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中編4
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無免許

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郊外にある病院。

中年の夫婦が薄暗い廊下の席に座っている。

「タケオ…ユリ…ううう…」

「大丈夫だから、大丈夫だからね。」

泣きじゃくる妻を、主人が必死になだめていた。

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しばらくすると、集中治療室の扉が開いた。

中からは中年の眼鏡の男性医者と、松葉杖で歩く若い少女が出てきた。

「ユリー!!!」

出てくるなり、妻はユリを抱きしめた。

「運が良かったというのは違いますが、他に外傷はありませんでした。

 1か月前後で完治の見込みです。」

「良かった…ありがとうございます、先生。

タケオは…息子は大丈夫なんでしょうか?」

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「以前昏睡状態ではありますが、まだ生命の危機には至っておりません。

 今オペの用意をしておりまして、準備ができ次第緊急手術をする予定です。」

「お願いします、先生!」

「ところで、ご主人。」

「はい?」

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「この度は本当にご災難でしたね。一体どんな事故だったのですか?」

「ご存知、ないのですか?」

「ええ、病院にいらした時はお二人とも錯乱状態で、お話ができる状態ではなかったものですから。」

「それは、たいへん失礼致しました!」

「いえいえ。」

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「父さん、向こうで話してくれない?」

「ああ、そうだな・・・すまない。」

主人と医師は、別の場所に移動した。

「親子4人で、ハイキングに行った帰り道でした…」

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「帰りは温泉にでも行こうか!」

「わーいやったー!」

「お父さん大好き!」

私は仕事が忙しく、なかなか休みも取れなかったものですから、

久々の休暇で、何とか家族サービスをしたいと思いまして、

親子4人で郊外にキャンプに出掛けたのです。

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人気のない山道の道路を走り、カーブに差し掛かりました。

その時でした。

突然大型トラックが、一方通行を無視して正面から突っ込んできたのです。

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私は大慌てで、車を路肩に急停車させました。

運よく道路には幅があったため、そこに止めればトラックをやり過ごせる、そう思ったのです。

その考え通り、トラックと私たちの車の間には十分なスペースがありました。

しかし次の瞬間、信じられないことが起こったのです。

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トラックがカーブを曲がろうとした瞬間、トラックが私たちの方向に向かってきたのです。

「うわあああああ!!!!」

慌てて急バックさせたので正面衝突は免れましたが、車の正面のボンネットにトラックの先端が衝突。

前部座席に座っていた私たちは無事でしたが、後ろの席の子供たちは体を強く打ち付けて重傷となってしまいました。

それで、この病院に来たのです。

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「そうですか・・・それはご愁傷様です。

 トラックの運転手の方とご面識は?」

「ありませんよ!まったくの赤の他人です。

 彼も意識不明らしく、警察で意識が戻ったら話を聞くらしいです。」

「そうですか…」少しの沈黙の後、医師は思わぬ事を口にした。

「おそらくなのですが…私の見解から申し上げますと、

 それはおそらく、無免許のドライバーでしょう。」

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「無免許ドライバー!?大型トラックですよ!

 そんなこと、ありうるんですか?」

主人は完全に錯乱していた。

「あり得ない話ではないのですよ。大型トラックを運転できれば仕事の幅は極めて広がります。

ただ、大型免許は様々な免許の中で最も習得が難しい部類に入るのです。

ですので、世の中には大型免許を所持せず無免許で運転するいわゆる

「もぐり」のドライバーも少なくないのです。

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「無免許だからこそ、急なカーブで障害物を避けて曲がる術を知らなかった。

もしかしたら、その道路が一方通行だった事すら知らなかったのかもしれません。」

「そんな…。」

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「もし事実だったら、許せません!

どんな事情があったにしても、彼は私たち家族の命を奪おうとしたんですよ!?

それに無免許は、立派な犯罪行為です!

裁判になったら、必ず罪は償わせてやりますよ!」

主人は興奮していた。

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「まあまあ、ご主人。

今は息子さんの命を救うことが最優先です。

私たち医師は、患者様の命を救うことが仕事ですから。」

「すみません…興奮してしまって。」

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「先生!オペの用意が整いました!

治療室にお戻りください!」

「では、私はこれで。

例のドライバーの事で何かありましたら知らせてください。

力になりますよ。」

「ありがとうございます!

息子を…タケオをよろしくお願いします!」

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集中治療室。

既にタケオが昏睡状態で横たわっている。

ドアが閉まっていることを確認し、医師が呟いた。

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「愚かな人ですねえ…私が医師免許を持っていない無免許の医師だとも知らずに。」

看護婦は邪悪な笑みを浮かべている。

「始めようか。メス」

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