大学二回生の夏休み、アルバイトのまとまった休みを利用して、私は祖父のお墓参りがてら祖母の家に行くことになりました。
両親共に仕事の都合が付かず、私が代表でお参りして来いとの勅令が下り、従うことになった訳です。
お祖母ちゃんに会えるのは嬉しいけれど、一人で行くのは恥ずかしながら初めてで、ちょっぴり不安でもありました。
数日分の滞在の支度をしていると、インターホンが鳴ります。
この流れはヤツが来る鉄板パターン……。
出たくない気持ちを抱えながらも応答する律儀な私は、きっといいお嫁さんになると思います。
「あーそーぼ♪」
やっぱり……。
モニターに映ったのは、やっぱりA子でした。
「ゴメン、出掛ける準備してるから無理」
「どっか行くの?」
「お祖母ちゃんのトコ。泊まりで行くからさ」
「アタシも行くっ!!」
はぁぁぁぁぁあああ!?
「何で?」
「親友として挨拶しないとダメじゃん?」
「いや、大丈夫だよ。お祖母ちゃんも困ると思うし」
「困んないよ。むしろ大歓迎だよ」
それはあなたが決めることじゃないよね?
「泊まりで行くんだよ?」
「さっき聞いたよ」
「着替えとか、どうすんの?」
「う~……ん、パンツだけ貸して?」
「お こ と わ り だ!!」
何故、人様のパンツがはけるんだ?気持ち悪い……。
「じゃあ、買うよ。行きしなに」
取りに帰るという選択肢はないんだ……。
「とにかくここを開けろ!!警察だ!!」
変な騒ぎ方すんなし!!
これ以上、A子に騒がれても困るので、私は観念して中に入れました。
「変なこと言わないでよ!!近所の人が誤解したらどうすんのよ!?」
私が目くじらを立てると、A子は飄々として言います。
「責任取って嫁にする」
相変わらずバカなことを言い放つA子に、呆れて言葉も出ません。
「私、もう出るからA子も出てよ」
「駅に行く前に買い物付き合ってね♪」
はぁぁ……分かったよ。
ついて来る気満々のA子の長い長い買い物に付き合い、新幹線へ乗り込みました。
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乗り換えを経て、お祖母ちゃんの家の最寄り駅へ降り立ち、バスに乗って15分。
私達はお祖母ちゃん家へ到着しました。
懐かしい二階建ての家は、独り暮らしには少し大きい感じがします。
「よく来てくれたね、待ってたよ」
ちょっぴり小さくなったお祖母ちゃんが、にこやかに出迎えてくれました。
「どうもどうも、お祖母ちゃん」
私を押し退けて馴れ馴れしくお祖母ちゃんの前に出るA子に、お祖母ちゃんは一瞬「誰?」という空気を出しましたが、笑顔は崩しません。
「親友のA子と申します。お孫さんとは公私ともにお世話しあってます」
私がいつ、あなたの世話になったよ?
不本意ながら口をつぐんでいると、お祖母ちゃんはさらに顔を綻ばせます。
「あらあら、いつも孫がお世話になってます」
「いやいや、何の何の」
もういいから早く入ろうよ……。
玄関先での寸劇も早々に、中へ入った私達は茶の間へ入り、隣接する仏間へ行きました。
お仏壇に手を合わせ、駅で買ったお土産をお供えすると、脇で手を合わせていたA子も、お供え物を出しました。
ウチに来る時も少しは気を使って欲しい……。
お祖母ちゃんがお茶セットを持って入って来ると、A子のお供え物を見て、驚いていました。
「あらあら、それはお祖父さんの大好物よ?」
「えぇ…聞きましたから」
私は何も言ってない。
お祖父ちゃんは甘党で、私が大嫌いな『あんこ』が好きなのは知ってましたから、私がお供えしたのもいつもの塩大福です。
でも、A子がお供えしたのは『東京ばな奈』でした。
「A子さんは気が利く良い子ねぇ」
お祖母ちゃんが私に同意を求めますが、私は否定も肯定もせず、力なく笑って誤魔化しました。
「お祖父ちゃんはバナナが大好きでしたもんねぇ」
知った風なA子とお祖母ちゃんは意気投合して、話に花が咲いています。
何だか蚊帳の外に弾かれた感が否めない私は、二人の話にじっと耳を傾けるしかありませんでした。
それから、お祖母ちゃんの夕食を食べながら、軽くお酒を呑んでいた時、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんの馴れ初め話になりました。
