中編7
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夜行バス

夜行バス乗ったことある?

夜出発して明朝目的地に着くって感じの高速バス。

新幹線や飛行機使うより安いし、帰省する時は毎回使ってんだけどさ。

高速道路って場所柄なのか、たくさんの人を乗せて行ったり来たり繰り返すバスに素養があんのか、どーも心霊っぽい現象が多いわけ。

深夜の走行で乗客は寝てるって前提だから、決まった時間に消灯があった後、車内は到着までずっと薄暗い。

でも夜型の俺は寝られないし、まだ遊びたいんだよ。

で、備え付けの厚手のブランケット頭から被って明かりが漏れないようにしてさ、ゲーム機や携帯つついてるってのがデフォルトなのね。

そんなこんなである程度遊んで満足して、疲れたなーって肘掛けに手を置いたら、ほかの人の腕が先に乗ってたことがあった。

あっ隣の人か、と思って即座にブランケット脱いで謝ろうとしたら、隣の人ぐっすり寝てんのね。

しかも、よく考えたらそのバス3列シートなのよ。

それぞれの列の間には通路が通ってるから、たとえ寝惚けてても隣の人が俺の肘掛けに腕を置くなんてことはまずない。

手だけならまだしも。

あーね、って思うしかないじゃん。

まあ、そんなのは序ノ口。

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車内前方上部に時刻が表示されてるのってわかるかな。

恐らく大体のバスは同じ辺りに時計があるはずだけど、俺が乗ってるバスはその隣にシートベルト締めましょうみたいなアイコンがあって、その更に隣にトイレのマークがあんのね。

トイレマークが光ってる時は使用中だから、消えてる時に行ってねってお知らせしてくれてるのよ。

で、俺若干お腹痛かったんだけど、マークが点灯してたから大人しく待ってたの。

でも、その時入ってたやつほんと長くてさ、俺はお腹痛いなりにうつらうつらしちゃって、気が付いたら1時間くらい経ってた。

確認するとまだトイレマークが点いてる。

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あー違うやつに入られたんだろうなーって、また待ってたんだけど、そいつも全然出てこないわけ。

合計で3時間は待ったんじゃないかな。

流石に腹痛が限界に来て、仕方ないから誰か入ってるの承知でトイレ行ったのさ。

もしかしたら中で寝てるかもしんないし、ノックして、待ってることだけ伝えようと思って。

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トイレの前に立つと、勿論鍵の表示は赤になってる。

ほかの人寝てるから控えめにコンコンってドアを叩いた。

そんでちょっと中の様子伺ってみたのね。

動く気配が全然ない。

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聞こえなかったかな?って、しつこくて申し訳ないけどもう一度、今度はちょっと強めにノックした。

いやほんと、腹が痛すぎてさ…。

そしたら向こう側から突然、バンバンバン!ってデカい音でドアが叩かれたのよ。

それからガチャって鍵が開いた。

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やっべー怒らせたかなー何て言おう…とか考えてたんだけど、待てど暮らせど人が出てこない。

なんで?

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「あの、どうかされましたか?大丈夫ですか?」って声かけて(俺の腹痛の方が大丈夫じゃなかったけど)、そんでも反応なかったからもう仕方なし。

中で倒れてる可能性思うと放置するわけにもいかないし、「すみません、開けますよ?」っつってドア開けた。

誰もいなかったよね。

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いやさ、そういうありがちなのは腹痛くない時にやってくれよ!!

え、トイレ?

幽霊とか正直それどころじゃなかったんで、そのまま入って用足したよ。

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あとは、そうね。

バスによっては荷物棚に窓用とは別のカーテンが備えつけられてて、それで席をぐるっと覆って個室みたいな空間作れる場合があるんだけど。

ほら、天蓋みたいなイメージ?違うか。

まあ兎に角、それ開けて覗き込んでくる運転手とか、見たことある。

確かに、サービスエリア出発する前からカーテン閉めちゃってると、人数確認で開けられたりすることもあるんだわ。失礼します、つって。

でも、俺が言ってんのはSAなんかとっくに過ぎて軽快に走ってる最中だからね。

人数なんか確認するはずもない深夜に運転手が回ってきて、カーテン閉まってるとこをひとつずつ開けて覗いてく。

ってのを3周くらいやって終わり。

俺はカーテンした上でブランケット被ってたから、覗かれた時は運転手ってのはわかってなかった。

通り過ぎてから、なんだあれって気になって覗いたら制服着てたって話な。

害はないけどいい気もしないから、それから俺はカーテン個室作らなくなったんだよなあ。

カーテンない時は不思議と出会さない。

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ほかにも、3列シートのB列(真ん中の列)って、A列の人がC列側にあるトイレ行く時の通路になったりするから、満席だろうが1ヶ所は人座らせないで空けとくもんらしいんだけど、

通ろうとしたら空いてるとこが何処にもなくて、もっかい探したらさっき人いたはずのとこが空いてる、とかは比較的よくある。

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トイレに行ったわけでもないのは、確か。

つか、狭い車内なんだから誰か席立てば普通にわかるしね。

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ま、そんな風に色々ある割に、凄いやばいことは少ない夜行バスライフなんだけどさ。

一度だけ、これ本当に大丈夫か?って心配になったことがある。

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そん時は盆の帰省ラッシュより若干早いくらいの日にちで、バスが3台出たのね。臨時便ってやつ。

