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中編4
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帰る場所

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社会人3年目の私は、そろそろ心機一転で新しく家を借りようとしておりました。

多くの不動産会社を回り、たどり着いたのは3階建ての1LDKの賃貸アパートでした。

住居はそれぞれの階に2部屋という特に何の珍しさもないアパートでした。

私はそのアパートの2階で日当たりもよく、ベランダからは近くの公園と、少し遠くに大きな総合病院がみえる立地としても、部屋の広さからしても満足のいくものでした。

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少し古臭いと思われるかもしれませんが、私は自分で言うのもなんですが、中々に律儀な方でして、引っ越しの際には、すべての部屋に粗品をもって挨拶に参りました。

そこで分かったことは、私の部屋の上の3階の部屋には住んでいる人はいないということでした。

まぁ、夜中友達と騒いだりするかもしれないし、調度いいくらいに考え、新居での生活を始めました。

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住み始めて何日かたったころ、初めはさして気にもしていなかったのですが、夜中になると上の部屋から走り回るような足音が聞こえるのが気になり始めました。

・・・

上の部屋にはだれも住んでいないはずなのですが。。。

気になった私は管理人に誰か引っ越してきたのかと尋ねましたが、空室であるという返答でした。

さすがにここまで来たら、もっと聞かなければと思い、上の部屋で過去に事故や事件はなかったのかと尋ねましたが、そんなものはないとのことでした。

管理人はひょっとしたら空調のせいで建物が音を立てているのかもしれないと言ってきたので、私もきっとそうだなと微妙に納得してしまい話は終わりました。

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それから数日、やはり夜中になるとドスドスドス、タッタタッタ、という音は聞こえ続けました。

空調のせいだ、空調のせいだ、空調で建物がきしんだりして音を立てているんだと自分を納得させていましたが、

ある日、私を恐怖のどん底に落とす出来事が起こったのです。

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その日は休日で、いつものように昼までごろ寝しながらテレビを観ていました。そろそろコンビニでも行って飯でも食うかと思ったとき、

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ピンポーン、ピンポーンとチャイムが鳴りました。誰だろう?

とドアを開けると宅急便でした。

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宅配屋は私に宅配物を渡そうとしてきましたが、宅配物をよく見ると住所も部屋番号もあってはいるけれど、宛名が違います、

何より絶対に私宛でないとわかったのは宅配物が白を基調にした花のブーケのようなものでした。

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あのー、場所はあっていると思いますけど、たぶん前の居住者の人宛だと思いますよと私は伝えました。

宅配屋は焦りながらも花をもって帰っていきましたが、私は気持ち悪さで一杯でした。

あの花のブーケのようなもの、あれはお葬式や、ご霊前に贈られるものだと分かったからです。

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その日の夜、私は夢を見ました。

・・・おそらく病院です。病室の窓から私は、今住んでいる私の家を眺めていました。

心は寂しい気持ちで一杯です。帰りたい。そのことばかりが私の心を埋め尽くしていました。

と、ドスン、ドン、ドン、バタ、バタ、突然の音に私は目が覚めました。

額には汗が滲んでおり、目からは涙が溢れていました。

私はこれは空調のせいではないと確信し、音のする方へよく目を凝らしてみると・・・

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shake

天井を逆さになって走り回る黒い何かがいることが分かりました。

怪音は3階ではなく私の部屋で起きていたことなのです。

私は恐怖で布団にくるまりそのまま朝を迎えました。

足音や黒い何かは知らないうちに気配を消していました。

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早速翌日、管理人に経緯を話すと、渋々と話してくれました。

貴方が今住んでいる部屋にはシングルマザーが一人住んでいた。子供は難病でここからも近い総合病院で入院していた。むしろ病院への行き来のためにその母親はその部屋を借りた。病気が治ったらここで一緒に暮らそうとしたのかもしれないが、結局子供自体は一度もこのアパートには来ていない。

なぜなら、貴方が入居する一月ほど前に子供は亡くなってしまい、母親も実家の方に帰って子供の葬式をあげ、そのままこのアパートを解約した。

おそらく花が届いたのも、そこにまだ住んでいると思った知り合いからではないか。とのことでした。

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つまり、子供は自分が帰るべき場所が私の部屋であると思ってしまっており、今も病院から眺めていたこの部屋にいるであろう母親を探して夜な夜な現れていたということです。

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本当であれば、お祓いなり、引っ越すなり何かするべきなのでしょうが、現在の私にその気力も金もなく、今も足音と奇妙な同棲をしているのです。

私はどうすればよいのでしょうか、このままだと気が変になってしまいそうです。子供の哀しみと、私の恐怖の折り合いがつく日は来るのでしょうか。

帰る場所-完-

Concrete
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