叔父さんからの連絡により、事の重大さを理解した僕は、叔父さんに指示を仰いだ。
叔父さん 「とりあえずすぐに僕の所へ連れて来て欲しいんだ!頼む!時間が無い!」
「分かった!すぐ向かう!」
それだけ言って電話を切ろうとする僕を叔父さんが制した。
叔父さん 「ちょっと待ってくれ!ここに来る前に話しておきたい事がある。よく聞いて欲しい。」
叔父さんの話はこうだ。
先に話した通り、母の障りは並ならぬ事で、
叔父さんの元へ向かう道中も母の身が
もつかどうかの賭けになる事。
それ故、母の護りを上げる必要があるとの事。
その為には、僕と父の護りを一時的に解かなければならない事。
障りを受ける者の側にいる者はその影響を受けやすく、護りを解く事により、他の怪異に巻き込まれる危険がある事。
そして最後に。
叔父さん 「ここへ向かう道中にN峠とS峠を越えなければならない。この二つの峠では、何があっても絶対に口を開いてはならない!いいかい?
何があってもだ!前だけを向いて無言で走り抜くんだ。」
叔父さんの言葉に僕は更なる不安を覚えたが、
敢えて詮索せず電話を切った。
叔父さんとの電話の後、すぐに家を飛び出し
病院へ向かう僕。
駆け足で病院へ向かいながら僕は考えた。
「両親にどう伝えたらええんやろ?」
叔父さんに言われた事をそのまま伝えても両親が納得し、叔父さんの元へ向かってくれるとは到底思えなかった。
それに母は今でも叔父さんの事を…。
そんな事を考えている間に病室に辿り着いてしまった僕は覚悟を決め、扉を開けるなり父に言った。
僕 「オトン!ちょっと話があんねん!」
僕の真剣な表情に何かを察したのだろうか。
「分かった」とだけ言い、席を立つ父。
二人で部屋を出ようとすると
「僕君?いいのよ?ここで話しても」
母が言った。
僕 「でも…。」
母 「兄さんから…連絡があったのかな?」
母には全てお見通しだった。
しかし、その分気が楽になった僕は両親に全てを話した。
信じて貰える、貰えないは関係無かった。
ただ…伝えたかった。
僕が一通り話し終えると、父が「行くぞ」と立ち上がった。
母 「お父さん?」
父 「僕!グズグズすんな!すぐ行くぞ!」
母 「ちょっと!お父さん!そんな漫画みたいな話し信じてるの?ましてやお父さんが会った事もない人なのよ?」
父 「うるさい!漫画じみてようが、会った事なかろうが、お前の大切な兄さんやろ!その兄さんがお前を連れてすぐ来いて言うてるんや!何を迷う事がある!」
母 「…」
そこからの父の行動は早かった。
動けない母を抱え、半ば逃亡の如く車に乗り込み、母の故郷へ、叔父さんの待つ小屋へ車を走らせた。
車を走らせ暫くすると、先程まで動く事が出来ず、後部座席に横たわっていた母が一人で座れるまでになっていた。
「これが叔父さんの護りか…」
母は窓の外を眺めながらポツリポツリと話し出した。
母 「兄さんの話が本当だとしても全く思いあたるふしがないのよねぇ…。」
僕と父は念の為、車に乗り込んでからは一言も口を開いていない。
母 「大体…兄さんは…。あの人は昔に人を…。」
母は本当に今でも叔父さんを忌み嫌っているのだろうか?
そうこうしている間に母は再び眠りにつき、車は市街地を抜け、山奥へと入って行った。
N峠…。
その標識が目に入った時、僕と父は顔を合わせ無言で頷いた。
車内に緊張感が走る…。
しかし、思ったより早く峠を越えられ、何事も無かった二人は安堵の表情を浮かべた。
それから暫く走ると
「S峠」と書かれた標識が目に入った。
再び二人に緊張が走った。
「何も起こるな!」
僕の不安をよそにS峠でも何も起こらず、僕達は無事に母の故郷へ辿り着く事が出来た。
車が祖母の家に到着すると、いつかの様に祖母が優しい笑顔で迎えてくれた。
父は祖母への挨拶もそこそこに、起こしても目を覚まさない母を抱き上げ、「行くぞ」と僕に言った。
暫く山を登り、叔父さんの住む小屋が見え始めた頃、隣を歩く父が「ひっ!」と小さく悲鳴を上げた。
父と僕の目の先、朽ちかけた小屋の前に佇む男性。
「叔父さん!」
僕はそう叫ぶと足早に叔父さんの元へ歩みよった。
だが…
僕の足が自然と歩みを止めた…。
A、Bの件で一度叔父さんには会っている。
でもあの時は真っ暗な小屋の中。
近づいてもうっすらとシルエット位にしか感じられ無かった叔父さんが今、陽のあたる場所ではっきりとその全貌を明らかにしていた。
異形…。
そう例える他、例えようの無い程、その姿はあまりにも異様と言えた。
そんな僕達に対し、叔父さんは深々と頭を下げた。
叔父さん 「ろくな挨拶もせず、突然無理なお願いをし、大変申し訳ありません。」
どうやら父に言っているようだ。
父も先程とは違い真剣な面もちで
「こちらこそご挨拶が遅れ、申し訳ありません。妻の大切なお兄様の頼みとあれば無理も何もありません。どうか妻を宜しくお願いします。」
父が言い終わると叔父さんは僕を見て
「ありがとう、僕君」
と言った。
そしてゆっくりと母に近付き、暫く母を見つめ
「気持ち良さそうに眠っているね」
そう言って笑った。
母との再会は何年ぶりなのだろう…。
優しく、愛しそうに母を見つめる叔父さん。
そしてゆっくりと顔を上げ、母を抱き抱える父の後方を見上げこう言った。
叔父さん 「へぇ〜…。凄いね…これ…」
叔父さんがそう言ったその瞬間!!
