私が小学5年生だった夏の夜のことでした。
お盆休みも終わりの頃、母の実家に墓参りがてら、家族で帰省していました。
お祖母ちゃん家の一室に、父、母、私の三人は川の字に並んだ布団の真ん中が私、右手に父、左手に母の並びで眠りにつきました。
田舎の夜はとても静かで、外から聴こえるのは、コオロギの音だけです。
虫の音を子守唄に聴きながら眠っていた私は、唐突に意識だけが覚醒し、何故か自分の左腕がスッと上がっていきました。
ちょうど垂直まで上がりきった途端、私の左手が何かを掴みました。
脂ぎった人の首のような感触でした。
グイグイと私に近付こうと迫るソレに、左手一本で抗う私。
物凄い力でしたが、私も考えられない力で抵抗していました。
咄嗟に『コレを見てはいけない』と思った私は、固く目を閉じて視界を封じます。
私は恐怖の中で、亡くなったお祖父ちゃんを思い出し、頭の中でお祖父ちゃんに助けを求めました。
『お祖父ちゃん……助けて……』
必死の懇願をしていると、私の右手が拳を握り、物凄いスピードで右フックを繰り出しました。
拳に髪の毛の「ジャリッ」とした感触が伝わった瞬間、フッと何かは消えました。
恐る恐る目を開くと、両手は上がったまま、固まっていました。
そのまま茫然としていた私は、体に違和感を感じます。
体の腰から爪先までが熱くなっていたのです。
薄手のタオルケット1枚を腹部に掛けただけだったにもかかわらず、爪先まで熱を持った下半身に、オネショしたかとハッとして触ってみましたが、汗すらかいていませんでした。
今さっき起こった不可解な現象に怖くなった私は、父にピッタリとくっつき、朝まで震えていたことは、言うまでもありません。
アレが何だったのか……。
今でも分かりません。
作者ろっこめ
ビビりのわたしが唯一体験した完全な実話です。
リアリストのわたしが未だに見当すらつけられない謎な体験……。
そんなことを思い出す度に恐怖が蘇り、怖くて8時間くらいしか眠れません。