会社帰りの電車の中で、10年ぶりに高校時代の友人と出会った。
吊革に手を引っ掛けながら懐かしい話に花を咲かせていると、ふと昨夜見た夢の内容を思い出した。
「そういや昨日、夢で大学受験失敗する夢みてさー。起きた時、夢なのにかなり凹んじゃったよ」
友人は興味が無かったのか「へー、そうなんだ」と言っただけだった。
「それにしてもこの電車の中暑くないか?」
友人が襟元を崩して大袈裟にパタパタと手で仰ぐ。
「冷房効いてんのにどこが暑いんだよ?」
俺は思わず吹き出してしまった。大袈裟なとこなんて全然変わってない。
友人は俺が降りる一つ手前の駅で降りていった。
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それから暫くたった週末の夜、予約していたレストランで彼女とディナーを食べていると、後ろの席から聞き覚えのある声がした。
トイレに立った時にさりげなく見てみると、こないだ電車の中で出会った友人だった。向かいには可愛らしい女性が座っている。
「おいおい、偶然ってあるもんだな!おい!」
俺に気づいた友人は大袈裟に驚き、満面の笑みで俺にハグをしてきた。昔からこいつはオーバーリアクションだ。やはり変わってない。
「なかなか可愛い彼女だな」
「お前の方だって」
二人トイレで連れションしながら、笑い合う。
その時ふと、昨夜見た夢の話を思い出した。
「そういや昨日、夢で浪人しながら部屋に引き込もってる夢見てさー。安アパートに一人暮らしなんだけど、部屋ん中ゴミ屋敷みたいでぐっちゃぐちゃだったよw」
友人は「ふーん」と興味なさそうに呟くと、先に手を洗い「なあ、この店の空調壊れてんのかな、暑くね?」と言いながらトイレを出て行った。
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その年の暮れに行なわれた会社の忘年会でしこたま飲まされ、見事に終電を逃した俺はタクシーを止めた。
行き先を告げ、家で寝ずに待ってくれている彼女に「もうすぐ帰る」と、LINEをいれる。
ミラー越しに気さくに話しかけてくる運転手さんと他愛もない話をしていると、急に昨夜見た夢の内容を思い出した。
「ねえねえ運転手さん、昨日僕怖い夢を見ちゃいましてねー、聞いてくれます?」
前を向いたまま頷いたのが見えたので、酔いの勢いもあって、俺は昨日見たやけにリアルな夢の内容を話した。
「大学受験に失敗して、浪人して、また落ちて、親に見放されて、バイト先でミスしてクビになって、ギャンブルで借金こさえて、明日食べるものもなくなって、ぐちゃぐちゃの部屋ん中で天井見つめてたら、なんか死にたくなってきたんですよねー」
その時、ピロンと電子音が鳴りスマホを見ると、画面には『送信できませんでした』の文字が表示されていた。
「…お客さん」
「運転手さんの声ってなんか懐かしい感じがしますね」なんて言いながら、俺は話を続けた。
「で、僕ね、その部屋でクビ吊っちゃうんですよ。いやー苦しかったなー!手首切る事も考えたんですけどね、なんか痛そうだからヤダなって。僕こう見えても結構ビビりですからw」
突然の急ブレーキに俺は前の座席に頭をぶつけた。
「何してんだ!」と怒鳴ると、運転手は悪びれる様子もなくこちらを向いた。
「お、おまえ!」
「くくく、」と笑みを浮かべる運転手の顔は先月、電車とレストランで再会した高校時代の友人だった。
「…お客さん」
お、思い出した!
「車内、暑くないですか?窓開けましょうか?」
そうだ、こいつは高三の時に部活中熱中症で倒れ、そのまま意識が戻らずに亡くなった柏木だ!なんで今まで思いださなかったんだろう?
「お客さん、気分が悪いようですが大丈夫ですか?」
柏木は俺の親友だ。
「それからお客さん、それ、夢じゃないっすよ」
了
作者ロビンⓂ︎
どっちが夢なんでしょうね?…ひひ…