「ビシッ!!」
一気に周りの空気が張り詰め
音という音が消えた。
視界はぼやけ呼吸さえも上手く出来ない。
「お、叔父さん……。怒ってる…?」
朦朧とする意識の中、僕はそう思った。
叔父さんはまだ黙って虚空を見つめている。
射殺す様な冷めきった目で…。
「ドサッ!」
僕の隣で音がした。
父が母を抱いたまま膝から崩れ落ちていた。
この場の空気に耐えられないのだろう…。
かく言う僕も限界が近い…。
ゆっくりと失われて行く意識の中で
僕は見た様な気がする…。
失われた筈の叔父さんの右足…。
左腕…。
そして怪しく光るその右目を…。
「ぼ…。」「ぼくく…。」「僕君!」
ん…?誰かが僕を呼んで…いる?
誰かに呼ばれた様な気がして
僕はゆっくりと目を開けた。
真っ暗で何も見えない…。
辺りを見回すと何となく見覚えのある空間。
「あぁ…。小屋の中か…。」
どうやら僕は小屋の中で寝かされていたようだ。
僕はゆっくりと体を起こした。
叔父さん「やぁ、僕君。やっと目をさましたね。」
暗闇に目が慣れて来た僕の正面に叔父さんは座り
そう言った。
いつもの優しい声。近くにいるだけで安心してしまう温かい雰囲気。
僕が意識を失う前に見た叔父さんとは
まるで別人の様だ。
ふと隣を見ると、まだ気を失っている父と
その横で静かに眠る母の姿。
「あぁ…。全部終わったんや…。」
僕がそう思っていると
「すまない!」
叔父さんが言った。
叔父さん 「僕君とお父さんには本当に悪い事を
したと思ってる。
初めはそんな積もりじゃ無かったんだ。
本当だよ?
でもね…。妹の顔を見ていると
何というか…
こう………
解放しちゃった!(笑)」
僕 「やっぱりあの時、怒ってたん?」
叔父さん 「自分でも抑えきれなくてね。
気付いたら僕君とお父さんが倒れてた(笑)」
叔父さんはそう言って笑っていたが、どこか無理をしている様にも感じた。
やっと頭がスッキリして来た僕は、今回の経緯について叔父さんに尋ねた。
僕 「今回、障りを成す?やっけ?それを引き起こしたヤツは結局なんやったん?」
叔父さんは一呼吸つき、話始めようとした。
父 「う…ぅ。」
父が目を覚ましそうだ。
叔父さん 「僕君?こう言った話は、善くも悪くも
人に不安を与えてしまう。
それに、全ての人が知りたがるとは限らない。
だから、今は止めておこう。ね?」
叔父さんは、恐らく父に気を使ったのだろう。
僕はそれ以上、話をせがむ事はしなかった。
それからすぐに父は目覚め、叔父さんから
母は大丈夫だと聞かされて、何度も何度も
頭を下げていた。
叔父さんは、母に障りを成していたモノは
抑える事が出来たが、母の容態が安定するまでは
病院で療養する様に薦めて来たので
僕達はその足で病院へ戻る事にした。
僕 「叔父さん。ありがとうございました。」
叔父さん 「また何かあれば連絡するよ(笑)」
僕 「いえ!結構です!(笑)」
僕達は母の故郷を後にした。
車を走らせて30分程経った頃、ようやく母は目を覚ました。
暫く呆然としていた母。
突然、思い出したかの様に
「兄さん!兄さんは!」
辺りを見回す母。
父 「もうお前の故郷は出とる。
お前の兄さんはしっかりお前を守ってくれはった。もう大丈夫や。」
母 「そんな…。ずっと…ずっと嫌い続けてたのに!
ずっと兄さんを避けて来たのに!
こんな私を助けてくれたのに…。
お礼も言ってないよ…。
兄さん…。ありがとう…。ごめんね…。」
泣き崩れる母。
父の目にも涙が溢れていた。
母と叔父さんのわだかまりが解け、僕も何だかスッキリした気分になっていた。
その時、不意に僕の携帯が着信を知らせた。
非表示着信?!
叔父さん?!
僕は携帯を耳にあてる。
僕 「もし…」
叔父さん 「僕か?!ダメだ!すぐに戻れ!!」
僕 「え?」
ドンッ!!!
作者かい
叔父さん格好いい…。
Σ(゜Д゜)
すいません!叔父さんに酔ってました!