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中編7
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鏡の中のニルセン。

1983年2月8日、ロンドン北部の閑静な住宅街のアパートから、一人の配管工が呼ばれた。

トイレの排水管に何かがつまっていたのだ。

現場に到着した配管工は、あまりの悪臭に悲鳴をあげた。

「なんだよこの匂い!!こんなに臭いのなんて初めてだよ!」

それでも恐る恐る懐中電灯で排水溝を照らすと、腐敗した肉塊のようなものがヘドロのように浮いていた。

4〜50個ほどはあるように見えた。

おまけに排水管からは何かドロドロした物が滴り落ちているのも見える。

これは一人では手に負えないと上司に泣きつくと、翌朝人数を増やして対応する事になった。

ところが、翌朝来てみれば肉塊はきれいサッパリなくなっていた。

どうやら誰かが夜中にこっそり処分したらしかった。

それでも、底をさらってみるといくつか残った肉片があがってきた。

その中の一つは明らかに人間の指であった。

大至急で警察が呼ばれ、近隣住民への聞き込みが開始された。

アパートの住人の話では、昨夜遅くに不審な足音が1階から最上階までを何往復もしていたという。

そこに住んでいたのが、デニス・ニルセン、37歳のおとなしい公務員であった。

2月9日、午後5時40分頃に職場から帰宅したニルセンを引き止め、ピーター・ジェイ警部は下水管を調べている旨を告げた━━━━━。

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「下水管が詰まったくらいで警察が来るなんておかしいですね」

『いや、実はね。。。。』

「。。。。ひ、人の体の一部が!?まさかそんな。。。」

『お宅の部屋を拝見させてもらっても?いや、これも仕事なもんでね』

━部屋。。。部屋に入られたら気付かれるに違いない。

僕はすぐにそう思ったよ。誤魔化せるとは思えなかった。

案の上、僕の部屋に踏み込んだ警部はすぐに臭いに気付いたよ。

長年の経験で人間の腐敗臭だとわかるんだろうね。

さっきまで温厚に話していた彼は、僕に向き直ると大きな声で怒鳴り散らしたんだ。

『おい!しらばっくれるのもいい加減にしろよ!残りの死体はどこに隠したんだ!』

ってね。

僕はもうとっくに観念していたんだ。

だから彼にこう言ってやったよ。

「ポリ袋2つに詰めて洋服ダンスにしまってあります。お見せしますよ」

そして玄関を入ってすぐの部屋に案内して、洋服ダンスを指差しながら彼に鍵を渡したんだ。

部屋に入ってからの臭いは凄まじかったからね。扉を開けることを躊躇っていた彼は、僕に訊いてきたんだ。

『死体はひとつか?それとも。。』

僕は正直に答えたよ。

「1978年から数えて、15,6あります」

と。

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デニス・ニルセンは1945年11月23日、スコットランド東部のブレイザーバラという漁村に生まれた。

父親は大酒飲みのノルウェーの兵士で、ニルセンが3歳の時に家を出ている。

また、母方の親族に精神異常者や自殺者が多いことも知られている。

閉鎖的な漁村では近親婚が当たり前のように行われていたらしいが、そのこととニルセンの犯行との因果関係は不明だ。

彼が6歳の時、父親代わりだった祖父が亡くなっている。

しかし、母親はニルセンに「死」というものをきちんと教えなかった。

祖父の遺体を前にニルセンは、祖父は眠っているのだと思っていた。

そして埋葬されても、いつか戻ってくるのだと信じていた。

そんな彼が祖父は二度と戻ってこないと悟った時の絶望は、凄まじいものであった。

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僕の問題はその時から始まったんだ。僕の感情は永遠に失われた。

それからの僕は、ずっと祖父を探し求めてきたんだ。

僕は孤独だった。もともとひとりぼっちだったけれど、祖父の死を理解してからは、いつも海を眺めながら、ぼんやりと過ごしていたよ。

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10歳の時だったかな。波打ち際で一人で遊んでいたんだ。

そこへ浜辺にいた年上の少年が、棒を砂浜に突き立てたんだ。

そうしたら、僕は大波に足をすくわれて海中に引きずり込まれた。

目を覚ました時、僕は砂浜に横たわっていた。

その少年が助けてくれたみたいだったんだけど、衣服ははぎ取られて周りに散乱しているし、僕の胸には彼の精液がついていたんだ。

。。。でも、これが現実だったのか、僕の空想なのかよくわからないんだけどね。

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僕は15歳で軍隊に入隊したんだけど、その時には自分がホモセクシュアルなんじゃないかって思い始めていたんだ。

でも、それはきっととても悪いことだと思ったから、隠し続けていた。

僕の欲望を処理するために、自慰をしていたんだけど。。。

僕は僕の裸を鏡に映して、それが死体だと空想しながらしていたんだ。

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軍隊生活も終わろうという1972年夏、ニルセンは部下の青年に恋をした。

