あなた、どうしてもわたくしの話が聞きたいと仰るの?
どうしても?。。。。
そう。。。
わかりましたわ。
その代わり。。。。
そうね、ふふふ、わたくしの願いもひとつ聞いていただけるなら、だけれど。
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わたくしは1560年、バートリ家に生まれましたのよ。
バートリ家はハプスブルク家の流れを汲む家柄で、代々トランシルヴァニア地方を治め、叔父のステファンはポーランド国王も務めましたわ。
そう、仰る通り、名門中の名門よ。
まあ、ステファンは癇癪の発作で亡くなりましたけれど。
わたくしも、幼少の頃から激しい頭痛の発作に悩まされていましたの。
発作が起きると薬を飲んでも何をしても効かないし、それはそれは地獄の日々でしたわ。
ある時また発作が起きた時に、あんまりにも痛くて、まだ子供だったわたくしはそばでわたくしの世話をしていた召使いの肩を噛み千切りましたの。
そりゃあもうすごい悲鳴をあげて彼女はのた打ち回っていましたわ、ふふふ。
でも、その悲鳴を聞いた途端、嘘のように頭痛が治りましたの。
良い方法を見つけたと思いましたわ。
だってあなた、誰かが痛い思いをして悲鳴をあげれば、わたくしの頭痛は綺麗サッパリ治るんですもの。
それからは発作が起きる度に召使いを痛い目に遭わせましたわ。
そうそう、わたくしは名家の人間ですから、幼い頃から既に伴侶となる方は決まっていましたの。
ナダスディ家のフェレンツという方でしたわ。
ナダスディ家も900年以上も続いた高貴な家柄でしたから、縁組は申し分ないものでしたの。
わたくしが15歳の時、盛大な結婚式をあげました。
わたくし達はそれぞれの家が所有する17の城のひとつ、チェイテ城に住むことになったのですけれど。。。
時代も時代でしたから、夫は戦に出てばかりで、まだ新婚のわたくしのお相手なんてまったくしてくださらなかったわ。
それに。。。お義母様は事あるごとにわたくしに文句ばかり仰る方でしたの。
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「貴族の娘は白粉などつけるものではありません」
「エリザベート、何ですか?このほつれ毛は?きちんと髪を結いなさい」
「エリザベート、袖が長過ぎますよ。透かしの袖は出してはいけません」
「エリザベート、いつものビロードの胴衣はどうしたのです?」
「エリザベート、白麻のレースはもっと張りなさい」
「エリザベート、音を立てないように食器を持ちなさい」
「座るときの仕種はそうではないでしょ?」
「エリザベート、その言葉使いは何ですか?」
「エリザベート、しゃべる時はこっちを見なさい」
「何よ。その顔? 何か不満でもあるの?」
エリザベート、エリザベート、エリザベート!!
彼女がわたくしの名を呼ぶ時に、小言でなかった事などただの一度もありませんでしたわ。
おかげで、頭痛の発作が頻繁に起きるものだから、わたくしはなるべく部屋に閉じこもって、召使いを痛めつけることで凌いでいましたの。
方法ですって?それを聞いてどうなさるの?
。。。。まあ良いですわ、教えてさしあげます。
ある召使いには、指と爪の間に針を差し込んで、悲鳴をあげさせましたわ。
またある召使いには、裸にして体中に蜜を塗り、そのまま蟻でいっぱいの地下牢に閉じ込めましたの。ふふふ。
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ところで、わたくしには兄妹がいるのですけれど、わたくしの話よりもそちらの方が面白いかもしれなくてよ?
兄のイシュトヴァンは狂人で、時おり訳の分からぬことを言っては召使いを困惑させていましたわ。
例えば、真夏のある日に、そりで雪山を下ると言い出したこともありましたの。
彼の命令を実行するために、召使いたちは汗だくだくになって雪の代わりに白い砂をまき、鹿革を張ったそりを準備しなければならなかった。
しかも色情狂だった兄は召使いの娘から老婆までその毒牙にかけましたのよ。
妹クララも、倒錯した性欲の持ち主で何人もの娘をベッドに誘い込んでは、そのうちの何人かは首を絞めて窒息死させられたそうですわ。
ああそうそう、叔父のガボールは自分の身体に悪魔が取り憑いていると信じ込んでいる異常者で、深夜、不気味なうなり声を上げては手当たり次第、そこら中のものに噛み付いたりしていましたわ。
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。。。。。まだわたくしの話がお聞きになりたいの?
