、私…、と、

仕分けて行きました。

半分ほど、仕分けた頃に手に取ったハガキを見て、

私は、ん?と首をかしげました。

ハガキではあるのですが、どこか波打ち、なんだか薄くシミが走っているのがわかりました。薄くなんだか文字が書いてあるのがわかる程度で、全て読む事は出来ません。

宛名を確認するため、裏返した時、

ギョッとしました…。

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そこには、新聞の切り抜きで、我が家の住所が貼られており、

宛名は、妹でした。

私は一瞬、それを箱に戻したのですが、

妹がすかさずそれに気付き、

「何?今の。見せて見せて?」

そう言って、私から箱を取り上げました。

箱を裏返し、箱の中身にたくさん入っていた郵便物を全て出してしまい、

私と母が、

「何やってんの、散らかしてえ。」と言いながら、

手紙やハガキを拾い集めました。

妹は、先ほどの、私が隠そうとしたハガキを探すため、

「違う、違う…。」と言いながら、

拾ってはポイっ、拾ってはポイ…、と、

目的以外のものを、全てあちこちに放り投げています。

私はそれを拾いながら、また仕分けを始めました。

その時…、

「見つけたッ!これだッ!」

大きな声をあげて、立ち上がった妹の手には、

先ほど私が見た、少し変わったハガキがありました。

母も、妹の持つハガキの宛名が、新聞の切り抜きであることに気づき、

「何なの、その、悪趣味なハガキは?」と、

とても、苦い顔をしました。

「わかんない。でもなんか、シミが付いてるよ?

っていうか、なんか書いてるみたい?」と

私達にシミのある方を見せてきました。

「何これ?何で書いてあるのよ?ちゃんと読めないね、これ?」母は首をかしげていましたが、

私は妹に、

「ねぇ、それ、あぶり出しになってるんじゃないの?」と言いました。

果物や野菜などの絞り汁で予め何か文字や絵などを書き、

乾かすと一見、何も書いていないように見える。

しかしそこに、熱を加えると、書いている事が浮かび上がるという仕組みのあぶり出し…。

私は、うっすらと浮かび上がったシミを見て、

家の中の熱くこもった熱で浮かび上がったものではないかと、妹に言いました。

「ただ、全て確認できるほどの熱がなかった為、

シミのようになったんじゃないの?」と…。

妹は、

「そういえば、1年か2年の時に、朝顔の絞り汁だかで、そんな事したような気がする。」と言い、

私に、

「どうしたら、全部読めるの?」と聞いてきました。

貸してみな?

