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中編7
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高山さんと幸せの箱

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いらっしゃいませ おでん屋でございます。

大根、牛すじ、ちくわにはんぺん...各60円で販売しております。

60円がないお客様には特別に、おでん1つにつき怖い話1つで販売しております。

今日は手ぶらで来店された高山さんのお話です。

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昔ね、神様と暮らしていたんです。

息子を妊娠して少しした頃、旦那が亡くなりまして。

貧乏で保険にも入っていなかったものですから、子供を産んで育てて...なんて出来そうもなく、旦那を失った悲しさと今後のどうにもならない生活に絶望した私は、お腹の子供と一緒に死のうと思ったんです。

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自殺を決意したある日の夕方、家から数km離れた森へ行きました。

木にロープをくくりつけ、あとは輪の中へ頭を通すだけ...。

そんな時に後ろから声がしたんです。

「幸せにしてあげようか」

振り返ると10歳ほどでしょうか、ヤンチャそうな顔をした男の子が立っていたんです。

目が合うともう1度「幸せにしてあげようか」と、そう言うのです。

きっと自殺するのに気が付いて止めようとしてくれているのだろうと思いました。

しかし自殺をやめたところで生きてはいけません。

「ありがとう。でもいいの。ごめんね。」

そう返事をして男の子に帰るよう促しました。

しかし男の子は聞いているのかいないのか、帰るどころか近づいてきたのです。

そして持っていた木箱を私にくれました。

「その箱に神様のご飯をいれてあげたら、幸せになれるよ」

屈託のない笑顔でそう言いました。

さらに続けて、こう言いました。

「神様の作り方教えてあげるから一緒に作ろう」と。

もちろん信じてなどいませんでした。

しかしやらなければ帰ってくれそうもないので、結局一緒に神様を作ることになりました。

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男の子は私に青い折り紙を渡し、鶴を折るよう言いました。

折り鶴が神様になると言うのです。いかにも子供らしい発想にすこし心が暖かくなりました。

私は青色、男の子は赤色の鶴を折りました。

最後にハサミで爪を少し切り、2羽の鶴の腹部へ1つずつ入れました。

この鶴が神様であり、箱の中に爪や生き物の骨を入れると、それを食べてお礼に幸せをもたらしてくれるのだそうです。

爪や骨を食べるだなんて子供の考える事は不気味だなと思いました。

のんびりと鶴を折っている内にすっかり日が暮れてしまい、辺りは真っ暗になってしまいました。

子供を1人森から返すのは危ないと思い、家の近くまで送ることにして一緒に森を出ました。

大きな通りへ出ると、男の子は「ばいばい」と手を振り走っていってしまいました。

心配ではありましたが追いかけず、私も家へ帰ることにしました。

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神棚に飾るよう言われましたが、ボロい賃貸アパートに神棚などあるはずもなく、テレビ台に箱と鶴を置いて眠りました。

夜、寝ていると頭がチクチクして目が覚めました。

小さなチクチクとした痛みは痒みとして伝わり、私は頭をかこうと手を伸ばしました。

伸ばした手の先にあったのは、昨晩テレビ台の横に置いたはずの鶴でした。

恐怖と汗が吹き出るように出てきたのを今でも覚えています。

まだ夜は明けきっていませんでしたが、起き上がりテーブルを綺麗にし、白い布を引きそこに箱と鶴、そして安物ではありましたがお酒を置き、簡易な神棚を作りました。

ちゃんとしなかったから怒っているのだと思い、お祈りというより謝罪をしました。

どうせ死ぬつもりなのに私は何をやっているんだろうとふと我に返ったりもしました。

今日こそはもう1度森へ行き死のう。そう決めてただただ時がすぎるのを待ちました。

15時くらいでしょうか…かけおち同然で結婚し家を飛び出して以来一切連絡を取っていなかった母から電話がありました。

どこで聞いたのか私が妊娠していること、未亡人となったことも知っていました。

そして「もし産むなら出来る範囲で手伝うから帰っておいで」と言ってくれたのです。

バツの悪さや気恥ずかしさ、嬉しさ…様々な感情がありましたが、

実家に帰れば子供が産める。この子に会える。そう思うとさっきまで迷いのなかった自殺という選択肢が薄く薄くなっていったのです。

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荷物は元々多くなかったので、荷造りはすぐに終わりました。

