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昔話【神成弥子シリーズ】

中編6
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昔話【神成弥子シリーズ】

これで会うのは3度目だね。

でも残念、最近は私の所に相談に来る人が減ってね…。

どうも、猿夢の件で来たあの3人が原因らしいよ。

ほら、3人とも死んじゃったじゃない?それで、この事務所に相談に来ても解決せず、死んじゃう。

って噂が出ちゃったんだってさ。

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でもまぁ、折角だし…昔話でもする?

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これは、十年前の話。

「霊が視える女の子」がいた。

その子は幼い頃から霊を視る事ができた。

当然、まだ霊と人間の区別がつかず、時折危ない目にあったりもした。その度、彼女は親に怒られたり、心配をかけたりしてしまった。

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暫くして、霊と人間の区別がある程度わかるようになった時、彼女は既に孤立していた。

彼女の周りの人間は、自分に視えないものが視えるその彼女を恐れ、不気味がり、そして拒んだ。

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当時、その彼女は17歳。みんなに拒絶され、恐れられたその子は、既に人間に対しての感情がほとんど無く、ただ、つまらない世界を眺めているだけだった。そんな時…。

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「こんにちは。君は、霊が見えるんだって?」

帰りのHRが終わり、彼女が帰ろうとした時、彼が現れた。彼は彼女と同じ17歳。

彼女はまた、からかいに来たんだな、となんとなく思っていた。だから、冷たく返した。

「………だから?」

そんな彼女の態度にも不満を示さず、彼は続けた。

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「実は、僕も視える…という程ではないけど、そういうものの気配、とでも言おうかな?まぁとにかく、それを感じることが出来るんだ」

彼女は驚いた。何故なら、そんな突拍子も無いことを言い始めたのだ。しかも、初対面で。思わず、

「はぁ?」

と素っ頓狂な声を上げた。

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彼は苦笑し、

「ごめん、いきなりで驚いたよね…。でも、本当だ。君は、僕よりも感受性が高いから視ることが出来るんだろうけど…。僕は、視る事が出来ないんだ」

「……本当に?」

「え?」

「本当に感じるの?」

彼女は彼をまだ疑っていた。長い間拒まれ、恐れられてきた彼女は、そう…人間不信になっていた。

「………やっぱり、信じられない、かな?」

彼はそう言って、悲しそうに笑った。

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「証拠」

「え?」

彼女はボソッと、小声で言った。

「本当、なら、証拠見せて」

そう言うと、彼は俯き、黙った。

ほらね、やっぱり感じることが出来るなんて嘘じゃないーーーーーーそう言おうとした時、彼は顔を上げた。

「残念だけど、今証拠を見せることは出来ない。だって…」

「………なに?」

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「だって、今、この場には霊が存在しないから」

「………………」

今度は彼女が黙る番だった。事実だ。今この場には霊はいない。

「わかった、信じてあげる」

彼女はそう言って、微かに微笑んだ。

「あ、うん…ありが、とう……」

彼は少し赤面しながら彼女に礼を言った。

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それから、彼女と彼は時間さえあれば霊のいる場所に赴き、色々な噂の真相を確かめた。

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例えば、昔そこで殺され、恨みを持って現れる女性の霊の噂。

例えば、もう数十年誰も住んでない廃墟に出る謎の人影の噂。

例えば、霊の通り道、所謂霊道に夜な夜な霊の群れが出る噂。

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ほとんどがデマカセだったけど、彼女は楽しかった。一緒に歩いて、一緒に話して、一緒に笑って……。そんな『普通』の事が、楽しくて、嬉しくて、彼女はいつしか、彼に恋慕を抱いていた。

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彼も同じく、彼女に恋慕を抱いていたらしく、二人はすぐに恋仲になり、共に同じ家で暮らし始めた。それが、彼女の幸せの絶頂だった。

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二人は妙な噂を聞いた。

どうも2人の住んでいる家のすぐそばにある廃墟。そこに、霊がいるという噂。

二人は昔のように、噂の真相を探りに行った。しかしどうも他の場所と様子が違う。

二人は確信した。

『ここは本物だ』と…。

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「ねぇ……」

彼が声を発する。

「なに?」

彼女は周囲を警戒しつつ、彼に答える。

「速く、此処を出よう。嫌な感じがする。」

それは彼女も感じている。しかし、彼女は一つだけ疑問があった。

(彼はこんなに臆病だったっけ?)