席確保すんの遅かった俺は当然3号車。

1号車から順に出発して、最初で最後のサービスエリアに着いたのは1時間くらい経ってからだった。

1号車、2号車は先に駐車場に停まってたよ。

そこで10分休憩して、通常通り出発。

走り出して少ししたらアナウンスがあって消灯っていういつもの流れだった。

消灯したら、窓から入る明かりを防ぐためにカーテン(これは普通に窓にかかってるやつ)開けちゃいけないんだけどさ。

俺たまに外見たくて、カーテン閉めたまま身体だけ窓際に出してたりすんのよ。

ほかの客から見ると、俺はカーテンの向こう側に行っちゃってる変な人ってことね(笑)

その日もゲームに飽きた俺は道路を眺めてた。

オレンジの光と、たまに通り過ぎていく車たち。

乗客こそ普段より多いけど、高速自体は混んでなかったからバスは気持ちいいスピードで走ってた。

その内同じ会社のバスに追い付いて、丁度横に並んだんだよな。

で、そのバスっつーのが、一目見て異様だった。

さっきも言ったように、夜行バスって基本カーテンが閉まってるはずなんだ。

なのにそのバスは、こっちから確認できる全ての席に人が見えた。

しかも、ぱっと見全員が窓に正対してる。

普通、外見るにしても首だけ向けるとか腰から捻るとかじゃん。

咄嗟に目線、下に逃がしてわかったのが、そのバスが同じ便の1号車ってことだった。

なんかやばい気がして、俺は外見るのやめてカーテンの内側に戻ることにした。

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そっから暫くは何もなかった。

けど、その内運転席から話し声がし始めたのね。

運転手って事故防止とか交代のために二人乗ってんだけど、多分最初運転してない方に電話がかかってきて、それ切ったあとで運転してるやつとなんか相談…って感じかな?

乗客に配慮して小さい声で喋ってるから、なんて言ってるかはあんまり把握できない。

ただ、やたら長い時間話し込んでたな。

そんでその後、どっかのサービスエリアに入って止まった。

昼のバスと違って夜行はほとんど乗客の休憩を取らない。(SA入る度にアナウンスで起こされるんじゃ堪らないし)

だから俺たちがバスから降りられるのは最初の1回だけだったんだけど、実は運転手の休憩や交代のために停車するってのは割と多いんだよな。

今回もそれだと俺は思ってた。

でもさ、運転手がふたりとも出て行ったのはいいとして、30分待っても戻って来ない。

流石に遅いだろと思って、またカーテンの向こう側に出てみたのよ。

隣に止まってんの、さっきの1号車だった。

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今は普通にカーテンが見えるだけだけど、それでも凄く嫌な感じがする。

こっちの運転手ふたりはその1号車の近くに立って、向こうの運転手ひとりと話してた。

向こうは若干声荒げたりもしてたかなあ。

1号車のもうひとりは駐車場に蹲っちゃって、話に参加できてない模様。

ずっとなーんか深刻な空気だったんだけど、ようやく話が纏まったみたいで、こっちの運転手が蹲ってるやつの手を引っ張って立たせてさ。

そのままこっちのバスに戻って来た。

代わりに、元々3号車の運転手だった片方が1号車に乗ったみたい。

程なくこっちのバスが先に出発した。

そん時俺、フロントガラス側から、止まってる1号車の中見ちゃったんだよ。

乗客席と運転席を隔てる厚手のカーテンを突き抜けて、無数の白い手が伸びてた。

もうそっから、外見るのやめたね。

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結局俺の乗ってる3号車は、定刻通り目的地に着いた。

2号車はもっと早かったんじゃないかな。

で、問題の1号車。

俺が親の迎えを待ってる間には到着しなかった。

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事故ったとかだったら、この話にももうちょい説得力出たかもな。

まあそんなニュースはなくて、正直かなり安心した。

多分、遅れたくらいで済んだんだろう。本当のところは知らないけど。

ただ俺は心底、あっちに乗らなくてよかったと思ってたよ。

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幸い、あんなバスにはそれ以来出会っていない。

Concrete
コメント怖い
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shibro様、コメントありがとうございます!
わくわくして頂けたようで、とても嬉しいです´`*
行きずりの怪異ですと理由や顛末が全くわからないことも多く、もやもやや後味の悪さが残ったりしますよね。
原因が何処にあるのかは結局わかりませんが、個人的には夜の高速道路の、静寂の中ただひたすら車だけが走り抜けていく雰囲気に独特の怖さを感じます。
あの感覚ってなんなのでしょう…。

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セレーノ様、はじめまして。
コメントありがとうございます´`*
確かに、怪談を語るにはノリが軽いですよね。油断して頂けたようで、結果的にはよかったでしょうか(笑)
乗りたくないと仰ってますが、次にもし機会があった時には思い出して涼しくなって頂ければ幸いです´ω`*

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ろっこめ様、はじめまして。
大変嬉しいコメントありがとうございます。
エピソード自体は友人のものを許可を得て拝借しました。幸いなことに自分の体験ではありません。(私もチキンなのです(笑))
ただ、夜行バスは私も使いますので、その辺りの描写は経験ありきで書いております。少しでも臨場感が出ていれば嬉しいです。
ろっこめ様のご投稿については、後程改めてそちらにお邪魔してコメントさせて頂きますね!とても楽しませて頂いております´`*

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初めてコメントいたします。

いささんの実体験でしょうか。

わたしはビビりなので、そういった体験はしたくありませんが、怪談を聴いたり、読んだりするのは大好きです。

夜行バスには乗ったことはありませんでしたが、とてもよく描写されていたので、自分も乗っているかのように想像できました。

お見事です。

勉強させていただきますね。

それと、怖いポイントをくださって、ありがとうございます。

とても嬉しかったです。

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