そう言って私は妹からハガキを受け取り、

台所に行って、ライターの火でハガキを炙りました。

思った通り、それは炙り出しで、

熱に反応して、フワァ〜っと、書いてる事が浮かび上がってきました。

それと同時に、

最初はニコニコしていた妹の顔は、見る見るしかめっ面になり、

私は目を見開きました…。

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浮かび上がった文字は、

「夏休みが終わっても、

学校には来ないでね。」

…とあり、

その下には、

何やら、人のようなものが横たわり、お腹の部分から血が飛び出てる様子を描いたようなものがありました。

ちょっと、何よ、これ。

私はそう言いながら、妹の顔を見ました。

妹は、顔を真っ赤にして、眉間にしわを寄せ、口はへの字に曲がって、明らかに怒っていました。

私は、もう一度宛名が書いてある方を見て、誰が書いたものか確認しようとしたのですが、相手の名前も住所も、

書いてませんでした。

炙り出されたハガキが明らかに嫌がらせな事は見て取れ、

それにわざわざ名前を書くような人間なのであれば、

逆にこんな手の込んだ嫌がらせはしないか…、

私は妙に納得しながら、

「あんた、大丈夫なの?学校で、友達とか、うまくやれてるの?」と聞きました。

「うるさいッ!!」

私の手から、ハガキをきつく取り、

ぎゅーッ!と、

顔の前で、両手で握りつぶしています。

フルフルと肩が震えていて、

それが悲しいからではなく、

怒りによるものだと分かるほどの表情でした。

目は皿のようになっていて、

こめかみに血管が浮いています。

あー、これは、またひどく怒り狂う…、

八つ当たりされないように逃げないと…、

私がそう思った時…、

妹が、

「あれ?」と声をあげました。

そして、握りつぶしたハガキを鼻に押し付け、

スーーーーーッと、

深く鼻で息を吸いました。

そして、少し驚いた顔をして、

「この匂い、知ってる…。」

そう言ったのです。

妹の顔からは、怒りは消えており、

代わりに、目がキラキラとしていて、

私はその変わりっぷりに、ゾクッとしました…。

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それから、特に妹が荒れることもなく、

絵の課題を仕上げたり、自由研究をまとめたり、宿題に抜けがないかのチェックをしてあっという間に、新学期が始まりました。

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新学期が始まって、3日目の夕方、妹の担任の先生が、夕方、母の帰りを待っていたかのように、我が家にやって来ました。

新学期早々の担任の、家への訪問…。

また何か、問題を起こしたのか…、

母は先生を居間に通し、

妹を呼んで、

私はその横の小さな和室で、洗濯物を畳んでいました。

居間と和室の間に扉はなく、話す声は筒抜けでした。

「何をしでかしましたかね?」

母が先生に尋ねます。

先生は、

「実は、これを見ていただきたくて…。」

何か紙のようなものを広げているようでした。

「自由研究で、これを提出してきました。」

先生はそれだけ言って、ん〜っ、と唸るような声をあげていました。

しばらくの間をおいて、

母が

「これ、何なの?」

妹に聞いているようでした。

妹は、特に悪びれる様子もなく、

「自由研究だよ。自由、なんだから、良いんじゃないの?

私は、事件の謎解きをしたんだよ?」

そう言いました。

私は、辛抱が堪らなくなり、ヒョコッと台所に行くフリをして、居間に行きました。

通りすがりに、母の後ろから、母が持っている画用紙を覗くと、

そこには、あの日の炙り出しの気持ちの悪いハガキが貼られていて、

その下に、

『犯人は誰だ!』

と、赤く太い字で題打ってありました。

「あんた、これ…」

思わず声が出た私を、

母と先生が、同時にすごい顔で私を見てきて、

「この事、知ってるの?」と母は聞いてきて、

「これを宿題にしてた事も知ってる?」と先生が聞いてきました。

先生には、そこまでは知らないと答え、

母には、これ、旅行から帰ってきた日の手紙の中にあったんだよと答えました。

「そうだよ、書いてあるでしょ?」

妹は平然と答えます。

母の持つ、妹の自由研究は、

このハガキを送ってきた犯人を見つけ出します、といった内容のもので、

ハガキは、めくって宛名が新聞の切り抜きで書かれている事が誰でも確認出来るように、左側だけがテープで貼られてありました。

その下に題があり、

そして、1.ハガキに気づいた過程、2.内容に気づいた過程、

3.自分はその時どう思ったか

を書いてあり、普段、作文や日記を書くのに、頭をかきむしっている妹が書いたとは思えない程のものでした…。

さらに内容は、4.どの様に犯人の目星をつけたか…、に続きます。

『ハガキに顔を近づけた時、私はある匂いに気付きました。

それは、何度も遊びに行った事のあるお友達の家の匂いでした。』

私はとっさに、あの日の妹を思い出しました…。

確かに、あの時、怒り狂っていた妹は、匂いを嗅いだ後、

キラキラと目を輝かせていたのです。

あれは、自分を悲しませよう、貶めようとした相手を、

確実に見極め、そして、狙いを定めた瞬間だったのです。

5.犯人に確かめる。

『私は、そのお友達のお家に、お土産を持っていくついでで、ハガキも持って行き、こんなものが届いたと言いました。その子は、私じゃないよと言いましたが、このハガキからあんたの家のにおいがすると言うと、その子は少しあわてていました。それでも、その子は、私じゃないと嘘をつきました。

