…。冷たい…。
僕の頬に冷たい物が当たり目をさます。
薄暗い空。
木々の揺れる音。
小雨がパラついている。
それらを覆い隠す様な霧…?
「いっ!!」
身体中に激痛が走る!
腕が…。足が…。動かない!
僕は今どうなっているのだろう…。
辛うじて動いた首を少し、ほんの少し横に向け辺りを見回す。
燃え盛る炎に包まれた車…。
まるで意思を持つかの様に空へと昇る黒煙。
これが霧の様に見えたのか…。
?!
ユラユラと揺れる炎に照らされ、燃え盛る車の側で横たわる一人の人間。
恐らく父であろうその男性…。
顔が潰れ、父かどうか確認出来ない…。
母は?!
可能な限り辺りを見回すが母の姿は無い。
そっか…。叔父さんからの電話の直後、崖から落ちたんやな…。
不思議と僕はそう冷静に考えた。
瞼が重たなって来た…。
このまま死…………。
僕はゆっくりと意識を失った。
どれ位経ったのだろう…。
「僕!…僕!」
…ん?誰…?
誰かが僕を呼んでいる…。
「僕!おい!僕!」
あぁ…。叔父さんや…。
僕は生きているのか…?
ゆっくりと目を開ける。
燃え盛る炎も消えたのだろうか?
光一つ無い漆黒の闇。
「僕君?気が付いたんだね?」
やっぱり叔父さんや…。
?!僕は不意に先程の光景を思い出し、叔父さんに伝え様とする。
……………。
声が出ない?!
先程まで辛うじて動かす事が出来た首も、今では全く動かせない。
だが、不思議と痛みは無かった。
叔父さん「大丈夫…。大丈夫だから…。そのままで…ね?」
僕は涙を流していた。
それは家族を想ってなのか、叔父さんの声に安心したからなのか分からない。
ただただ、涙が止まらなかった。
叔父さん「大変だったねぇ…。本当に…。」
僕は声に出せない代わりに心の中で精一杯、叫んだ。
叔父さん!叔父さん助けて!!
あの父の姿を見ていた僕は、如何に自分が無理を言っているかは分かっていた。
でもその言葉しか見つからなかった。
叔父さん「分かってる…。分かってるよ僕君。大丈夫。大丈夫だから。」
大丈夫…。
僕はこの言葉を、「叔父さんの優しい嘘」だと思った…。
……………?
あ…れ?
僕は今声が出せない。
さっきの言葉も心で叫んだだけ。
やのに?叔父さんに伝わった?
叔父さん「そんなに不思議かい?
君の声が出なくとも、君の心の声はしっかりと僕に届いているよ?」
叔父さんは心が読める??
僕は驚きと共に、叔父さんに対し、後ろめたさを感じた。
心が読めるって事は…
あの時…母を小屋に連れて行ったあの時の僕の心…も…?
叔父さん「異形…。だった…かな?」
やっぱり……。
叔父さん「ショックだったなぁ…。
まさか甥から異形呼ばわりされるなんて…。」
………………。
叔父さん「おいおい!冗談だよ(笑)」
そう言って叔父さんは笑ったが、僕は笑えない…。
叔父さん「僕君。君達家族に起こった事、本当に大変だったね…。
でも、大丈夫だから。」
叔父さんは僕達家族に起こった事を知っている。
あの惨状を。
でも、いつもと変わらない口調で大丈夫だと言ってくれる。
ただ、明らかに叔父さんの様子はおかしかった。
目で見て分かる物では無く、雰囲気。
いつもの叔父さんなのだが、いつもの叔父さんではない。
叔父さん「そういえば、僕君とはゆっくり話をした事が無かったよね?
僕達が出会う時はいつも、怪異がらみだから仕方ないけど(笑)
君達家族が大変な時に何なんだけど、少し話をしてもいいかな?
そのままで…そのままでいいから少しの間、僕の話を聞いて欲しい。」
叔父さんのいつもと違う雰囲気に、僕は何も言えずにいた。
叔父さん「僕はね…。僕君と初めて会えた時、すごく嬉しかったんだ。
妹から僕の話を聞いていたにも関わらず、友達を助けたい一心でやった事だとしても、僕は本当に嬉しかった…。
でも…。それがいけなかったんだね…。」
叔父さんは何が言いたいんだ?
それに何となく哀しそうだ…。
叔父さん「僕はね。嬉しすぎるあまり、君達家族を意識しすぎてしまった…。
……。
A君、B君…。そして君達家族に起こった怪異の全ては僕の責任なんだ…。」
叔父さんが怪異の原因…?
