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中編6
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恋文 【A子シリーズ】

大学二回生の夏休み、アルバイトのまとまった休みを利用して、私は祖父のお墓参りがてら祖母の家に行くことになりました。

 両親共に仕事の都合が付かず、私が代表でお参りして来いとの勅令が下り、従うことになった訳です。

 お祖母ちゃんに会えるのは嬉しいけれど、一人で行くのは恥ずかしながら初めてで、ちょっぴり不安でもありました。

 数日分の滞在の支度をしていると、インターホンが鳴ります。

 この流れはヤツが来る鉄板パターン……。

 出たくない気持ちを抱えながらも応答する律儀な私は、きっといいお嫁さんになると思います。

 「あーそーぼ♪」

 やっぱり……。

 モニターに映ったのは、やっぱりA子でした。

 「ゴメン、出掛ける準備してるから無理」

 「どっか行くの?」

 「お祖母ちゃんのトコ。泊まりで行くからさ」

 「アタシも行くっ!!」

 はぁぁぁぁぁあああ!?

 「何で?」

 「親友として挨拶しないとダメじゃん?」

 「いや、大丈夫だよ。お祖母ちゃんも困ると思うし」

 「困んないよ。むしろ大歓迎だよ」

 それはあなたが決めることじゃないよね?

 「泊まりで行くんだよ?」

 「さっき聞いたよ」

 「着替えとか、どうすんの?」

 「う~……ん、パンツだけ貸して?」

 「お こ と わ り だ!!」

 何故、人様のパンツがはけるんだ?気持ち悪い……。

 「じゃあ、買うよ。行きしなに」

 取りに帰るという選択肢はないんだ……。

 「とにかくここを開けろ!!警察だ!!」

 変な騒ぎ方すんなし!!

 これ以上、A子に騒がれても困るので、私は観念して中に入れました。

 「変なこと言わないでよ!!近所の人が誤解したらどうすんのよ!?」

 私が目くじらを立てると、A子は飄々として言います。

 「責任取って嫁にする」

 相変わらずバカなことを言い放つA子に、呆れて言葉も出ません。

 「私、もう出るからA子も出てよ」

 「駅に行く前に買い物付き合ってね♪」

 はぁぁ……分かったよ。

 ついて来る気満々のA子の長い長い買い物に付き合い、新幹線へ乗り込みました。

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 乗り換えを経て、お祖母ちゃんの家の最寄り駅へ降り立ち、バスに乗って15分。

 私達はお祖母ちゃん家へ到着しました。

 懐かしい二階建ての家は、独り暮らしには少し大きい感じがします。

 「よく来てくれたね、待ってたよ」

 ちょっぴり小さくなったお祖母ちゃんが、にこやかに出迎えてくれました。

 「どうもどうも、お祖母ちゃん」

 私を押し退けて馴れ馴れしくお祖母ちゃんの前に出るA子に、お祖母ちゃんは一瞬「誰?」という空気を出しましたが、笑顔は崩しません。

 「親友のA子と申します。お孫さんとは公私ともにお世話しあってます」

 私がいつ、あなたの世話になったよ?

 不本意ながら口をつぐんでいると、お祖母ちゃんはさらに顔を綻ばせます。

 「あらあら、いつも孫がお世話になってます」

 「いやいや、何の何の」

 もういいから早く入ろうよ……。

 玄関先での寸劇も早々に、中へ入った私達は茶の間へ入り、隣接する仏間へ行きました。

 お仏壇に手を合わせ、駅で買ったお土産をお供えすると、脇で手を合わせていたA子も、お供え物を出しました。

 ウチに来る時も少しは気を使って欲しい……。

 お祖母ちゃんがお茶セットを持って入って来ると、A子のお供え物を見て、驚いていました。

 「あらあら、それはお祖父さんの大好物よ?」

 「えぇ…聞きましたから」

 私は何も言ってない。

 お祖父ちゃんは甘党で、私が大嫌いな『あんこ』が好きなのは知ってましたから、私がお供えしたのもいつもの塩大福です。

 でも、A子がお供えしたのは『東京ばな奈』でした。

 「A子さんは気が利く良い子ねぇ」

 お祖母ちゃんが私に同意を求めますが、私は否定も肯定もせず、力なく笑って誤魔化しました。

 「お祖父ちゃんはバナナが大好きでしたもんねぇ」

 知った風なA子とお祖母ちゃんは意気投合して、話に花が咲いています。

 何だか蚊帳の外に弾かれた感が否めない私は、二人の話にじっと耳を傾けるしかありませんでした。

 それから、お祖母ちゃんの夕食を食べながら、軽くお酒を呑んでいた時、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんの馴れ初め話になりました。