青年もニルセンを兄のように慕い、2人で映画作りに熱中するようになった。

ニルセンの特にお気に入りだったのは、青年を死体に見立てた映画だったが、除隊と共にニルセンが焼き捨ててしまい、現存はしていない。

除隊後、ニルセンは軍隊時代のような仲間と出会う事を夢見て、警察官になった。

ところが、軍隊は若者ばかりだが警察は年寄りばかりで、がっかりした彼はわずか11ヶ月で辞職する。

その後、職業安定所の事務員になるのだが、これが一連の犯行の間接的な原因となり、職業安定所に通うホームレスが次々と彼の餌食となったのである。

犯行の直接的な原因は、1975年から始まったデヴィッド・ギャリハンとの同棲生活と言われている。

2人の間に性的関係はなかったが、ニルセンは彼と暮らすだけで満足していた。

だが、1977年5月にギャリハンが出て行くと、ニルセンはとてつもない孤独感に打ちのめされた。

ニルセンの自慰行為はどんどん異常なものになっていった。

自分がより一層死体に見えるように、顔に白粉を塗り、唇を青く塗り、目を擦って血走らせたり、Tシャツに弾創を作って血を滴らせ、口からも血を流したりした。

そして彼は妄想する。

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僕はナチスの親衛隊に撃たれ、森の中に放置されている。

そこに通りがかった年老いた隠者が、僕を裸にして洗い清め、(中略)穴を掘って埋める。

後日、彼は僕を掘り起こし、手で愛撫する。

そして、そして僕はついに。。。

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この妄想に出てくる「年老いた隠者」とはおそらく祖父であり、彼自身でもあるのだろう。

この妄想の中で、彼は既に殺人者でもあるのだ。

そしてこの直後、彼は最初の殺人を犯すのである。

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僕は孤独で寂しかったんだ。

クリスマスもひとりぼっちだったよ。

だからせめて年越しくらいは誰かと一緒にいたかったんだ。

1978年の12月30日、僕は夜の街でアイルランド人と仲良くなった。

そのまま彼を僕の家に連れて帰って、新年も一緒に過ごそうと誘ったんだ。

だけど彼には別な予定があるとかで。。。

どうやって殺したのかは覚えていないんだ。とにかく気づいたら、彼は死んでいたんだ。

僕は彼と年を越して、8月まで一緒に暮らしたよ。

切断して処分しようかと何度も考えたけど、あの美しい肉体を傷つけるような真似はしたくなかったんだ。

年越しの夜、彼の体を洗い清めて、服を着せ、テレビを一緒に観たり、夜は添寝もした。

それから床下に隠して、8月までそのままにしておいたんだけど、流石に腐敗臭がどんどん酷くなるから、庭で焼却したんだ。ゴムと一緒に。

え?もちろん臭いを誤魔化す為さ。

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以後、数カ月に1人のペースで犯行を繰り返すニルセンだが、犠牲者の大半は氏名不詳のホームレスである。

逮捕された時のニルセンは、既に精神が崩壊していた。

彼の最後の犠牲者スティーブン・シンクレアとの思い出を、彼は手記の中で次のように語っている。

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僕は、鏡の中の2人の体を見つめた。彼は僕より青白く見える。

僕は自分の全身に白粉を塗った。そっくりになった。

彼の体は素晴らしかった。僕はただひたすら、鏡の中の2人を見つめていた。

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このように空想の中で生きる彼は、現実に戻って死体を処分するのは相当の苦痛だったそうだ。

浴びるように酒を飲み、酔った勢いで解体していた。

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彼はその後、立証可能な6件の殺人と2件の殺人未遂で有罪となり、終身刑に処されたのである。

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参考文献 及び出展

『連続殺人紳士録』

ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
『現代殺人百科』

コリン・ウィルソン著(青土社)
『連続殺人者』

タイムライフ編(同朋舎出版) 
週刊マーダー・ケースブック24(ディアゴスティーニ)
『死体処理法』

ブライアン・レーン著(二見書房) 
『世界犯罪百科全書』

オリヴァー・サイリャックス著(原書房) 
『世界犯罪クロニクル』

マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)

「殺人博物館」

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まりかさん、こんにちは(^^)
作品読ませていただきました!
絶望からの被害妄想… と言ったところでしょうか。
思考、行動が有らぬ方向へといき、歯止めがきかなくなった結末ですね(>_

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胸〜糞〜〜わ”〜り”ぃ〜〜す(笑)

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なんというメンタルの弱さ。。
私も最弱かと思ってたけど、ここまで弱くはないなぁ~~

妄想力だけはあるんだから、別の方向に使えばよかったのに。

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あ!二重になりますがタイトルセンスにイイネボタンが欲しいですw。

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