叔父さんの言っている事がさっぱり分からない…。
叔父さん「障られている者の側に居れば、その者も影響を受けてしまう…。」
前に叔父さんが言った言葉だ。
けど、ほんまに何が言いたいんやろ…?
叔父さん「護りをつける位なら良かった…。
でも、僕が君達家族を意識しすぎたばっかりに…。
君達を守りたい一心で、知らず知らずの内に君達家族を僕は障っていたんだよ。」
そんな訳無いやん!
叔父さんが僕らを障る?
そんなん信じられへんわ!
叔父さん「初めて会った時に言ったろ。
僕は化け物だって…。」
ちょっと待って!
僕が叔父さんに初めて会った時に障ったて言うたよな?
ほな少なくともA、Bの件は関係ないやん!
あれは僕が叔父さんに出会う前の話やん!
叔父さん「僕が、あの件が起こる前から異変に気付いて僕君に意識を集中していたとしたら?
その時点で僕君は障りの影響を受けていた…。
だから君が狙われたんだよ。」
?僕が狙われた…?
あの時、あの女に呪いを受けたんはAとBやろ…?
叔父さん「確かに。結果的に呪いを受けたのはA君、B君だ。
それは僕君に僕の護りがついていたから。」
??叔父さんの言っている事が全く理解出来ない…。
叔父さん「そもそも、僕が君達家族に付けている護りと言うものは、言うなれば匂いなんだよ。」
匂い??
叔父さん「そう。僕の特別な匂いを君達家族につけてあるんだ。
悪い言い方をすれば、僕の所有物だと分かる様にマ―キングをしてあるんだ。」
所有物?マ―キング?
叔父さん「善くないモノが寄って来ても、僕の匂いで所有者がいると分かる。
前回で例えると、あの女は僕君目当てでやって来たが、僕の所有物だと分かりやむを得ず、近くにいたA君、B君に呪いをかけたんだよ。」
何となく理解出来たような…。
でもそれやったら母の件は?
叔父さん「妹に障りを成したモノは祟り神ってやつだ。」
祟り神?
聞いた事はあるけど、そんなヤツほんまにおるん?
叔父さん「いるよ?まぁ今回のヤツは元々は神何かじゃ無くてただの悪霊程度のヤツなんだけどね。」
ただの悪霊が神になれるん?
叔父さん「今回、妹がボランティアで入った山に大昔から住んでたんだよ。
昔の人って、善いモノも悪いモノも神として崇め、祀ったりするだろ?ヤツもそんな感じさ。
ずっと神として崇められた結果、本当の神として力を持ってしまった。
でもね?村人から崇められてる内は良かったんだよ。
それが時代の流れと共に、崇める者が減って行き、遂には誰も山にさえ入らなくなったんだよ。
ヤツは寂しかったんだと思うよ?
今まで村人に神として崇められ、祀られ。
それが急に無くなったんだから。
でも元は悪霊だろ?その寂しさが段々と人間に対する怒りや憎しみに変わって行ったんだよ。
だけど幾ら怒りや憎しみを募らせても、その対象である人間が、山に入って来ないからどうしようも無かったんだ。
ヤツは崇められ無くなって、徐々に弱り始めた。
そこにヤツの負に引寄せられて、力を持った別の善くないモノがやって来たんだ。
そして事もあろうかソイツは、弱っていたヤツを喰ってしまった。
廃れたとは言え、神として崇められていたヤツだからね。
ヤツを喰って力を付けたかったんだね。
でも、喰われて尚、ヤツの人間に対する怒りは鎮まらなかった。
逆にソイツの意識を乗っ取ってしまったんだ。
弱っていたヤツが元気な身体を手に入れたって訳さ。
そんな時、妹が山に入ってしまった…。」
でも、山に入ったのは母だけじゃないやん?
他にも入ったのに…。
叔父さん「さっきも言っただろ?匂いだよ。
しかもこの匂いには霊力?て言うのかな?が含まれているからヤツらにとっては君達は美味しそうに感じるんだよ。」
美味しそうって…。
まるで餌やん…。
叔父さん「それでも僕の存在に気付いて、逃げる程度のヤツなら問題無かったんだけどね…。
今回はその逆だったよ。
ヤツの力は、妹に付けた護りの力を遥かに凌駕した。
そしてヤツは考えたんだろうね。
妹に付けられた護りの力から推測して、僕より自分の方が強いってね。
だから妹に憑いて僕を喰らいに来た。
まぁ、結果は僕の勝ちなんだけどね(笑)」
もし、今までの怪異が叔父さんの障りのせいだとしても、その全てから叔父さんは僕達家族を守ってくれた。
やっぱり叔父さんは凄いんや!
叔父さん「でも今回は全く気付けなかった…。」
今回……??
母の件は解決したはずじゃ…?
作者かい