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中編4
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インガメ

その日は、朝から雲行きが怪しかった。

空を見れば、暗雲がグルグルと今にも襲い掛かってきそうで身震いを一つする。

今日のところは、商売は難しそうだ。

しかも、商売道具の卵のほうも、あと2~3個と心もとない。

逢魔が時、稼ぎ時にも関わらず、店をたたもうとしていたその時だった。

「くださいなー。」

どこからともなく、歌うような声がした。

「誰だい?今日はもう店じまいだよ。」

面倒くさそうにそう言うと、その声に背を向けた。

「えー、ざーんねん。」

思った通りその声の主は厄介な奴であった。

「あたしゃ、こっち側の人とは、取引しないんだ。」

そういうと、聞こえよがしにし舌打ちをしてみせた。

ふん、どうせ卵が目的ではないのだろう。その小娘をねめつけた。

「最近、悪さが過ぎる狭間人が居るらしくってさあ。そのパトロールにきたら、偶然ここに来ちゃった。」

チャラチャラしたミニスカートをヒラヒラさせながらその娘は舌を出した。

白々しい。

「アンタ、矢田の者かい。矢田の者にとやかく言われる謂れはないね。アンタらだって、同じ穴の狢じゃあないか。」

そう言うと、その小娘は眉間にしわを寄せた。

「嫌だわ、あなたみたいな蠱毒師と一緒にいないでよ。あんなキモい蟲を使役して。穢れを餌にして、その卵を産ませてるんだよね?」

見下すような目で見られたので、反論した。

「穢れを食べさせて何が悪いのさ。そうしないと、世の中は穢れで溢れてしまうじゃないか。」

すると、小娘は、フンと鼻を鳴らした。

「穢れをたべさせて、また穢れを産んで人に悪さしているくせに。ねえ、物部(もののべ)の犬神のお姫様。」

「その名前で、あたしを呼ぶんじゃないよ!」

そう叫んで電光石火のシキを飛ばすと、ふっとその少女の姿は消えた。

「あたしにそういうの無駄だってー。」

そう少女は笑うと、トンとふざけた玩具の魔法ステッキでそれの肩を突くと、それは崩れ落ち、右肩から下を失った。

それは、ギリギリと歯ぎしりをして、ひざまずいて天空より逆さにぶら下がっている少女を睨んだ。

「あたしたちは、次元の狭間人でしょ。お互いの次元に干渉することはできないけど、あたしにはそれができるんだなあ。」

その少女は得意げに、貧相な胸をはってみせた。

「卵屋さん、あなたを上の命で解きにきましたよぉ。」

少女はくるくるとステッキを器用に回すと、えいっとこちらに向けてウィンクをした。

「自分だって、あこぎなことをしているじゃないか。アンタ、現世(うつしよ)の人間をカエルに変えちまったっていうじゃないか。」

そう言うと、少女は無表情に済まして言った。

「あら、自分で阿漕なことをしている自覚あるって認めた。言っておくけど、あたしの場合は、その男が強欲だったから仕方ない結果だったのよ?アリアドネは悪くないモン!」

矢田アリアドネ。次元の狭間人、矢田一族の娘。

「式神ごときが。偉そうにするな。」

挑発しても、まったくその少女は表情一つ変えない。

矢田一族の長男のクロードには多少、情があるようだが、この娘にはまったくそれがない。

非情のアリアドネ。どうやら、あたしももはやこれまでのようだと、それは感じた。

「しかし、なんで物部の美しいお姫様が、誰にも姿がわからないような形で表れているの?やはり身バレは困るんだ。あたしがあなただったら、その美しい姿で惑わせて卵を渡すけどなあ。」

そう言って、速く始末すればいいものを、もったいつけてステッキをもてあそんでいる。

「人というものは、そんなにバカじゃあないのさ。美しいものにはとげがある。うまい話には裏がある。あたしは、この因果目(インガメ)を使って、自分の姿を曖昧にして人の目を欺くのさ。」

現世にいるころには、この目を使って、いろんな者を操ってきた。

ただ、一人を除いて。

愛しい人。だが、その者も同じ犬神の筋の者だとは知らなかった。

裏切られ呪詛を受けてこの身は現世で滅んだ。

その時に誓ったのだ。

もう何も信じる者はない。あたしの永遠の苦しみを、穢れを、この現世に溢れさせてみせる。

そして、曖昧な愛はすべて穢れに変えてみせる。

あたしは、除夜の鐘とともに放たれた穢れを蟲に食べさせて、そしてまた穢れを産み落とす。

産み落とされた穢れはまた、現世にはびこり、除夜の鐘では間に合わないほどに、現世にあふれさせてみせる。

しかし、もうそれもかなわない願いとなったようだ。

「覚えておいで、矢田の小娘よ。あたしが滅びようとも、きっとまた穢れを利用する輩は現れるよ。蠱毒使いは必ず、現れる。」

やはり無表情な少女は一言

「さようなら」

というと、ステッキをくるくる回し、その卵屋の体は一本の糸に解けると、空を渡った。

どんな姿になろうとも、あたしの恨みは千年万年続くよ。

いつかまた、どこかの町で村で呪詛を吐き続ける。

この世に穢れがある限りね。

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卵シリーズを結構楽しみにされてた方がいらっしゃるので、そのうちまた書きますw
さてここからどうしよw

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卵屋シリーズ終わっちゃうんですか?。・゜゜(ノД`)
なんか寂しいような(´;ω;`)

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コメント、怖い、ありがとうございます。
修行者様
この頃が一番楽しかったですねえ(遠い目) 寂しい限りです。
sun様
卵屋さんの謎をそろそろ解き明かそうと思ったらいきなり終わっちゃいましたねw
おでん屋様
まさかの卵屋さんシリーズ存続の希望が多くて、驚いております。
そろそろネタが尽きてきたので、終わった感を出してみましたが、少し心が揺らいでおります。
むぅ様
インガメの話を書きたくて、ついマニアックになってわかりにくかったですね。すみません。
今度はわかりやすい話を心がけます。
バンビ様
不安を煽るお話ばかりでしたからね。またいつか、卵屋さんに会えるかも。
珍味様
もう不安の種をばらまく輩が消えてしまいましたが、まだまだ皆様を不安の世界にいざなう話を書きたいと思います。
吉井様
ありがとうございます。みなさまにそう言っていただけると、嬉しいのですが、最近ネタ切れ気味ですw
暑いと何だか脳がオーバーヒートしているようです。

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玉子屋さんがいつもと違う!

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