私のホームページに、こんな話が寄せられた。
nextpage
C美さんは都内の専門学校に通う傍ら、学校近くのカフェでアルバイトをしているそうだ。
ある日、C美さんが学校の最寄り駅からアルバイト先へ向かうと、駅前でアンケート調査をする男がいた。
男は人波を眺め、C美さんに気付くと近寄って来た。
「アンケートにご協力ください」
C美さんは進路を妨害するように立ちはだかる男を見上げた。
ひょろりと背が高く、病的に肌の白い男に一種の嫌悪感を抱き、無言で身をかわそうと横にずれたが、男はアンケート用紙がセットされたボードを小脇に挟みながら、尚も進路を遮る。
「すぐに終わりますから」
そう言って男はアンケート用紙をC美さんに差し出した。
A4くらいのアンケート用紙を一瞥すると、項目はレ点でチェックするようなものが数問あるだけだったので、これ以上のタイムロスを惜しんだC美さんはアンケートに答えることにした。
アンケート内容は『防犯対策について』だった。
nextpage
一つ目の設問は『都内にお住まいですか』と書いてある。
C美さんは本当は隣のS県の実家から通っていたのだが、小さな劣等感から都内在住だとアルバイト先の仲間に話していた。
そのことが頭を過ったC美さんは、若干の罪悪感を持ちながらも、『はい』にチェックした。
それから『一人暮らしですか』や『民間の警備会社を使っていますか』などの設問に適当にチェックを入れ、次の設問に違和感を感じてペンが止まった。
『家のカギのメーカーは何処ですか』
家のカギのメーカーなど気にしたこともないC美さんが困っていると、男が言った。
「カギに書いてありますよ」
そう言われて、C美さんは家のカギを取り出すと、確かにメーカーが書いてあった。
カギに彫られたメーカー名を項目から見つけ、チェックを入れたC美さんが最後の設問に思わず体が強張った。
『ご協力ありがとうございました。最後にあなたのお名前、年齢、住所をお願いします』
これには困ったC美さんだったが、今さら答えられないなどと拒否することができないC美さんは、名前、年齢を書いた後、住所はアルバイト仲間のマンションを書いた。
勿論、部屋番号は全くのデタラメ……存在するかも分からない。
この場を離れたい一心のC美さんは、書き終えたアンケート用紙を男に突き返し、その場から足早に立ち去った。
その時、背中越しに聞いた男の「ご協力ありがとうございました」が妙に耳に残ったそうだ。
nextpage
数日後、アルバイト先に出勤したC美さんに仲間が興奮気味に話し掛けて来た。
「ウチのマンションに強盗が入ったんだよ!!背が高いモヤシみたいな男!!そこの住人が空手の有段者で男は捕まったけど、男が警察に連れてかれる時に『彼女に会いに来た』って言っててさぁ……どっかのカギも持ってたんだって」
それを聞いたC美さんは全身に鳥肌が立ち、吐き気をもよおした。
もしあの時、正直にアンケートに答えていたら……。
そう思うと、C美さんは今でも震えが止まらないという。
作者ろっこめ
わたしの個人ホームページに来たメールを過去に編集し直したものを紹介してみようかなと思ったのでアップしてみました。
オムニバス用に募集したら、いくつか届いたもので、これもストックですが。
わたしがレベルの高い作品に勝てるのは、作品の数しかないっ‼と思い、試験的にアップします。
まぁ、この一作で終わるかも知れませんが……。