…………やぁ。
ん?あぁ、いや、別に具合が悪い訳じゃないよ。
ただ……君に、私の過去を話してしまったからね。
どう接したらいいのか、わからないだけだよ。
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さて、じゃあ気分転換に、話でもしようか?
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…………此処は、何処だ。
俺の家ではない。
俺は、ベッドで寝ない。
俺は、狭いアパート暮らしだ。
俺は、俺は……。
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俺は、俺には、身体が、あるはずだ……。
何故、身体が無い…?
なのに、何故、生きている?
俺は、なんなんだ……?
俺は……いや、お前は、誰だ…?
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目が覚める。当然、ベッドではなく布団の上で。
………酷い夢を見た。
(気味の悪い、夢だったな……)
俺の身体がなく、自分を誰なのかわからなくなり、自分にひたすら、「お前は誰だ?」と言うなんて……。
まるで、ホラーだ。
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夢だということもあるが、今は12月。
某ハンバーガーショップに務める俺にとっては大忙しの時期だ。夢のことなんてすぐに忘れてしまった。
「斉藤、お前ちょっと裏に回ってくれるか?人手が足りん」
「あ、はい、わかりました」
店長に呼ばれ、裏に引っ込む。全く、何故この時期はやれクリスマスだ、やれ年末だと、忙しいことが多いのかね…。
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ふぅ……やっと終わった………。
今日は忙しかった。しかしそれは仕事にやり甲斐があるという事だ。仕事人間の俺にとっては嬉しいことこの上ない。
「うぅ……寒っ!」
今日は特に冷え込むな……。
速く帰って寝よう……。
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私は、“彼”の枕元にいた。
頼まれた訳では無い。
“彼”の気配を感じて、ここに来た。
“彼”は寝ている。とても静かに。
まるで…………そう、死んでいるように。
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が、当然死んではいない。
“彼”の見た夢。
あれは、夢ではない。現実だ。“彼”は現実では寝ているが、あちらでは生きている。
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とても小柄で、華奢で、顔立ちも整っていて、“彼”はそんなに綺麗なのにも関わらず、こちらではなく、あちらで生きている…否、こちらでは、あちらのように生き生きと過ごせないだろう。
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“彼”は、女性だ。
作者プリンヒルデ
神成弥子シリーズ、今回は怖い話ではないです。