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中編4
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トイレの花子さん

トイレの花子さん、という怪談がある。

誰でも一度は聞いたことのある、あの話だ。

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話は多少変わるが、僕の通っていた小学校の同クラスに、『田中花子』という今時珍しく、そして極めて平凡な名前だ。

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珍しく、そして平凡な名前とはいじられるもので、その子もクラスの男子からからかわれ、いじめられていた。そのいじめは過激なもので、靴を隠す、髪を引っ張る、授業中、後ろから消しゴムや紙くずを投げる、挙句の果てには『トイレの花子さん』というあだ名をつけられ、トイレに軟禁状態にされることまであった。

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当然、その子は苦しみ、悲しみ、そして他人を恐れるようになった。

しかし子供とは残酷なもので、その反応までもいじりはじめる。そして……。

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その子が精神を病み、入院してもその子供たちは何も思わない。なぜ休んでいるのかを疑問に思う程度だった。しかし、その子の事もやがては忘却の彼方へ置き去り、時は流れていく……。

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僕が大人になり、家族が出来ても、彼女のことが忘れられなかった。何故、僕は彼女を助けてあげられなかったのか…。後悔だけが僕を苛む。

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やがて、僕にも子供ができ、小学生になった。

子供は当然、学年が上がる。

そして、彼女と同じクラスになった学年の時…。

「ねぇ、お父さん」

「ん?なんだ?」

「わたしの学校にね、お化けが出るんだって」

何処の学校にもある、七不思議だろうか?

「へぇー、どんなお化け?」

「えっと、『トイレの花子さん』っていうオバケ!」

「え……?」

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僕は戦慄する。いやまさか、でも…。

色々な思考が

巡る。

巡る。

巡る。

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もしかしたら、その話の元は、彼女なんじゃ…?

「お父さん?ねぇ、お父さん?聞いてる?」

「あっ、あ、あぁ、聞いてるよ、それで、トイレの花子さんがどうしたんだ?」

「そのトイレの花子さんはね、昔いじめられてて、ふくしゅう?っていうのをやるんだって!」

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間違いない、彼女だ。僕は確信した。

彼女が、復讐をしようとしている……。

「へぇ、怖いねぇ」

「うん!」

「さ、もうすぐ時間だ、学校に行っておいで」

「いってきまーす!」

………彼女は、どうやって復讐をするつもりなのだろうか?いや、中には遠くへ行ってしまった者もいる、僕の考えすぎだろうか…。

しかし、それにしては…

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shake

『プルルルルルル、プルルルルルル』

「うわぁ!び、びっくりした…」

電話か…全く、間の悪い電話だな。

「……はい、もしもし」

「あ、こんにちは、突然すみません、実は…」

「え……?」

まさか、そんな馬鹿な…!

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急いで学校へ向かう。

走る。

走る。

走る。

学校へ、速く学校へ…!

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「あ、こっちです!こっち!」

僕の娘の担任だ。担任に促されるまま、僕は目的の場所………トイレへ向かう。

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人が集まっている。当然だ、何故なら、僕の娘が、“トイレに腕をひっぱられるようにずるずると滑っている”のだから。

「お父さん!おとうさぁん!」

娘は泣き叫んでいる、まさか、こんな復讐の仕方をするなんて…!

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『…ミン……………アソ…………カッ………タ』

何か聞こえる。なんだ?これは…。

これは……これは……………彼女だ。

耳をすます。

『ミン…ナ…トアソ…ビタカッタ…』

聞こえる、これは彼女の声だ。心の声。

苦しみながらも、耐えながらも、皆と、同じように過ごし、そして遊びたかったのだ。

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「ごめん…ごめん、ごめんね、田中さん」

『ナ…ンデ…ワタシ…ガアン…ナメ…ニアワナク…チャ…イ…ケナ…カッタ…ノ……?』

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娘は引っ張られる。しかしそれでも、彼女は僕に話しかける。

なんで僕は…彼女のことを守れなかった?彼女を救えなかった…いや、救おうとしなかった?簡単だ。巻き込まれたくなかった、怖かった、なにか誤解を受けたくなかった、そんな…そんな僕の勝手な都合で彼女を…見殺しにしたんだ。

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「ごめんね…でも、それでも、僕の娘を、うばわないでほしいんだよ…。僕を、僕がそっちに行って、君に償うよ、だから…!」

『………ゥ』

瞬間、娘を引っ張る力が消えたのか、後ろ向きに転んでしまう。

「お父さん、おとうさぁん!」

泣きついてくる、でも……。

「……ごめん、怖い思いさせてごめんな、でも、もう、二度と怖い思いはさせないから……僕は、少し出かけてくるよ。大丈夫、すぐに戻るよ」

「……おとう、さん?」

「行ってくるよ」

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そして僕は、彼女の元へ向かう。

「……ごめんね、田中さん。でも、僕に償わせてほしい。僕が…そっちに行くから、だから…」

『……ト…ウ』

「…え?」

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見れば、彼女は笑っていた。笑顔だった。そして……泣いていた。可愛らしく笑いながら、泣いていた。

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『ありがとう…でも、キミの気持ちは、苦しみは、いらないの……私は、キミを、恨んではいないから…だから、キミの娘も返すよ……ありがとう………さようなら』

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そう言い残し、笑いながら、泣きながら、彼女は消えた。僕の苦しみを無くして。

…………およそ、僕が知っているような、よく聞くような話とは似て非なる出来事だったけど、その出来事は、僕の苦しみを消してくれた。

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でも、彼女の恨みや悲しみは、本当に、消えたのだろうか……。

Concrete
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