「最近、誰かに見られてる気がするんだよね…」
出た…
僕はこんなことを言う彼女にウンザリしていた。
彼女の名前はミコ。
僕の交際相手だ。
初めて会ったのは大学の食堂。
テーブルが空いていなくて、食べ物のトレーを持ったまま慌てている彼女を見て、僕のテーブルの空いている所に座らせてあげたら、その時メアドを交換して、そのまま親しくなって付き合うことになった。
ミコは可愛くて料理もうまい。
でも、一つだけ欠点があった。
被害妄想だ。
最初は誰にでもあることだと思っていた。
でも、あまりにもひどいため、普通ではないことに気が付いた。
言う台詞はいつも決まって「誰かに見られてる」こと。
現実味があるならまだしも、どれも意味がわからない。
「聞いてる?」
「あ、うん聞いてるよ。でも今日は帰ってもらえないかな…。」
「いいけど…。私の話信じてないの?」
「そんなこと無いよ!」
「ふ〜ん。」
その日は彼女には帰ってもらった。
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それから一週間。
彼女から電話がかかってきた。
「はい。〇〇です。」
「〇〇君?ごめんね、こんな時間に。でも、言わなきゃいけないことがあるの。」
そう言う彼女の声は震えていた。
泣いていたのかもしれない。
「どうしたの!何かあったの!?」
僕は彼女の様子からとても心配になった。
何かあったのか…
「私の家の中から、知らないカメラが…、出てきたの…」
すぐに被害妄想だと分かった。
そう分かると、安心と同時に怒りが込み上がって来た。
心配したのに。
「そんなことのために、こんな夜遅くに電話をかけてきたの?はっきり言うけど、嘘でしょ?被害妄想でしょ?」
「違う!違うよ…。被害妄想なんかじゃ無いよ…。」
ミコが泣きながら呟く。
「じゃあなんなんだよ!カメラなんてあるわけねえだろ!」
僕の怒りはMAXだった。
謝ってくれるかと思いきや、罵声が飛んできた。
「本当だって言ってるじゃない!ほら、ネットにも私の映像出回ってるよ!〇〇君は信じてくれるかと思ったのに!自殺してやる!死んで、お前にも同じ思いさせてやるよ!」
「ちょっと、お…」
僕の話終わる前に電話は切れていた。
自殺なんて嘘に決まってる。嘘に…。
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それからしばらくして、彼女が自殺したということを聞かされた。
ネットには、誰が犯人だかは分からないが、彼女の映像が流されていた。
信じられなかった。
僕のせいだ…
葬儀の最中で、彼女の母親は号泣していた。
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葬儀が終わり、家に帰ると、すぐに異変を感じた。
誰かに見られている気がしてならない。
人間、目に見えなくても気配は感じる。
誰かに相談しようにも、被害妄想と言われればおしまいだ。
彼女もこんな気持ちだったのかな…。
気配は翌日も、その翌日も続き、毎日続いた。
僕は頭がおかしくなりそうだった。
家にいるときの大半は頭を掻きむしっていた。
精神科に行き、治療してもらおうにも、診断結果はいつも「重度の被害妄想」だった。
この家が悪いと思い、引っ越しをしてみたが、変わらない。
僕は逃れられないという絶望感に襲われた。
そんなある日、僕は彼女の家に行くことにした。
彼女の家族に謝罪し、罪を償えば、この視線も無くなると思った。
ピンポーン
彼女の家のチャイムを押す。
「はい…」
彼女の母親が出てきた。
「ああ、〇〇君。どうしたの?とりあえず入って。」
家に入った瞬間に異臭が鼻をついた。
リビングに入るとありえないものがそこにはあった。
死体だった。
男性の死体のようだった。
「驚いた?」
後ろで母親の声がした。
「あの子の映像流した犯人誰か知ってる?あの子の父親よ。信じられないでしょ。あいつは自分の娘で金儲けしたってわけ。だから殺してやったわ。あなたの感じている視線は全部私の仕込んだカメラよ。葬儀が終わった後、すぐにあの子の持っていた合鍵を使ってカメラを仕掛けた。簡単だった。あなたがあの子にあんなこと言ったから…。あなたにもあの子が死んだ責任がある。あの子と同じように狂って欲しかった。」
僕は彼女の父親の死体を見ながら聞いていた。
頭がぼんやりして何も考えられない。
「どうしてこんなベラベラ喋ったと思う?私にも分からない。でも、一つだけわかることは…」
母親はキッチンに近づくと包丁を握った。
「お前を殺す!」
母親はそう叫ぶと包丁を持って走ってきた。
終わりか…。
時間が止まって見えた。
ふと、天井を見ると彼女が笑っていた。
満面の笑顔だった。
あの視線がカメラのものか、分からなくなった。
彼女も僕の死を望んでいたのか。
これも「被害妄想」だな…
作者山サン
遅くなりました。