あなたもよほどの変わり者ですわね。ふふふ。
わたくしが40歳の頃でしたわ。
夫のフェレンツが51歳の若さで亡くなりましたの。
夫がいなくなれば、あんな女、わたくしの母でも何でもありませんもの。
もう我慢なんてしなくても良くなりましたわ。
わたくしが我慢をしなくなったせいかどうかわかりませんけれど、あの女も程なくして夫の後を追いました。
わたくしが殺したんじゃないかって?
お気をつけあそばして。口は慎むものよ。
だいいちそんなことどうでもいいじゃありませんの。
あの女の話なんて、小指の先ほども口にしたくありませんわ。
そんなことより、いつでしたかしら。
ある晩わたくしの髪の毛の手入れをさせようと召使いを呼びましたの。
そうしたらその女、わたくしの大切な薬草の入った小瓶を落として割ってしまいましたのよ!
わたくし、振り向きざまに彼女の顔にヘアピンを刺してさしあげましたわ。
彼女は悲鳴をあげてのけぞったのですけれど、彼女の顔から飛び散った血が、わたくしの手につきましたの。
汚らわしい召使いの血が、わたくしの手に。
そう思ったら身震いがして、すぐに拭き取りましたの。
そしたらあなた。。。。。
血のついていた部分だけが、若い頃のように瑞々しく、透き通っていましたのよ。
そう、これだと思いましたわ。
わたくしが若さと美しさを失わずにいるには、若い女の生き血が必要でしたのよ。
それからはもう、ありとあらゆる手を使って若い女を手に入れましたわ。
だって血が必要なんですもの。
わたくしの美貌の為に死ねるのなら、彼女達も悔いはないはずですわ。
それにわたくしは選ばれた人間なのです。
わたくしの美貌の為なら、生き血を手に入れる手段なんて何でも許されるのです。
下男を使って城の奉公と言っては農民から若い娘を少しのお金で買ってこさせていたのだけど、どの家も喜んで娘を差し出していましたのよ。
娘達もみな自ら城へ来ることを選んでいましたわ。
そりゃあそうですわよね、家畜の世話や汚い野良仕事なんてせずに、わたくしの美貌の糧になれるのですもの。
だから彼女達の生き血を戴いたあとは、丁重に葬ってさしあげましたわ。
城の庭の片隅に穴を掘って、そこに埋めましたの。
その後で、彼女達の上に、真っ赤な薔薇を植えてさしあげましたわ。
彼女達のおかげで、わたくしだけでなく、殺風景だった城の庭まで美しくなりしまのよ。
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。。。。まあ、まだお聞きになりたいの?
流石にこんなにおしゃべりしたのは久しぶりすぎて、少し疲れましたわ。
残りのお話は後日でもよろしくて?
夜ふかしは美容の大敵ですの。
あなたも少しゆっくりお休みなさいな。
では、後日また。。。。
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参考文献及び出展
「世界犯罪者列伝」アラン・モネスティエ著(宝島社)
「世界悪女物語」澁澤龍彦著(河出書房新社)
「吸血鬼幻想」種村李弘著(河出書房新社)
「ドラキュラ学入門」吉田八岑・遠藤紀勝著(社会思想社)
殺人博物館
不思議館
Wikipedia
作者まりか
めっちゃグロいです。
シリアルキラーなどの実在の殺人鬼の話が好きだと仰ってくださる方が結構いらしたので、今回はまったく端折っておりません。
しかしながら書いているアタシの精神面にもかなりのダメージを喰らわす内容なのと、かなりの長さになってしまう事から、前後編に分けさせていただく事にしました。
もしかしたら前中後編になるかもしれません。
グロ耐性のない方でそれでもお読みくださる方は、閲覧注意をかけておきますので、くれぐれも食事前にはお読みにならないようご注意ください。
シリアルキラーなど実在の殺人鬼に関する作品につきましては、文章に起こすまでで精神力が持ってかれてしまうので、画像差し込みはしませんが、ご了承くださいませ(*´ω`*)