俺には4つ年上の姉がいる。その名も玖埜霧御影(クノギリミカゲ)という。
名前に「影」という文字があるように___姉さんの生い立ちは確かに影のように暗く重い。最近の傾向として、親は子どもが生まれると、「陽」の文字を使うことが多いと聞く。陽は太陽を連想させ、明るく元気なイメージがあるからだそうだ。
それに対し、「影」という文字はどうだろう。目立たない陰気な性格の人間を「影のような」と揶揄することがあるように。不幸せな人生を送っている人間を「日陰者」と憐れむように。影という文字からは、あまり溌剌としたイメージは浮かばない。
太陽と影。これらは全く逆の性質を持っている。しかし、どちらかが欠けてしまえば、どちらも存在出来ないものなのだ。太陽がなければ、影は出来ないように。影がなければ、太陽が差さないように。
姉さんが「影」だとすれば。「陽」となりうるのは、一体誰なのだろうか。
○○○
田舎町では凶悪な事件は起こらない____そんな法則が常識となりつつある今日この頃。俺が住む紛れもない田舎町で、凶悪な事件が起きてしまった。
N寺という小さなお寺があるのだが。その境内で小学生の女児か殺害されたのだ。何でもその女児は、学校帰りにクラスの友達数人とN寺で遊んでいたという。殺人現場を目の当たりにした友達ら数人は放心状態。怖がって泣くことも、その場から逃げ出すこともしなかった。
現場は凄惨だったということ以外、詳しいことは分からない。何しろ犯人と思しき人物の特徴や動機、逃げた足取りなどは未だに掴めていないらしい。何しろ、殺人現場を目撃してしまった被害者女児の友達数人は、ショック状態からか失語症になったり、パニック障害を発症し、事情聴取が困難であるからだという。
大きな事件であるにも関わらず、ニュースや新聞での報道はあっさりしたものだった。巷の噂によると、被害者女児の殺され方があまりにも残虐性を帯びていたため、規制が掛かったと聞くが……それも定かではない。
地域内の小学校及び中学校では、この事件を重く受け止め、集団登校及び下校を強いられる毎日である。俺が通う中学校でも、この日は集団で登校、下校が命じられた。些か過保護な気がしないでもないが、この田舎町で初と言っても過言ではない凶悪な事件の発生に、大人達も浮き足立っているようだ。
この日も今朝と同じく、町内の生徒ごと集まり、集団で下校した。中には親に迎えに来て貰う奴もいたが、うちの両親は揃って出張だし、姉さんも今日は遅くなると言っていたので、家族には頼れない。俺は渋々、同じ町内の奴らと肩を並べて学校を後にしたのだった。
交差点で信号待ちしていた時だ。誰かが袖口をクイクイと引っ張ってくる。目を向ければ、猫のように細い目をした女子____クラスメートの日野祥子がにこりと笑っている。
日野はチョコレート菓子類にめがないため、クラスの連中からはショコラと呼ばれていた。成績優秀で人望もあり、教師受けもいい模範的な子だ。だが、一方では奇妙な事件の呼び水でもあり、毎回付き合わされている俺としては、少々厄介な存在である。
なので、最近はかなり警戒しているのだが____って、おい。
「お前、うちの町内じゃないじゃん。何でいるんだよ」
「はっ。ガキじゃあるまいし、集団登校だの集団下校だのかったるくて。さっき抜け出してきたんだよね」
悪びれることなく、堂々とほざくショコラ。抜け出してきたって……授業をサボるようなノリで言ってんじゃないよ。俺は思わず声を潜め、ショコラに顔を寄せる。
「大丈夫なのかよ。後でお前がいないのがバレて叱られたって知らんぞ」
「平気平気ー。私がいなくっても誰も気付かないし、困らないだろうし。ねえ、欧ちゃん。それよりも、この近くにあるんでしょ」
声を潜める俺とは裏腹に、ショコラはいつも通りの調子で話してくる。幸いにも、ショコラが違う町内の生徒だとは気付かれていないらしく、騒ぎ立てられることはなかった。まあ、これは時間の問題かもしれないけれど。
「ん?この近くにあるって何のことだよ」
「N寺に決まってんじゃん」
