えっ、誰か部屋に入ってきた?
隣ではぼくの手を握ってふゆこが眠っている。だからふゆこじゃない。
この家にはもうぼくたちしかいないのに。
あっサンタさんだ。
そうだ、きょうはクリスマスイブだ。
サンタさんが初めてプレゼントを持ってきてくれたんだ。
ありがとう。
サンタさんありがとう。
お礼を言いたい。でも、ぼくは、疲れていて、すごく――眠い――ありが――とう――サンタ――さん――――メリー――クリス――マス――――
nextpage
「だから俺じゃありませんって」
「うそをつけ。お前じゃないならだれが殺ったんだ」
岩城が両手で机を激しく叩いた。
「まあまあ、そう熱くなりなさんな」
ごま塩頭の刑事が若い刑事の肩に手を置く。
「でも平さん。クリスマスですよ。こんな日に親が殺されるなんて子供たちがかわいそうじゃないですか。
おいっ。なんで殺しなんてしたんだ」
ばんっともう一度激しく机を叩く。
「だから俺じゃないですよ~。信じてくださいよ~」
サンタクロースのコスチュームを着た男が机に突っ伏した。
separator
毎年十二月二十四日、二十五日はサンタクロースの格好をした忍び込み泥棒が出現した。夜中から明け方にかけて何軒も盗みを働く。一軒につき少額のちまちました小悪党だったが、今回は違った。忍び込んだ家の夫婦を惨殺したのだ。
殺された夫婦には子供がいた。
八歳の兄と三歳の妹。何も知らずぐっすり眠っていたという。
サンタコス泥を見つけたのは巡回中の巡査だった。二階のベランダから忍び込むところを発見し、無線で通報後、駆け付けた警官たちとともに窓や玄関などの逃走ルートを封鎖し男が出てくるのを待った。
チャイムを鳴らしたり、ドアを叩いたりすることは男を刺激し危険だと判断したためだ。だが、そうやって警戒したにもかかわらず、確保した男の両手は血に濡れていた。
今まで大それた犯罪を犯したことなどなかった男に一体何があったのか。
救いは、子供たちが熟睡していて何も気づかなかったことだ。もし目が覚めて騒ぎたてていたらどうなっていたことか。
警官たちはクリスマスの奇跡だと言い合った。
separator
「起きていたのか目覚めたのか、どっちかわからんが夫婦に見つかったんだな。気の弱そうな奴だ。とっさに殺ってしまったんだろう。まだ否認しているがそのうち吐くさ。
ところで子供たちはどうなった」
ごま塩頭を掻きながら平さんはあくびをかみ殺す。
「母方の姉が引き取りに来ました。両親の死がまだよくわかっていないのか二人とも喜んでおばさんについていきましたよ」
岩城が買ってきたばかりの缶コーヒーを平さんに差し出した。
「おう、さんきゅう」
「で、そのおばさんの話では子供らは親からひどい虐待を受けていたらしいんですよ。妹夫婦はあまり子供が好きじゃなくてよく殴る蹴るしていたって。
で、子供のいない自分たちに引き取らせてくれって頼んでいたそうなんです。だけどそれには応じてくれなかったらしくて。
今回の事件は悲しい出来事だけど、子供たちを引き取ることができてよかったといってました。複雑な表情してましたけどね」
「そりゃそうだろう。身内が死んだんだからな」
平さんはコーヒーを飲み干した。
「ところで、これ変だと思いませんか」
岩城は話しながら見ていた検視結果の書類を指さした。
「ん? 何が?」
「両親の体から睡眠薬が検出されたって」
「母親が不眠症で医者から処方されてたっていうから別に変じゃないだろ」
「でもふたりとも服用してるんですよ。それに奴は見つかったから犯行に及んだんですよね。おかしいじゃないですか。だって眠っていたってことでしょ。
だいたい寝たまま体中をめった刺しされていましたよね。起きていたらベッドで並んで殺されるなんてしないでしょ。ふつう。
もしかして、奴は本当に殺しやってないのかも」
「いいじゃないか。あいつが殺ったで。
子供たちはひどい虐待を受けてたんだろ。優しいおばさんに引き取られてこれからは幸せになるんだろ。
きょうはクリスマスだ。サンタさんが子供を助けたんだよ。
メリークリスマス」
平さんは乾杯をするように持っていた空き缶を高く掲げた。
作者shibro
メリークリスマス!
急に思いつき、遅筆なくせにクリスマス中に仕上げたくて、だぁーーと書いてはみたものの…みんなにわかっていただけただろうか。
ちなみにリアリティーがないとか突っ込まないでください( *´艸`)愛嬌愛嬌
誤字脱字あったら教えてくださいm(_ _)m