彼はいつも、堂々としている。物言いこそ穏やかだが、その心には自分の信念を持っている、強い人だった。

「どうしたの?いつもより随分と怯えているようだけど」

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「本当に、嫌な予感がする。…………まるで、此処の霊が僕達を殺そうとしているような…そんな感じがするんだ」

「………あなたの言うことはもっともだね。わかった、戻ろう」

その時だった。

『………逃がさない』

誰かの…否、何かの声が、聞こえた。

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「……え?」

思わず漏れ出た声。そしてそれをかき消す音が響く。

ギィィィィ…バタン!

扉が閉まる音、そして「何か」の声。

『ここからは、出られない』

瞬間、二人は後悔した。

(こんな所に来なければ…!)

『あなたたちは、もう、出られない…ここで………死ぬ』

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「………どうしよう」

彼女は困り果て、彼はずっと黙ったままだった。

やがて、彼が決心したように上を向き、何処へともなく話しかける。

「……悪いのは、僕だ…。呪うなら、殺すなら、僕だけにしてくれないか?」

「……何を言ってるの?」

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「彼女は悪くない、全て僕の責任だ。僕が彼女の身を案じないで、半ば遊び半分で此処に来てしまった……彼女の方がずっと、ずっと怖くて、覚悟があったというのに…僕はそれを踏みにじったも同じだ。だから……」

「………いい加減にして」

静かな、それでいて確かに怒りの色を孕んでいる声が聞こえた。言うまでもなく、彼女だ。

「私は、あなたのおかげで、今もこうして生きている。今、笑っていられる。それなのに……心の依代でもあるあなたがいなくなったら、私は、私は……!」

怒り、そして悲しんでいながらも、自分の想いを伝える。彼は微笑み、

「大丈夫…」

と、一言だけ言った。

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『あなたたちは、逃がさない。1人も』

「いいや………逃げられないのは、僕だけさ」

『……………』

何かの声が沈黙を放つ。

『ではこうしよう……あなたたちのどちらかは死に、どちらかは呪いを受ける…』

「もちろん、死ぬのは僕だ」

「いいえ、死なせない」

彼の覚悟を決めた言葉を、それでも彼女は否定する。

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「何故?僕は…死ぬことより、君を失うのが怖いんだ。だから、僕が代わりに…」

「違う」

「……え?」

「あなたは、私を失うのが怖いと言ったよね?でも……それは私だって同じ。何故、死ぬより辛いことを私に押し付けるの?共に生きるか、共に死ぬか…。その二つで十分」

彼は黙る。静かに、彼女の話を聞いている。 

「…………私を置いて、1人だけ死のうだなんて……あなたまで、私を苦しめるの?悲しませるの?」

「それは……」

彼が答えを言おうとする。

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姿を見せない何かは、二人の様子を静かに見守っていた。これから2人は何を企むのか。それを知るために。

「………わかった…」

やがて、彼女がため息混じりに何かへの同意の意思を示すと…。

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『では、答えて。あなたたちのどちらが死んで、どちらが呪いを受けるか』

「…………死ぬのは」

「…………呪われるのは」

二人は同時に喋る。まるで、合唱のように、それは旋律を奏でていた。

「……彼だ」

「彼女だ」

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それは、お互いにとって、何処までも残酷で、悔しくて、恐ろしくて、そして、悲しい、選択だった。

そして、彼は死んだ。

そして彼女は呪われた。

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何かは、彼女に最後の言葉として、こう伝えた。

『その呪いは、あなたの大事なものを失わせる。たとえこの先、恋人が出来ても、それが失われる…。あなたに、幸せになる資格なんてない』

彼女は、これでよかったと思った。

(私は、彼以外を、愛せない……でも、それでいい。それで…………)

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そして、彼女は彼を死なせたのは自分だと、ずっと思っているんだ。そう、今この瞬間も、彼女は彼への謝罪で心が埋まっている……。

これが、彼女の人生なんだよ。

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私の、過去。

決して消せない、罪。私は今も、彼を想っている。これからも、ずっと、ね。

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