ショコラはさらりとそう言うと、俺の袖口を力強く引っ張った。信号はちょうど青から赤に変わり、みな一斉に歩き出す。だが、ショコラに引っ張られる形で、俺は集団下校の列から出されてしまった。
「ね、どうせ欧ちゃんは暇でしょ。行ってみようよ、N寺」
「はっ、はあああー?」
何を言い出すやと思えば。また発動したよ、こいつの面倒な好奇心が。
慌ててショコラの腕を振り解こうともがくが。もがけばもがくほど、凧の脚に絡まるように、ショコラは俺の腕をガッチリ掴んで離さない。そのまま、ズルズル引きずられていく。やがて、俺達は集団下校の列から大分離れたN寺入り口に並んで立っていた。
来てしまった……気を付けていたはずなのに……。
「ショコラ……。お前は俺に何か怨みでもあるのかよ。つい先日、殺人事件があった場所になんか連れてきやがって」
「まあまあ。いいじゃないの。実際に殺人事件が起きた場所なんて、滅多に行かれるもんじゃなし。今の時間帯なら、ちょうど警察の警備も薄れているから、侵入しやすいし」
「侵入しやすいって何だよ。お前、俺に犯罪の片棒担がせようって魂胆じゃないだろうな」
「莫迦だねえ。犯罪を犯す時は、欧ちゃんとなんか組まないよ。私の犯した罪を全部ひっかぶって、自殺してくれる人じゃなきゃ問題外。欧ちゃんなんてクソ真面目だから、すぐ自首しちゃうでしょ。ってかチキンだから、そもそも犯罪に手を染めたりしないでしょうが。自惚れないでよね」
「お前が罪を犯すその時は、単独犯でやれよ」
共犯者が憐れ過ぎる末路を辿らぬように。
そんなことを話しつつ。俺達はそっとN寺の境内に足を踏み入れる。ショコラの言った通り、この時間帯の警備は手薄らしい。一応、keepoutと書かれた黄色いテープが入り口に張り巡らされてあるが、警察官らしい人影は見当たらない。
テープをくぐり、境内を見てまわる。境内の中には御神木だろうか_____大きな木が茂っており、幹には注連縄が施されている。その木の下に、明らかに土の色とは違う、赤茶けたシミのようなモノが広がっていた。
「この場所で亡くなってたんだって」
ショコラが無表情で木の幹に手をやる。亡くなったというのは、先日、このN寺で殺害されたという小学生の女児のことだろう。俺は肩を竦め、木から距離を取った。ショコラは顔だけこちらに向け、淡々とした様子で、
「顎をね、毟り取られてたんだって」
「……あ、ご?」
「そ。顎だよ。亡くなった子は顎を毟り取られた状態で発見されたの。顎は遺体の近くで見つかったみたいだけど……誰が何のためにそんなことしたのかな。亡くなった子の直接の死因は心臓発作で、その後に顎を毟り取ったみたいだよ。」
「死者に鞭打つというか……ひでーことするな。いや、殺すことだってよっぽどだけどさ。遺体の損壊だろ。顎を毟り取ったなんて……」
「話は変わるんだけど……ねえ、欧ちゃん。最近ね、こんな噂が流行ってるんだけど」
ショコラは唇の端を歪め、ニヤリとした。
「お寺で【達磨さんが転んだ】をやると、呪われちゃうんだって」
【達磨さんが転んだ】とは、誰しも1度は聞いたことがあるのではないだろうか。主に小学生くらいの子が5、6人ほどで集まって遊ぶゲームである。そのルーツは鬼ごっこが派生したものであるらしい。
やり方は以下の通り。まず、じゃんけんなどで鬼を決める。鬼は正面を向いて目を瞑り、「達磨さんが転んだ」と叫ぶ。鬼以外の子は、鬼から10メートルほど離れた場所よりスタート。鬼が「達磨さんが転んだ」と言い終わるまでに、鬼との距離を詰める。
鬼は「達磨さんが転んだ」と言い終わったら振り返る。その時は鬼以外の子は一切の動きをストップさせなくてはいけない。もし、少しでも動いてしまうと、鬼に名指しされ、捕虜となり、鬼と手を繋ぐ。これを繰り返していく。
やがて、誰かが鬼にタッチすれば、捕虜は解放される。鬼以外の子は逃げ出し、鬼は追い掛け、誰かを捕まえたら鬼役の交代となる。地域別に色々なルールややり方はあれど、大筋はこんな感じである。