お祖父ちゃんはお祖母ちゃんの幼なじみで、四つ歳上のお兄ちゃん的存在だったそうですが、ある日、お祖父ちゃんから手紙が届きました。
内容はいわゆる恋文で、それから二人はお付き合いをして、めでたく結婚し、数年後に母が生まれ、私が生まれてすぐに亡くなったそうです。
しんみりした空気をぶち破るように、A子がコップをダンッと置いて、お祖母ちゃんに言いました。
「お祖母ちゃん!そのラブレターってどうしたの?」
そんなのA子に関係ないじゃない……。
デリカシー無し子なA子の質問に、生真面目にお祖母ちゃんが答えます。
「大切にしまってあるけど……それがどうかしたの?」
きょとんとするお祖母ちゃんに、A子が気味の悪い笑顔を向けて立ち上がりました。
「お祖母ちゃん!ラブレターは何通ある?」
もういいじゃない……これ以上、リア充の話なんて聞いたら、私がいたたまれなくなる……。
A子を座らせようと腰の辺りを掴む私を振り払い、A子が言います。
「お祖母ちゃんが持ってるラブレターは4通!でも、お祖父ちゃんが書いたのは5通なんだよ?」
「え?じゃあ……」
お祖母ちゃんがピタリと動きを止めて、A子を見上げると、A子はニヤリと不気味な笑みを湛えて言いました。
「やっぱり、お祖父ちゃんからの最期のラブレターは、まだ見つけてないみたいだね」
A子はそう言うと、お仏壇の隣の襖を開けて、よじ登り、天袋を開けました。
「……誰か……助けて」
普通はそうなるよ……。
世話の焼けるA子を一度、下に降ろして小さめの脚立を出してやると、スルスルと天袋に入っていくA子を、サバイバーだなぁ……と感心しつつ見守っていると、A子が分厚いアルバムを開けて見せます。
「これこれ!アンタ可愛かったんだねぇ」
真面目に探せ!!
無言で睨む私に、A子はアルバムを閉じて寄越しました。
「持ってて、後でゆっくり見るから♪」
「見なくていいよ」
私は渡されたアルバムを脇に置いて、天袋を見つめました。
「あったあった!」
A子は洒落た缶を持って、下へ降りて来ました。
「はい!お祖母ちゃん」
古びた青い缶には女性やら花やらが描いてあり、高級なお菓子の缶みたいでした。
それを受け取ったお祖母ちゃんがふたを開けると、中には1通の封書が入っていて、達筆な文字でお祖母ちゃんの名前が書いてありました。
震える手でそれを取り出したお祖母ちゃんは、中にしたためられた亡きお祖父ちゃんからの最期のメッセージを、ゆっくりゆっくり読みました。
目頭を抑え、すすり泣くお祖母ちゃんを満足そうに見つめるA子に、私が訊きます。
「何で分かったの?」
私の問いにA子が答えました。
「ホントはアンタに見つけて欲しかったんだけど、アンタが気づいてくれないから、アタシに頼んだんだとさ」
お祖父ちゃん……ゴメン。
私が心の中でお祖父ちゃんに謝罪すると、A子は私の肩にポンっと手を置いて言います。
「ずぅっとアンタに憑いてるんだよ?守護霊としてね……なのにアンタは気づかないもんだから、アタシが一肌脱いだって訳よ♪」
「そりゃどうも……」
私は一応頭を下げ、謝辞を示しました。
このことで大喜びのお祖母ちゃんが、A子を気に入ってしまったのは想像に難しくありません。
それからというもの、私抜きでお祖母ちゃんと交流を持つようになったA子に、時々嫉妬してしまうのは、また別の話です。
作者ろっこめ
A子シリーズもとうとう9作目になりました。
(さっき数えて分かった)
この作品の投稿から、少しの間だけ読み専になろうと思います。
コワしろい作品をたくさん見つけたいと思います‼
コメント、読者登録してくださった方の作品は必ず拝読させていただき、コメント返しさせていただいております。
その他、拝読させていただいた上でコメントを入れさせていただいた作者様、拙いコメントをしてしまい、申し訳ありません。
この場を借りて、先に謝っておきます。
下記リンクから前話などに飛べます。
第8話2/2 『既視感 ~後編~』
http://kowabana.jp/stories/28097
第10話 『ぬこ娘』
http://kowabana.jp/stories/28152