ーー眼球破裂、頭部12箇所陥没、歯は全て折れ取られていた。両手、両足は針金で固定され、手首は背後で縛られていて、針金が数センチ切れ食い込んでいた。
恐らく、生きている間に歯を折られてペンチで抜かれたのであろう、と警察は推測する。凶器の鈍器はゴルフクラブと断定。
服装は靴下だけが着用されていて、後は裸の状態。乳房は乳頭が両方とも切られ、局部への無理矢理な圧迫挿入の跡があり、そこは裂け 出血の量が致死量に至っていた。全ては用意周到に準備され、そして実行に移され、何1つとして証拠が残っていなかったのだ。手際の良さから、その道のプロの手口と見て間違いない。
…その哀れな姿で、りんかは公園の脇に仰向けになって捨てられていた…。
吉田の妻が先に来て確認をしていたが、気が触れて一点を見つめたまま 口を開けよだれを垂らしていた。
警察は余りにも酷い遺体の損傷なので、吉田の妻に再三聞き直したが どうしても確認したいという事で了承したのだそうだ…。
吉田も同じく、確認したいと申し出るが警察は簡単に首を縦に振らない。しかし吉田は言う。
「親」としての、「親子」としての最後の別れをさせて欲しいとの願いに 警察も首を縦に振らざるを得なかった。そして遺体発見の際、側に置いて有ったタイプライターで打った二行の手紙を警察官から渡される。
警察「私達で調べましたが、何処で作られたか迄は分かりませんでした。吉田さんに思い当たる節は有りますか?」と聞かれ、手紙を読んで見る。
「おとうさんよぉ、天罰なんだよ。
なぁ、りんかのおとうさんよぉ。」
震えながら手紙を握り潰し、遺体安置所に吉田は入る。
…静かに冷たいりんかの手を握る吉田。
その冷たい手を温めるかのように、何度も摩る。
そして首筋に特徴的な痣が有る りんか。
確認に要する時間は然程かからなかった。
悔しさ、怒り、憤り、殺意、全ての負の感情が入り混じり、涙さえ出ない有様。
……吉田は決意する……
本坂を殺す!と。
遺体安置所からでた吉田の前に前回、本坂の件で担当したF警察官と他2名が立ち塞がる。
F警察官「吉田さん…、奥さんの事も考えて下さい…。娘さんの敵討ちには何が有っても絶対に行かせるわけには行きません!それが 向こうの狙いなのですから!。」
吉田は小刻みに身体をブルブル震わせ、歯ぎしりしながら言う。
吉田「…な、ら、ば、どうしろと?
…このクソ野郎がーー!!」
shake
ドガシャーン!!
吉田の放った裏拳が遺体安置所のドアを打ち破り、ガラス片が飛び散る!!
F警察官は何も言わずに吉田の肩を力強く掴みながら言う。
「今は堪えて下さい。お願いします。どうか、お願いします…。」
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白川は事の全容を社長【菅沼】を通して聞いていた。
菅沼とF警察官は昔からの繋がりがあり、今回の事件の詳細も聞いていた。
白川は相手の行動や素行を調べる時に 一切 人の話を鵜呑みにしない。必ず、自分の足で趣いて調べる。
僅かな、ほんの少しの何かまでをも取り入れる為だ。
21:58分、本坂が渋谷駅のハチ公前広場から出て来たのを白川は細く鋭い目で見る。毎週金曜日の夜は愛人の家に泊まりに行くのが本坂の行動パターン。勿論、護衛の3人も途中まではお供するが 部屋の中までは入らない。白川も中まで入ると 犠牲者が増える可能性も有るので、殺るのは 「朝」にと思案していた。
それには理由が2つ。先ずは先述した様に犠牲者を増やさない為。それともう1つ。
朝10時に愛人の女が出て言った後、2時間は本坂一人の時間があるので有る。
いつもと変わらず、護衛を連れて何かを話しながら愛人のマンションへ到着した本坂。それを白川は向かいのマンションの屋上から確認。距離は約200m。常人なら夜空でも眺めているとしか思えない光景だ。本坂は愛人宅に入り、そして護衛の3人も帰る。
これから白川は屋上で約10時間、またもや白い息と共に待つ事になる。
