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中編5
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六本木心中

ひょんな事から男は刺青の女の部屋で暮らすことになった。

男は「これから3ヶ月ばかり世話んなるからよろしくな」と手をさし出したが、刺青女はそれを見て鼻で笑った。

刺青女の部屋はとてつもなくパンクだった。とてつもなくシドヴィシャスで、とてつもなくナンシースパンゲンだった。

部屋に入ってすぐにカーテンとベッドのドット柄に目を奪われた男は、床に転がっていたベースに気付かず転んでしまった。

「あいつらから俺の事いろいろと聞いてるんだろ?」

男が尋ねると、刺青女は銀色のパイプに入った葉っぱに火をつけて「そんな事よりあんたも吸うかい?」と質問を質問で返してきた。

男は「俺は身体に合わないからやめとくよ」と言った。

刺青女は顔に似合わず規則正しい生活をしていた。朝5時に起きて洗濯をし、近所のうどん屋で3時間働いて、夜の9時には眠った。

男は刺青女が眠ると、決まって近所のロックバーにウイスキーを飲みにいった。

口髭のマスターは無口だったが、通いつめる内に色々と話すようになった。

マスターは男の話し方でこの辺の人間ではない事に気付いていた。

男は酒に酔うとここだけの話をしたがった。マスターはそんな男から話を引き出すのがうまかった。

「マスター、ここだけの話だぜ」

男は自分が窃盗犯だという事にしておいたが、実は指名手配中の殺人犯だった。

いまから一週間前、浮気した女を絞め殺しアパートに火を放って逃げたのだ。

マスターは男が関西から逃げて来た事を知ると「実は俺も関西出身なんだよね」と言って笑った。

刺青女は抱かれるたびに少しづつ殺人犯のことを好きになっていった。

「ねえあんたさあ、毎日毎日ゴロゴロして酒飲んで、気が向いたらわたしを抱いてさ。

そうやってるとまるで売れないジゴロみたいね。いいさ、もうずっとここにいなよ」

今度は殺人犯が鼻で笑う番だった。

「俺と一緒にいちゃ、おまえもいづれ捕まっちまうぜ?そんな事よりおまえはなぜ顔にまで刺青を彫ってるんだい?」

殺人犯は前々から気になっていた事を聞いた。

刺青女の顔には36個のピアスと、頬全面に蜘蛛の巣があしらわれていた。

「それ、消した方がいいぜみっともねぇ。おまえ一生結婚できねーぞ」

「あんたには関係ないじゃないか」

その日から刺青女は殺人犯とあまり口をきかなくなった。

ある日、殺人犯がうたた寝していると、ガタイのいいスキンヘッドの男が部屋に入ってきた。

見るからに堅気に見えないその男は「女はどこにいった!」と唸りながら部屋を荒らすだけ荒らして出ていった。

刺青女が部屋に戻ってきたのはそれから3日後の夜だった。

女は瓢箪のように腫れ上がった自分の顔を、恥ずかしそうにタオルで隠していた。

「殺されなかっただけ良かったじゃないか」

殺人犯がフォローすると、刺青女は「明日になったらまた陽はのぼる。女だもの、泣きはしないよ」とだけ言った。女はピストルズの名盤を朝まで爆音で流し続けたが、殺人犯は黙ってそれに付き合った。