 お祖父ちゃんはお祖母ちゃんの幼なじみで、四つ歳上のお兄ちゃん的存在だったそうですが、ある日、お祖父ちゃんから手紙が届きました。

 内容はいわゆる恋文で、それから二人はお付き合いをして、めでたく結婚し、数年後に母が生まれ、私が生まれてすぐに亡くなったそうです。

 しんみりした空気をぶち破るように、A子がコップをダンッと置いて、お祖母ちゃんに言いました。

 「お祖母ちゃん!そのラブレターってどうしたの?」

 そんなのA子に関係ないじゃない……。

 デリカシー無し子なA子の質問に、生真面目にお祖母ちゃんが答えます。

 「大切にしまってあるけど……それがどうかしたの?」

 きょとんとするお祖母ちゃんに、A子が気味の悪い笑顔を向けて立ち上がりました。

 「お祖母ちゃん!ラブレターは何通ある?」

 もういいじゃない……これ以上、リア充の話なんて聞いたら、私がいたたまれなくなる……。

 A子を座らせようと腰の辺りを掴む私を振り払い、A子が言います。

 「お祖母ちゃんが持ってるラブレターは4通!でも、お祖父ちゃんが書いたのは5通なんだよ?」

 「え?じゃあ……」

 お祖母ちゃんがピタリと動きを止めて、A子を見上げると、A子はニヤリと不気味な笑みを湛えて言いました。

 「やっぱり、お祖父ちゃんからの最期のラブレターは、まだ見つけてないみたいだね」

 A子はそう言うと、お仏壇の隣の襖を開けて、よじ登り、天袋を開けました。

 「……誰か……助けて」

 普通はそうなるよ……。

 世話の焼けるA子を一度、下に降ろして小さめの脚立を出してやると、スルスルと天袋に入っていくA子を、サバイバーだなぁ……と感心しつつ見守っていると、A子が分厚いアルバムを開けて見せます。

 「これこれ!アンタ可愛かったんだねぇ」

 真面目に探せ!!

 無言で睨む私に、A子はアルバムを閉じて寄越しました。

 「持ってて、後でゆっくり見るから♪」

 「見なくていいよ」

 私は渡されたアルバムを脇に置いて、天袋を見つめました。

 「あったあった!」

 A子は洒落た缶を持って、下へ降りて来ました。

 「はい!お祖母ちゃん」

 古びた青い缶には女性やら花やらが描いてあり、高級なお菓子の缶みたいでした。

 それを受け取ったお祖母ちゃんがふたを開けると、中には1通の封書が入っていて、達筆な文字でお祖母ちゃんの名前が書いてありました。

 震える手でそれを取り出したお祖母ちゃんは、中にしたためられた亡きお祖父ちゃんからの最期のメッセージを、ゆっくりゆっくり読みました。

 目頭を抑え、すすり泣くお祖母ちゃんを満足そうに見つめるA子に、私が訊きます。

 「何で分かったの?」

 私の問いにA子が答えました。

 「ホントはアンタに見つけて欲しかったんだけど、アンタが気づいてくれないから、アタシに頼んだんだとさ」

 お祖父ちゃん……ゴメン。

 私が心の中でお祖父ちゃんに謝罪すると、A子は私の肩にポンっと手を置いて言います。

 「ずぅっとアンタに憑いてるんだよ?守護霊としてね……なのにアンタは気づかないもんだから、アタシが一肌脱いだって訳よ♪」

 「そりゃどうも……」

 私は一応頭を下げ、謝辞を示しました。

 このことで大喜びのお祖母ちゃんが、A子を気に入ってしまったのは想像に難しくありません。

 それからというもの、私抜きでお祖母ちゃんと交流を持つようになったA子に、時々嫉妬してしまうのは、また別の話です。

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