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寒い夜が明け、霜が降りる。朝日が霜に反射して眩しく光り、白川の目に飛び込んで来た。白川は一睡もせずに向かいのマンションの15階に有る本坂の愛人宅のドアを監視していた。
だが、白川は見ているだけではない。
徐々に「殺人モード」に脳を変えて行っているのだ。
白川は今で言う、「アドレナリン」を自在に操れる能力を持つ。日頃、視力は「0.2」などと言ってメガネをかけているが それはdummy。アドレナリンを操れば500m先の人間の顔をも認識出来るので有る。聴力も同様に上げることが出来る。監視にはもってこいの能力で有る。無論、筋力も同様で有る。
9:45分になると愛人宅の中が騒がしくなるのが解る。集中すると話し声も聴き取れる。
「早くしないと、会社に遅れちゃうんだから!もう!パンはテーブルの上にあるから勝手に食べてよー!」などと、愛人は言う。
本坂は寝ているのか、返事は聞こえなかった。しかし、愛人が家を出る時に、
「今日もいちいち、うるさい奴だな!早よ行け!」と本坂の声が聞こえた。
それと同時に白川は立ち上がる。そこから足早に本坂の居る部屋へ。愛人が一階のフロアーの出口から出ると同時に白川は瞬時に入る。誰かが入り、少し強目の風が吹いたと思ったのか、愛人は後ろを振り返るが白川の姿は無い。
手袋と靴には厚手の袋をはめてエレベーターに乗り、15階を押す。
「チーン」
無機質な音と共にドアが開く。エレベーターを出て、右から3番目が本坂の居場所だ。
静かに本坂の居る部屋のドアの前に立つ。
この頃の施錠システムはとても簡素なものだったので、空き巣なども多く有った時代だ。
白川は中腰になり、鍵穴へ二本の細い針金を差し込む。なるべく音を立てずに解除しないといけないのだが、簡素な作りの為 鍵が開いた時の音はどうしようも無いのだ。
カチャカチャ……
「カチン!」
この音に気付いた本坂。
本坂「おい、〇〇か?なんか忘れ物かなんかか?」
……何も反応も返事も無い事を奇妙に思った本坂はソファーの下に有る拳銃を持ちながらドアへ忍び寄る。本坂はドアスコープから向こうを覗く…。
そして恐る恐るドアを開け、左右を見て確認するが何も無いし、誰も居ない。
??おかしいなと思いながらも安心してドアを閉める。
そこにベランダから侵入した白川が本坂の背後から、左右の腎臓にピックを2度刺す!
「ザッ、ザクッ!」
人間は腎臓などの臓器に急な圧迫や危険な程度の怪我を負うと、声が出なくなるのだ。
本坂「あ、が、が、…。」
本坂は余りにも急な刺激に手から拳銃を離して落としてしまった。しかし拳銃を拾うのではなく、反射的に両手で傷口を抑えながら後ろを振り返る。
その隙を突いて両手をやや太めの釣り糸で縛る。
その間、僅か1.5秒。
釣り糸は普通の人では到底、切れない代物。
ましてや、白川などのプロが縛ると力が入らなくなる縛り方をやるので最早、外す事は出来ない。
そこに白川の足払い。仰向けに倒れた本坂の背中に白川がアグラをかく。
そしてテープレコーダーの録音開始だ。
白川「おい、本坂。助かりたいか?」の問いにガクガクさせながら首を縦に振る本坂。
白川「きちんと声に出して言わないと。」
と言うと、
本坂「あ、あ、あ、助けて…くれ!いや、助けて下さい…。」
その言葉と同時に頸動脈と延髄にピックを挿した。
頸動脈からは夥しい血液が流れ、本坂は痙攣しながら絶命していった。
ポラロイドカメラで本坂の顔と身体の状態を撮ると、両手を合わせて一礼をした。
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テープレコーダーと写真を吉田に渡すと、後金の聖徳太子を渡された。吉田の心境を考えると、白川は何も言えなかった。
またしても、吸いたくも無いタバコに火を付ける白川。
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シラカワ ヤスオ
本業 「殺し屋」
使用道具 「ピックのみ」
好きな言葉 「 因果応報」
完
作者マコさん
この話は全てフィクションです。
いやー、最後は少し長かったなー。僕にしてみればですけど…。