廃墟から連れ帰ったもの-後編-

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廃墟から連れ帰ったもの-後編-

そうして肝試しは指輪を見つけた以外は淡々と進み、何事もなくホテル内の探索は終わりました。

そして帰るかということになり、敷地に入ってきたときと同じように柵を乗り越え、外に出ようとしたときでした。

「ぞぞぞぞっぞぞっぞっぞぞおおぉ」

と背中に言いようのない不安が走ったのを覚えています。

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翌日、私は祐太郎に電話をかけ、あの指輪がいくらになったのか聞こうとしましたが、一向に電話は繋がりません。

嫌な予感がして彼の家に行くと、どうやら不在のようでした。それからも電話を何度も入れましたが繋がることはありませんでした。

祐太郎のことは心配でしたが、私も日々の仕事に忙殺され、気づけば彼のことを気にも留めなくなっていました。

薄情人間ここに極まれりとでも言ってください(笑)

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肝試しをしてから1年ほどたったころ、突然祐太郎から電話がありました。

もはや記憶のかなたに追いやっていた彼を思い出し、ひどく驚きました。

「もし、もし、祐太郎だ。久しぶりだな、少し話さないか?」祐太郎は続けました、「あの肝試しの時から連絡取れなくてすまなかった。そのことも含めて話したいんだ。」

私は当然会うことにし、彼から詳しい事情を聴くことにしました。

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祐太郎と待ち合わせの場所に着くと、彼の身体には異変が起きていました。

あれだけ黒々とした髪が白髪になり、さらに驚くことに左手の薬指がなくなっていました。

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祐太郎からの話をまとめると、肝試しの後、家に帰った祐太郎は指輪がいくらになるのか楽しみに明日が来るのを待っていたそうです。

しかしその日、布団に入り寝ていたところいきなり壁に掛けてあった時計が落ちてきて左手の薬指に直撃したそうです。

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みるみる腫れ上がる指を見て、緊急外来で病院にいったところ、指は既に壊死し始めていて切り落とさないと壊血病になると医者に言われたそうです。

普通ならばありえない速度で彼の指は腐ってしまったということになります。

また、指を失ったショックで祐太郎は精神疾患になってしまい、精神病で一年の入院をしていたとのことでした。

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さらに入院の最中はいつも薬指のない女に追われる夢を見続けたそうです。毎日のようにみる恐怖の夢に祐太郎は益々疲弊していきました。

そんな折に、たまたま霊感の強い女性の看護師さんがいて、事情を話し霊視してもらったところ、驚くべき事実が判明したのです。

実はあのホテルで昔、殺人未遂事件が起きていたとのことです。

祐太郎は「未遂なら幽霊ではないですよね」と訊くと、看護師さんはこう続けました、

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「昔あのホテルに不倫をしていたカップルがいて、それが奥さんにばれてしまったの。奥さんは怒って、不倫中に部屋に押し入り、男の薬指をかみちぎった、、、、、

不倫相手の女はすぐにフロントに電話し、奥さんを取り押さえてもらって事なきを得たの。奥さんの方は不倫相手の女の方は殺すつもりで、バックに包丁を仕込んでいたみたい。」

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「奥さんの方は、しばらく留置所に入っていたらしいけど、すぐに釈放されたみたいね。でもその日のうちに首を吊って死んでしまったの、、、、、

遺書には不倫相手の女を許さないと綴ってあったみたい。それから数日後に不倫相手の女はバラバラ死体で発見されたの。」

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「身体のほとんどは見つかったけど左手の薬指だけは見つからなかった。あなたが拾った指輪はおそらく不倫していた夫のものよ。」

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「あなた、今も指輪持ってるわよね?なぜか分からないけれど、その指輪にはものすごい邪念をかんじるわ。できればすぐに指輪を破棄したほうがいいわ。」看護師さんは若干おこりながら言いました。

実は祐太郎は指輪を病室に持ち込んでいました。恐らくそれがバレたのでしょう。

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それから祐太郎は指輪を看護師さんに見せると、

「今から邪念を祓います、今日の夜、夢で女が出てきても逃げてはいけない。夢だけど意識はあるはずだから頑張ってね。」

・・・夢で自分をコントロールできるかぁい!と言いたいのを我慢して、祐太郎は夜を迎えました。

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・・・・・・・あぁこれ夢だ、祐太郎はすぐに分かったそうです。

夢の中では相変わらず女が現れましたが、今回は祐太郎は逃げるのをやめました。すると女はすぐに祐太郎に迫りこんなことを言ったそうです、

「あの人の指がほしい・・・お前じゃない!!!」

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ハッ!と気づくと朝だったそうです。

看護師さんをナースコールで呼び、夢で見たことを話すと、

「もう君は大丈夫だよ。指輪は私が知り合いのお寺に持っていくから安心してね。」

それからというもの、祐太郎が女の夢を見ることはなくなり、精神疾患も嘘のようにすぐになくなったそうです。そうそれがつい1週間前の話です。

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「いやー、退院したら真っ先に知らせたくてさー」上機嫌な祐太郎はなりは変わっても昔のままでした。

それにしても、やはり触らぬ神に祟りなしとはこういうことなのでしょうか。あたらむやみに肝試しはするものではないという教訓を得た話でした。

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・・・そういえば最近私の左手から異臭がするなぁ・・・

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