【達磨さんが転んだ】は、あくまでも遊びの一種であり、呪われるなんて話は聞いたことがない。この遊びをして呪われるというならば、小学生の時に友達と散々【達磨さんが転んだ】をしている俺は、とっくに呪われているはずだ。
「欧ちゃん、私の話ちゃんと聞いてる?【達磨さんが転んだ】をすれば呪われるんじゃないの。【お寺】で【達磨さんが転んだ】をすると呪われるんだってば」
「お寺で?つまり、場所限定の呪いなのか?」
「みたいね。他の場所でやる分には問題ないらしいんだけど、お寺では絶対にやっちゃいけないんだって。この辺りの小学校では、そんな噂があるみたい」
「……まさか、ここで亡くなったっていう女の子も、【達磨さんが転んだ】をして呪われたとか言うんじゃないだろうな」
「はは、まさかー。噂は噂だよ。何の確証もないし。でも、さ」
_____火のない所に煙は立たないって言うしね。
○○○
5分後。俺は御神木に右腕を押し付け、目を瞑っていた。
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ」
そう言って振り向く。ショコラは10メートルほど離れた場所で、わざとらしく片足を上げて立っていた。この距離だから、パンツは見えそうにない……って、そうじゃなくて。
「まだやるのー?」
面倒臭そうに呟く。ショコラは離れた位置から「当たり前だのクラッカー」と、意味不明なことを言ってくる。
そう。俺達はここ、N寺境内で【達磨さんが転んだ】をしているのだ。言うまでもなく、鬼役はじゃんけんに負けた俺。ショコラがどうしてもやろうと騒ぐので、渋々付き合ってやっているのだ。
「ったく、何で中学生にもなって【達磨さんが転んだ】なんてやらなきゃいけねーんだよ」
ショコラに言わせれば、童心に帰るのもたまにはいいんじゃないかとのことだが。先日、殺人事件があった場所で童心に帰るも何もない。ヘタな話、殺人現場でウロウロしている怪しい人物として、通報されてしまう。
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだ」
はあ。溜め息が漏れる。いつまでこんなことを続けなくてはいけないのだろう。そう思い、振り返る。
と。ショコラの姿はどこにもない。今し方までそこにいたはずなのに。その代わりにとでもいうように、おかっぱ頭の童女がそこにいた。
年は大体、7歳くらいだろうか。七五三の時期でもないのに、赤い着物姿だ。着物と合わせたのか、足元は赤い鼻緒の下駄。両手で目隠しするように両目を多い、じっとそこに立っている。
「え、だ、誰……?」
突然現れた童女に、俺は動揺を隠せない。何しろ降ってわいたかのように現れたのだから。童女は目隠ししながら、笑った。口が裂けてしまうのではないかと不安になるくらい大口を開け、べたっとした笑い方だった。
そのまま、微動だにしない。指1本動かさず、その場に目隠ししたまま立っている。
あ、ヤバイかも。
伊達にオカルト経験はしていない。本能的に危険と察知し、俺は踵を返して走る。その時、物凄い力で両肩を掴まれ、背中がずしりと重くなった。生臭い鉄錆にも似た吐息が掛かる。
「わっ、……」
ぼとり。肩先に白い何かが落ちる。ギョッとして顔を向けると、先ほどの童女が俺にしがみついていた。童女には眼球がなく、ぽかっと開いた瞳孔からは白い蛆虫がゾワゾワ蠢いていた。それがぼとぼと肩先に落ちているのだ。
「や、虫虫虫!わっ、やだやだやだ!」
恐怖より、生理的な気持ち悪さのほうが勝り、両手をバタつかせる。蛆虫はぼとぼとっと地面に落ちた衝撃で、黄色い体液が染み出し、苦しそうにもがく。暴れた拍子に何匹か踏みつけてしまったらしく、グシャリとした嫌な感触が靴越に伝わってくる。
情けない悲鳴を上げ、俺は童女をおぶったまま、ジタバタと暴れる。童女はしばらくしがみついていたが、やがて小さな右手で俺の顎を掴んだ。
ヤバイ。そう感じた時だった。
「どうも。美少女のお届け先です」
ママチャリに乗った姉さんが、空から降ってきた。
○○○
一瞬、何が起きたのか理解出来なかった。姉さんがママチャリに乗ったまま、空から降ってきたような気がしたのだけれど……白昼夢か?