しばらくして刺青女はうどん屋をやめ、当たり屋に転職したらしかった。

夕方になると原付きで出かけては見通しの悪い路地や、信号機のかげに隠れて鈍そうな車を探していた。

それが果たしてスキンヘッドの指図なのか、それとも自分から進んでやっているのかは知らなかったが、殺人犯には興味がなかったので聞かなかった。

「真面目に働いたら?」

ある日、絆創膏が増えていく刺青女を哀れに思った殺人犯がそう諭すと「テメエにだけには言われたくねーんだよ!ボケ!」と、刺青女が珍しく感情を剥き出しにした。

「年下のくせにさ」

その夜、刺青女は葉っぱとウイスキーで頭がイカレてしまい、手首を切って自殺した。それは殺人犯が風呂に入っている時だった。

刺青女が残した走り書きには「遊び相手ならお手玉もできるけど、いつか本気になるのが恐いの」とだけ書いてあった。

「馬鹿やろうが!」

殺人犯は刺青女の携帯の履歴からスキンヘッドの情報を得た。刺青女はスキンヘッドに借金があるようだった。

警察が部屋へ踏み込んだ時には、もうすでに殺人犯の姿はなかった。

その頃、殺人犯はロックバーのマスターに刺青女が残したレコードを買い取って貰っていた。

はたして、両手に抱えきれないぐらいのレコードの束は、刺青女が残した借金の10分の1にも満たなかった。

だが殺人犯はこの店の金庫に大金が入っている事を知っていた。1人殺すのも2人殺すのも同じだと思った殺人犯は、ロックバーのマスターを刺し殺して金を奪った。

「この街は広すぎる、独りぼっちじゃ街の灯りが俺の気を狂わせるな」

殺人犯はスキンヘッドに刺青女の借金を返すと連絡し、今は使われていない駐車場に呼び出した。

しかし、いざ金を支払う段階になって殺人犯は金が惜しくなった。殺人犯は2人殺すのも3人殺すのも同じだと考えた。

血だるまになったスキンヘッドをトランクに詰め込むと、殺人犯はスキンヘッドが乗ってきたセダンを北に向かって走らせた。

行くあてもなかったが、殺人犯は防犯カメラの存在を恐れて高速道路に乗る事はなかった。

朝になり、櫻吹雪がハラハラと行く手の道路を桃色に染めていた。

「俺の命はおまえにやるよ」

殺人犯はミラー越しに、後部座席に座る刺青女に向けて言った。

「ああ、気づいてたんだ」

殺人犯は「当たり前だ」と唇の端をあげた。

「今時、命あげますなんてさあ、場末のシネマみたいな事いわないでよね」

すると突然、殺人犯は急ハンドルを切り今来た道を引き返し始めた。

「ちょっとあんた、どこ行く気?」

「東京さ」

男はフルアクセルで前の車を次々と追い抜いていく。

「決めたんだ。六本木にいる仲間たちにこの金でおまえの墓を建ててくれるように頼んでやる!

気分は、バックシティザロンリプレイスさ!!」

刺青女はぶっ飛んでしまった殺人犯を見てぷっと吹き出した。

「あんたさあ、どうでもいいけどそんな運転してたら捕まっちゃうよー」

「大丈夫だよ俺に任せとけ、もし捕まりそうになったら、その場でおまえと心中してやるさ!!」

「心中ってさあ、わたしもう死んでるんだよ?」

「ああ、そうだったな」

二人を乗せたフルスモークの黒いセダンは、黒煙をモウモウと巻き上げながら行きすぎていった。

それでもなお春の空は暖かく、天高くどこまでも澄み渡っていた。

Concrete
コメント怖い
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修行お兄様にマコお兄様、お返事がとてもとても遅くなりましてたいへん恐縮しております…ひ…でも安心してください。
このお話はフィクションです…ひひ…

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ロビンさん、あんたは凄い!

読者を引きつける、その話の作り方!
上手いす!

僕にはそんなアバンチュールな話はかけないぜ!ヘイ!

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月舟様、ふたば様、いさ様、お褒めのお言葉ベリーサンクス、ロッケンローです!

そんなに褒められたら、なんか、なんか、「僕って凄いのかなー?」って勘違いしてまいりました!…ひひ…ロッケンロー!

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かっこいい((((;゚Д゚)))))))

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珍味お兄様、昭和の名曲は素晴らしいですね!やあ、最近は珍味兄さんの喜ぶ顔を想像しながら書いている自分がいることに気づいてしまったロビンミッシェルだ。

さて、次はどの名曲にしましょうか?藤圭子さんの何でしたっけあの曲?

えーっと、夜の夢は朝開くでしたっけ?あの曲もなんかドロドロしてて好きなんですがね…ひ…

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沙羅お姉様、まぴこ様、コメベリサンクスです!
残念ながら、かなりカオスでシュールで、ちょっぴり破天荒なワイルドコメディホラー作品になってしまいましたが、ここ最近出した中では、自分的にお気に入りの作品の一つになりそうです…ひひ…

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ろっこめ様サンクスです。冒頭に出てきた固有名称は、セックス・ピストルズのベーシストとその彼女です。

因みに、作中の「刺青の女」 は、僕が昔出合った実在する人物がモデルです。本物は更にもっとクールで、網タイツの似合うバリバリなのパンクロッカーでしたが…ひひ…

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渋いぜ!ロビンさん(=゚ω゚)ノ

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あの名曲に隠された真実は…

こーゆー事だったのかぁぁ〜
ガ━Σ╰(°ㅂ° )╯━ン

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