若い頃、お金が貯まると、車で放浪していた。
ある町で立ち寄ったバー。
ジントニックを飲みながら次に行く場所を考えていると隣の男が話かけてきた。意気投合してかなり深酒した後、二人でサウナに行き貧乏旅行してる事を話すと少しうちの店で働いていかないかと誘われ少しのつもりが彼と親友になり2年半働く事になった。
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彼は寺の跡取り息子で継ぐ前に自由にしたいと夜、店を出していた。俺と同じ年で車好きの女好き。ケンカっぱやく涙もろく友達思い。名前は、賢人と言った。こんな感じの奴だった。初めに寄ったバーが彼の店だった。
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ある日、店に良く来る少し年下の女性3人から心霊スポットに行きたいんだけど一緒に行こうと誘われ運転手として行くことになった。
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しかし賢人は絶対に行くな!あそこは中途半端に霊感がある奴が行くには危険すぎると今まで見たこと無い顔で詰め寄ってきた。
その後結局行くことになったが賢人も着いて来ると言い張り強引についてきた。賢人だけがこれから起こることを予測していたかのように。
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そこは病院跡地
今まで感じたことの無い攻撃的な霊気。
誰の侵入も許さないような凄い感じ。まるでソコだけ違う世界のような異質な空間。明らかに空気の質が変わり激しい耳鳴りに耐えながら、病院の中に入れる場所を探し始める女性達の後に続く。彼女達には普通の心霊スポットと同じ感覚なのかも知れない。
やっとガラスが割れていて中に入れる場所を見つけると何の躊躇もなく入る女性達。ここである異変に気が付いた。彼女達は、初めて来た筈なのに目的地があるように、足早に歩いて行く。こんな状態の中、何故か笑ってるように見える。彼女達に話し掛けても返事すらない。何処かに引き寄せられているような感じだった。
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その状態になって初めて賢人の言うことがわかった気がすると賢人に言った。すると賢人は
『まだまだこれからだよ。あの子達はこの場所に呼ばれてたから。これから何が出てくるかわからない』
と呟きながら彼女達の後を追って行った。
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階段に着くと躊躇無く上に向かう。
登っている途中風の音が人の唸り声のように響き
空気の密度が上がったような感覚の後、2階に着いた。大きなフロアがあり診察室のような部屋と奥に病室のような部屋があった。
女性達が部屋には目もくれず、フロアの端にエレベーターと下りの階段がありそちらに向かった。そこで初めて賢人が
『ヤバイ。あそこの下に霊安室しかない』
その時、初めて賢人がここに昔来たことがある事に気が付いた。
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賢人が彼女達を押さえお経のようなものを唱え塩をかけ、背中を払うと(パニクってたから詳しくは覚えていない)女性達が正気に戻り泣きながらパニック。階段の下から黒い何かが、上がってきている。そして診察室のドアが全部開いたり閉まったり。人が走っている音。そして引っ張られる洋服。
女性達が狂ったようにパニックになる中、俺と賢人は冷静だった。だが段々俺の思考が何かに邪魔されて来た。何故か全てに対して憎悪が涌き出て怒りが女性達と賢人に向かっていく。
刃物を持っていたら人殺しになっていたかも知れない。
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賢人が
『呑まれるな。自分を持て』
と、そして何かを呟きながら背中を払い何度もそれを繰り返すと気持ちが軽くなった。
急いで来た道を戻ると、憎悪に満ちた声のようなものが聞こえて来て、黒い何かが、追いかけてきている。その間も賢人は何かを呟いていた。風もないのに窓は割れそうな位揺れていて相変わらず耳は痛い。何故か体感時間が凄く長い。もう出口に着いてる筈なのに。気持ち悪いぐらい寒いのに異常な汗。走っても走っても進んでないような感覚の中、やっと出口が見えた。
ただ最悪な事に賢人が真っ青な顔して動きが遅い。
女性達を病院からだし賢人をおぶり何とか脱出した。黒い何かは塊になり弾けるように消えた。
車に着いて車を出し少し離れてから、女性達と話をしてパニックってはいるがおかしい所は無いことを確認し賢人の体調がすぐれない為、急いで帰ることに。誰1人病院の方を振り向かず逃げるように帰っていき、賢人の実家のお寺へ行った。勿論賢人の指示だった。
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そこで賢人だけが別室に行き、俺と女性達は和尚に凄い勢いで怒られ軽いお祓いで済みました。賢人は俺らより少し大変だったらしい。
その時和尚が、昔、賢人があの場所に行き、行方不明になり2週間後に350㌔離れた場所で倒れていたところを保護されたと聞かされた。そんな事があった曰く付きの場所に来てくれた賢人には感謝してもしきれない思いでした。
その後その病院跡地は解体され更地になったがいつまでたっても更地のままでした。
作者徹人
自分の体と感情を支配されたのは後にも先にもこの時だけだった。賢人が居なかったらといまだにゾッとします。今は賢人はお寺の和尚になってます。因みに結婚していて奥さまはこの時一緒に居た女性の1人です。
この病院は造りが変わっていては離れに霊安室があり、普通の階段では行けないようになっていて離れに続く一階フロアには一階からは鍵で行き2階からはフロア端の階段とエレベーターからしか行けない造りでした。