だが、どうやら白昼夢ではない。ママチャリに乗った姉さんは、確かにそこにいた。つい今まで、俺の背中にしがみついていた童女をママチャリの下敷きにしているのだから。ちなみにママチャリの下にいる童女は、ママチャリに押し潰され、土下座するか
のように両手と顔をベチャリと地面に押し付けたまま、やはり動かない。
呆然としている俺に、姉さんはぶっきらぼうに言う。
「何してんの。早く後ろ乗れよ」
「………」
「置いてくよ」
姉さんがペダルに足を乗せたので、俺は慌てて後ろに飛び乗った。立ち乗りは出来ないので、横座りだ。尻が痛いが、文句を言おうものなら、ママチャリから振り落とされるのは目に見えているので、何も言うまい。
「掴まってな」
姉さんは勢い良くママチャリを漕いだ。下敷きになっていた童女が更に潰れたのを目の端に捉えつつ、1番気になっていたことを聞いた。
「ど、どうして姉さんがここにいるの?」
「さあ、どうしてでしょう」
はぐらかされた。こうなると、幾ら問い質しても、この質問には答えてくれないだろう。なので、次の質問をした。
「あの童女……、何なの」
「仏様だよ」
「……ほ、とけ?」
「正確に言うならば、仏様が落ちぶれた成れの果て」
ママチャリはN寺を出、信号を無視して交差点を突っ切る。けたたましいクラクションを背中に聞きつつ、俺は更に質問した。
「ど、どこに向かってるの?」
「S神社」
ママチャリは坂を登り、右に曲がる。そのまま、道なりにまっすぐ進むと、白い鳥居が見えた。姉さんはママチャリを鳥居のそばに停めると、俺を引っ張って神社の中に向かう。
神社の参道には、神主さんと思しき初老の男性が竹箒で枯れ葉を掃いていた。神主さんはチラリとこちらを見ると、ニコニコしながら話し掛けてきた。
「おや、珍しい。最近じゃあまり見掛けなくなったと思ったが、まだいるとはねぇ」
そして着物の袂から小さな鈴の付いた赤いミサンガのような物を取り出し、俺に差し出した。訳が分からず、ミサンガをただ見つめていると。姉さんが代わりにミサンガを受け取り、俺の左手首に巻き付けた。
「それは御守りだよ。半年は身に付けておくといい。入浴中も寝る時も、勿論学校に行く時も外してはいけないよ。坊やに危険が及ばなくなったその時、自然と紐の結び目が切れるから。嗚呼、それとね____」
【達磨さんが転んだ】は、寺でやらないほうがいいよ。
神主さんはそう呟くと、また箒を持つ手を動かした。
○○○
S神社からの帰り道。ママチャリを2人乗りしつつ、姉さんから聞いた話。
○
日本はさ、元々【神道】の国なんだよ。神様を崇め、奉り、敬う。だからこそ、神社や神社の関係者が絶対的な存在であったんだ。信仰の中心は神道であり、人々の関心は常にそこにあった。
だけれど。ある国から仏教が伝らしてくると、状況は一変する。それまで絶対的なそこにあった。であるはずの神道だったけれど、仏教に人々の関心が向き始めたからだ。仏教は瞬く間に広がり、寺や僧侶達が力をつけていく。いつの間にか神道は衰退の道を歩み始め、信仰の中心は仏教となりつつあった。
それが何を生み出したか_____そう、神社及び神道関係者は面白くないわけさ。今まで自分達こそが絶対的な存在であったにも関わらず、その地位を寺や仏教に脅かされているんだから。