私は、それ以上は、1人では出来ないと思いました。

明日も来るから。本当の事を、早く言ってね?と言いました。』

この様な内容だったと思います。

…これは全く知りませんでした。

しかし、妹は密かに、その子を追い詰めるために、行動していたようです。2、3日、続け様に家に行き、その子に毎日同じ事を言って帰ったと続きに書いてありました…。

聞くと妹は、この時の事を、

「あんたがいなかったら、あんたの親に言うから。」

そう言って、逃げられない様にしたと言いました。

6.『何度もその子にウソはやめてと言いましたが、聞いてくれませんでした。

そこで私は、これを自由研究として、みんなにもこのハガキのにおいをかいで欲しいと思いました。

そして、誰の家のにおいか、犯人を見つけ出したいです!』

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誰も何も言えずに静まり返る中、

妹は

「ねぇ、テレビ見てくるね?」

そう言って居間から出て行ってしまいました。

私もあまりの空気の重たさに、

お風呂に入ると言い、その場を離れました。

母と先生は、私がいるから話せなかったのか、

妹の飄々とした態度に気圧されていたのか、

私達が居なくなった後、何やら話し込んでいました。

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次の日、夕方、家に帰ると、

妹はふてくされた顔をして、テレビを見ていました。

機嫌悪そうだなァと思っていると、

妹が私の方を見て、

「あのハガキの子、やっぱり思ってた子だったよ。

今日、先生に呼ばれて、3人で話をした。

あの子ってば、バカみたいに泣いてて…。

ちょっと腹が立ったから、困らせてやろうってイタズラしたって言ってた。

毎日、あんたでしょって、私、家に行ったから、怖かっただって。ブスッて、言ってやった。」

あんた…、そんなこと言うから嫌がらせされるんだよ、

そう言いながら、私はふと、妹の話に、おかしなところがあると気付きました。

前日の時点で、妹は一言も、犯人と思しき子の名前を口にしていなかったのに、自由研究にも、名前はあげていなかったのに、

どうして今日になって、先生はその子を話し合いに参加させたのか…。

「あー、お姉ちゃん、ウラ見なかった?

私ね、

『犯人に会いに行ったのは、

〇〇村△番地の□です。

ハガキのにおいがわからない人は、ここに行って、においをかいでください。』

って、書いといたの。」

気持ち悪いわッ!

私は大きな声で、妹を批難しました。

すると妹は、

「何言ってんの?気持ち悪い思いしたのは私だよ?

私は、犯人を探しただけ。

謝らないから、もっと怖い思い、させてやったんだよ?」

…と、

とても当たり前の事をしたのだと言わんばかりの表情で言いました。

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妹の自由研究は再提出となり、

気持ちの悪い暑中見舞いと、気持ちの悪い妹の自由研究は、また我が家に戻ってきました。

ばあちゃんは、それにさっと目を通し、

「どちらも痛々しいほど、バカだね…。」と言うと、

取り戻そうとする妹をスルスルっとかわして、

クルクル丸めて、風呂の焚付けに燃やしていました…。

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今では、ハガキで暑中見舞いが届くことは少なくなりましたが、

何枚かは暑中見舞いを書くので、

その度に、この出来事を思い出します。

焚付けにされ、燃えていく暑中見舞いのハガキを見ながら、

「あーあ、あれがあったら、もう少しあいつで遊んでやれたのに…。」

そう言って、本当に残念そうな顔をした、妹の顔を、私は今でも忘れることができません…。

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こんな子供嫌だわー…(´・ω・`)
いや、大人でも嫌だけどww
でも個人的には幽霊とかのオカルト的な怖さとは違った、こういう人の怖さってのも好きですね( ̄▽ ̄)

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初めまして。
にゃにゃみさんのおばあさんとの話しすごく好きです。
妹さんは怖いかなーと思いつつ小さい頃はみんな自分の思うがままにしてたのかな?とも思いますが行動力すごいですね!
にゃにゃみさんの話しが大好きなのでこれからも楽しみにしています。

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