そしてこのタイミングで助け舟が来たのは折鶴の神様のおかげかもしれないと思い、小さな手作りの神棚もそっと箱に入れ、持っていくことにしました。

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久しぶりの実家にはまだ私の部屋が残されていました。

懐かしい、少し埃臭い部屋へ行き、少ない荷物をほどいていきました。

神棚は、そんなものを持っていたら母が更に心配すると思い、自分の部屋のタンスの上の台にひっそりと祀りました。

それから毎日子供が生まれるまで神棚に祈りながら過ごしました。

箱には時々切った爪や魚の骨などを入れることも忘れずに。

怪我も病気もせず子供も安産で健康に生まれ、産後も順調に回復しました。

働けるくらいまで回復すると、年金ぐらしの母に息子を預けて働きに出るようになりました。

なにもかもが順調で、本当に幸せでした。

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息子が幼稚園を卒園する頃、職場が少し遠くへと変わりました。

贅沢出来るほどではないけれど貯金もあったので、息子と2人で職場の近くへと引っ越しました。

そこではちゃんと祀ってあげようと、少し奮発して小さな神棚を買いました。

毎日お酒をあげて、ごはんをあげて、感謝して生きていました。

ですが...ある日小学校から帰ってきた息子が、神棚の鶴を1羽壊してしまったのです。

玄関に一歩入った瞬間にわかるほど、家の中は怒りのオーラに満ちていました。

すぐに神棚へ駆け寄り、どうにかしようと思いましたが、どうにも出来ませんでした。

怒っていたのは赤い鶴でした。

息子が壊した青い鶴の方は、もぬけの殻となっていました。

私は怒りを抑えられず、息子を怒鳴りつけました。

そして箱と赤い鶴を持って家を出て、あの男の子と会った森へと向かいました。

あの男の子なら直す方法を知っているかもしれないと、そう思ったのです。

足が痛くなっても走り続け、森へつきました。

しかしあの男の子には会えませんでした。

その間も赤い鶴はずっと手の中で怒り続けています。

許してもらえるとは思えませんでしたが、ひたすら謝り続けました。

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そこから少し記憶がないのですけれど、気が付けば実家にいました。

母と息子がいて、私に何かを言っているようですが全く頭に入ってきませんでした。

すると息子が青い鶴を見せてきて何やら喋り始めました。

あんなに愛していた息子のはずなのに、もう憎くて憎くて仕方がありませんでした。

...ひどい言葉を浴びせたように思います。

気が付くと鶴も箱も持たず、家を飛び出していました。

走り続けて行く場所は、やはりあの森でした。

出て行ってしまった青い鶴はここへ帰ってきているような気がしたのです。

..,他に思い当たる場所がなかったというだけかもしれませんが。

それから何年経ったでしょう。

どうやって生きていたのかわからないくらいあっという間だったように感じました。

気が付くと森の中にあったボロボロの小屋に1人で住んでいました。

私はふいに冷静になり、置いてきた息子を想いました。

怒りに任せて酷いことを言ってしまったと。本当は愛していると。

私は息子への謝罪の意味もこめて、息子へ幸せをプレゼントしようと思いつきました。

小屋にあった箱に沢山の幸せをつめてプレゼントしようと思ったのです。

箱を開け、そこに言葉を入れました。

自分でもなんと言ったのか思い出せませんが、自然と言葉が出てきたのです。

箱に向かって口から出される言葉を全て出し切り、蓋をしました。

これで息子は幸せになれるはずだと、そう信じて息子へと送りました。

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小屋へ戻ると折鶴様がいました。

赤鶴様も、青鶴様も、どちらとも。

私は許されたのだと思いました。

息子への愛を取り戻した私に青鶴様は戻ってきて下さり、赤鶴様も怒りを鎮められたのだと、そう思いました。

2羽の折鶴様へ駆け寄り、感謝と謝罪をしました。

きっと許して下さる。また幸せに暮らせると、そう思っていました。

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しかし2羽の折鶴様は私をじっと睨みつけていました。

謝っても謝っても、ひたすら睨んでいました。

そして私が困っていると急に馬鹿にしたように笑いだし、聞いたこともないような低く汚い声で「馬鹿」と、そう言ったのです。

耳を疑いました。そして次に、目を疑いました。

目の前の折鶴様がどんどん醜い姿へと変わっていったのです。

折鶴様だったはずの彼等は醜い顔を歪ませ、醜い言葉を私に浴びせながら森の奥へと消えていきました。

私が信じていた折鶴様はなんだったのか。息子に送ったあの箱は本当に幸せになれるのか。

考えても考えてもわからないことだらけです。

どうか幸せに暮らしていて欲しいと思う反面、折鶴様をあんな醜い姿に変えた元凶だとも思うようになってしまい、私は自分の醜さに嫌気がさしてしまいました。

遅くなってしまいまいましたが、数十年前あの森で出来なかったことを今からしてこようと思います。

もし息子がきたら「愛している」と、そして「死んで地獄へ落ちろ」と伝えてください。

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そう話し終えると、高山さんはちくわを食べて森へと帰っていきました。

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