だが、表立って寺や仏教を冒涜すれば、争いが起こりかねない。寺や仏教は力をつけてきていたし、仏教徒の反感を買うのもつまらない。では、どうするか。考えに考えた挙げ句、【達磨さんが転んだ】が生まれた。これを村の子ども達に遊びの一環として伝えたんだよ。
【達磨さんが転んだ】は、古来より伝わる日本の伝統的な遊びだ。地域によって、呼び名は変わってくる。例えば、関東地方では【達磨さんが転んだ】だけれど、関西地方では【坊さんが屁をこいた】という。九州地方では【インド人のくろんぼ】とかね。
実はこの3つの呼び名には、ある共通点がある。それは、どれも仏教を冒涜しているという点だ。
まず、関東地方での呼び名【達磨さんが転んだ】。
達磨と聞けば、正月に縁起物として購入する赤くて丸い顔をした置物を思い浮かべるけれど。あの置物のモデルは、インド出身の仏教徒である達磨大師という人物からきている。そして「転んだ」は、仏教の衰退を願うものだとされているんだとか。
次に関西地方でのや呼び名【坊さんが屁をこいた】。坊さんは寺の住職のことであり、「屁をこいた」というのは辱めでもある。
最後に九州地方での呼び名【インド人のくろんぼ】。インドこそ、仏教発祥の地であり、日本に仏教を伝来してきた国でもある。「くろんぼ」は、黒人種に対する差別用語だ。
【達磨さんが転んだ】【坊さんが屁をこいた】【インド人のくろんぼ】。この3つの呼び名は、それぞれ仏教を冒涜している言葉なんだ。
事情の知らない子ども達は、新しい遊びだと喜び、知らず知らずのうちに仏教を冒涜する言葉を紡いでいく。仏様も神様も、人間の信仰心によって出来ているもの。冒涜され続けていくと____つまり、信仰心が薄れてしまうと、人間に害を成す存在となる。信仰の対象から落ちぶれ、ただの怪異と化す。
さっきN寺でお前を襲った童女も、つい先日起きた小学生の女の子を殺したのも、犯人は同じ。力を失い、もはや化け物と化した、N寺に祀られている仏様だ。仏様がああなっちゃ、N寺もおしまいだね。遅かれ早かれ、廃寺になる。殺人事件の起きた寺に、参拝者は来ないだろうしな。
ちなみに。【達磨さんが転んだ】を寺でやると住職に怒られるけれど、神社でやると神主に褒められるみたいだよ。嘘か本当かは知らないけどな。
俺はS神社で神主さんから貰ったミサンガを見やる。姉さん曰わく、「外したら即死ぬよ」とのことなので、何があっても半年の間は付けていなくてはならないらしい。結び目が自然に切れるその時までは、絶対に。それだけヤバイ奴と関わってしまったと、そういうことなのだろう。
交差点での信号待ち。俺と姉さんが乗るママチャリの横に、低学年くらいの男の子と女の子が何やら話し込んでいるのが聞こえた。
「ねー、それ本当なの?」
「本当なんだってー。お寺で【達磨さんが転んだ】をすると、呪われちゃうんだって」
「えー、こわーい。呪われちゃうのやだー」
「でも、面白そうだよ。やってみようよ。ウソかホントか試してみたいなー」
「ハル君は誰に聞いたの、そんな怖いこと」
「うーんとねえ……」
男の子は少し考えた後、呟いた。
「チョコレートみたいな名前のお姉ちゃん」
作者まめのすけ。