ごきげんよう。
昨夜はよく眠れまして?
わたくしはあんまりよろしくありませんでしたわ。
でも大丈夫。
すぐにそれも解決できますもの。ふふふ。
ああ、そうでしたわね。どこまでお話しましたかしら。
そうそう、庭を深紅の薔薇で埋め尽くしたところまででしたわね。
わたくし、真っ赤な色が大好きですの。ふふ。
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彼女達はそれは良い仕事をしてくれましたわよ。
わたくしの城の地下室には、天井に鉄の籠を吊り下げられるようにしていましたの。
そこに。。、そうですの、彼女達に入ってもらいますの。よくわかりましたわね。
そうしてから天井まで高く吊り上げて、召使いに下から灼けた火鉢棒でつつかせて。。。
そうしたら、彼女達は半狂乱になって、とても素敵な悲鳴をあげますのよ。
「ぎゃー!」だの、「助けて!」だの叫びながら、籠の中でのた打ち回っていましたわ。
でも、籠の中には太くて鋭い針が無数につけてありましたの。
暴れれば暴れるほど、彼女達の体をその針が刺す。
あんまり暴れるものだから、自ら肉を抉られに行っているようにも踊っているようにも見えましたわ。
ですからわたくしは籠の下でただ待っているだけでよろしいの。
降り注ぐ深紅の液体が、わたくしの体を濡らしていく。。。
悲鳴と、生き血と。。。
とても素敵な時間でしたわ。
それからね、わたくしとても素晴らしい物を作らせましたのよ。
後には鉄の処女と呼ばれていましたわね。
鉄で作られた人型の入れ物。
これは機械仕掛けで動きますの。
処女と言われるからには女性を形どっていましたから、お化粧を施して、胸には宝石の首飾りまで嵌め込ませましたの。
中は空洞になっていて、この宝石を押すと、「彼女」の腕が高く上がり、近くにいる女を抱きかかえ、開いた胸の中に包み込む。。。
そうすると、自動的に扉が閉まる仕掛けになっていましたの。
その扉の内側にも、鉄の籠と同様に、太くて鋭い無数の針がついていて、扉が閉まると同時に女達の悲鳴と、大量の生き血が採れるのですわ。
悲鳴はすぐに途絶えてしまうのが残念ですけれど、しばらくすると穴から溝を伝って彼女達の生き血が、バスタブの中に注がれていく仕掛けですの。
ね?素晴らしい発明でしょう?
もうひとつ残念なのは、いくら召使い達が体重をかけて両手で押しながら死んだ女達の体を絞っても、人ひとりから搾り取れる血液なんてたかが知れていて、わたくしの体をしっかりと浸すには全然足りませんの。
ですから、時には立て続けに女達を鉄の処女に入れて、バスタブ一杯になるまで絞る事もありましたわ。
さっきまで生きていた人間の血って、温かいんですのよ。
わたくしはそれを存分に全身に浴びて、時には両手に掬って飲んだ事もありましたわね。
でもこれも長くは使えませんでしたわ。
女達の血糊で、お人形は錆びて使えなくなってしまいましたの。
わたくしの美貌を保つ為には、若い娘の穢れのない生き血が必要ですのに、そのせっかくの生き血が錆なんかで穢れてしまっては何にもなりませんから。
ですからもっぱら鉄の籠が活躍していましたわね。
ただわたくしがひとつだけ犯した過ちは、農民の娘だけで満足できなかった事かしら。
いくら若い処女とは言っても、出は農民。
身分の低い者の血は、やはりどこかしら穢らわしい感じがしてしまいましたの。
それで、貴族の娘を花嫁修業と称してかき集め、彼女達の生き血を戴きましたわ。
やはり農民のような下等な人間の物と違って、曲がりなりにも高貴な生まれの乙女の血は、格別でしてよ。
でも、おそらくはわたくしが集めた娘達のうちの家の者。。。もちろん貴族ですわね。
その誰かが直訴でもしたのでしょう。
ある日わたくしの城に、大勢の役人達が押し寄せましたの。
有無をも言わせてはくれませんでしたわ。
彼らは松明を手に城の地下室へ降り、わたくしの秘密を白日のもとへ晒しましたの。
まだ庭に埋めていない娘達や、これからわたくしの為に生き血を捧げるはずだった娘達が、そこにはたくさんおりましたから。
頭を潰された者や、肉を切り刻まれた者、体中が穴だらけの女なんて、数え切れないくらいにありましたわ。
生き血を捧げるのを待っている女達も、食事は仲間の血肉でしたの。
もう壊れていたでしょうね。
。。。。これが元で、わたくしは裁判にかけられる事になりましたの。
確か1611年の1月でしたわね。
ビツシェで行われたのですけれど、わたくしは出廷せずに済みましたわ。
バートリ家が嘆願書を提出して、それが受理されましたの。
死刑にすらなりませんでしたわよ、うふふふ。
でも、ツルコ達召使いは、生きたまま火炙りにされたそうですわ。
仕方ありませんわよね、直接手を下していたのは彼ら。
わたくしはただ生き血が搾り取られるのを待っていただけ。
それを美貌の為に全身に浴びただけですもの。
だけど忘れませんわ。
バートリ家は自分達の保身の為に、わたくしをチェイテ城に幽閉したのです。
扉も窓も全てが漆喰で塗り固められた、狭い部屋にね。
頭痛の発作を抑えるために召使いを痛めつける事も、美貌を保つ為に生き血を浴びる事もできない、狭くて暗い部屋に。
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そうね、わたくしはその後死んだ事にされていたようね。
でも。。。うふふ。じゃあここにいるわたくしは何だとお思いかしら。
幽霊?
違うわね。だってほら、わたくしは触れる事ができますもの。
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どうやって生き延びたのか。。。?
さあ、どうやってかしら。
あなたの目の前にいるわたくしは、老婆に見えるかしら?
ふふふ。若い娘にしか見えないはずですわよ。
ああ、鏡はおよしになってね。
わたくし、城を出てからは鏡を見るのが嫌になりましたの。
さあ、わたくしの話はこれでおしまい。
最初の約束通り、わたくしの願いも叶えてくださるのよね?
ここまで蘇るのに、苦労しましたわ。
でももう、それもあなたで最後。
あとは心臓を食すだけですの。
ふふふ。逃げられませんわよ?
ここは、わたくしの世界なのですからね。。。
作者まりか
なんとか前後編にまとめることができました。
ちょっとしばらくレアなお肉は食べられそうにありません( ;∀;)
少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです(*´艸`*)♡
参考文献
「世界犯罪者列伝」アラン・モネスティエ著(宝島社)
「世界悪女物語」澁澤龍彦著(河出書房新社)
「吸血鬼幻想」種村李弘著(河出書房新社)
「ドラキュラ学入門」吉田八岑・遠藤紀勝著(社会思想社)
「世界残酷物語(上)」コリン・ウィルソン著(青土社)
「世界の悪女たち」マーガレット・ニコラス著(社会思想社)
「エロスの涙」ジョルジュ・バタイユ著(リブロポート)
殺人博物館
不思議館
Wikipedia