長編11
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動き出す闇〜刻〜

某月某日。

闇に覆われた山中に怪しげな二人の男性。

男性A「ここも駄目か…。」

辺りをさ迷うその怪しき男達。

男性B「全く何も感じないな。」

男性A「 やはり、ただの噂か?」

男性B「いや、そんな事は無い筈だ。

ここは間違いなくそういった力を持つ場所。」

男性A「ならそれを消したヤツがいる。って噂が本当だったって事だな。」

男性B「あぁ…。そうだな…。

だが、そんな事が出来るヤツが本当にいるのか?」

男性A「チッ!余計な事をしやがる。」

男性B「次に行くぞ。」

男達は、次なる場所へ向かう為、山を降りていく。

辿り着いた先は、寂れた村の中にある一軒の家。

男性A「ここだな…。」

外からその家を見上げる二人。

男性B「微妙だが、感じるな?

これなら…。」

家の中へと消えて行く二人…。

separator

う"わぁぁぁ〜!!

何だ何だ?誰だよお前?!

眠りから覚めた僕の目の前に、頭から血を流す焦点の合っていない女性。

あの人と関わる様になってから、日常的にこういった輩を見る様になった僕。

僕「はぁ〜。

まただよ…。ホント勘弁してくれよ…。」

せっかくの休日を最悪な目覚めで迎えた僕は、重い体を引きずり、あの人の元へ向かう。

辿り着いた一軒家。

僕はその家のインターフォンを押す。

暫くして現れた一人の男性。

??「おはようございます。

おや?またですか?(笑)」

僕「またですよ!

どうにかして下さいよ!紫水さん!」

紫水「まぁまぁ(笑)

そんなに大きな声を出さないで下さい。

どうぞ中へ。」

僕は紫水さんの後に続き家へと入る。

僕「とりあえず早くこの女性を祓って下さい!」

紫水「ほんとにカイさんはせっかちですね(笑)

でも…あの女性はもういませんよ?(笑)」

?女性がいない??

紫水「カイさんが訪ねて来られた時に、自分から離れて行かれました。

どうやら私は彼女に嫌われた様です(笑)」

そう言って笑うこの男性の名は紫水。

僕はこの男性に度々助けられ、いつしかこの男性を心から信頼し、慕う様になっていた。

前回、後輩を呪いから救って貰った時、少しだがこの紫水さんの過去に触れた。

過去を語った紫水さんは、何処か寂しそうな表情を僕に見せた…。

紫水「カイさん?

今日、何かご予定がおありですか?」

僕「特にはないですけど?」

紫水「そうですか。

それでは少し私にお付き合い願えませんか?」

珍しい紫水さんからの誘いに僕は快諾した。

紫水さんは何処かへ出掛けるらしく、用意をするから少し待っていて欲しいと、奥の部屋へと入って行った。

暫くすると紫水さんが奥の部屋から戻って来た。

紫水「すみません。お待たせ致しました。

それでは行きましょうか。」

僕「何処へ行くんですか?」

紫水「行けば分かりますよ(笑)」

紫水さんは僕に目的地を告げずそう微笑んだ。

暫く着いていくと、駅に辿り着いた。

電車に乗って何処かへ行くのか?

紫水さんは尚も、目的地を告げる事なく、電車に乗り込んだ。

電車に揺られる事、二時間。

紫水「さぁ。次で降りましょうか。」

紫水さんに着いて降りた僕は辺りを見回した。

随分遠くまで来たけど、ここに一体何があるんだ?

紫水「こちらですよ、カイさん。」

紫水さんはまだ何も言わない。

駅から暫く歩くと見えて来た、一軒の家。

外から見ただけでかなりの豪邸である事が伺える。

紫水さんはその家の門をくぐり中へと入って行った。

僕は遅れまいと、紫水さんに着いていくと、紫水さんが玄関口で誰かと話している。

紫水「いやぁ。遅くなりました。

ご様子はどうでしょうか?」

家主「はい…。お電話でお話しさせて頂いた通りで…。」

紫水「そうですか…。

私の指示通りに結界は?」

家主「それは勿論でございます。

結界のおかげで、娘は部屋から出られずにいます。」

結界?部屋から出られない?

?!

僕「し、紫水さん?!

まさか?!」

家主「あの…こちらの方は?」

紫水「あぁ…この人は今回、私のお手伝いをしてくださるカイさんと言います。」

お手伝い?!

僕「ちょ、ちょっと紫水さん?!」

紫水「とりあえず部屋へご案内して頂けますか?」

紫水さんは完全に僕を無視している…。

屋敷の中に通され、長い廊下の突き当たりの部屋の前で立ち止まる家主。

家主「こちらで御座います。」

紫水「分かりました。

それではこれから何があっても、この部屋へは入らないで下さい。

私が良いと言うまでは決して。

いいですね?」

家主「わ、分かりました。

私は別の部屋におりますので、ご用があればお呼び下さい。」

そう言うと家主は去っていった。

僕「ちょっと紫水さん!

これはどういう事ですか?

今から何をするんです?

ちゃんと説明して下さい!」

今、自分の置かれている状況にただならぬ不安を感じた僕は紫水さんに詰め寄る。

紫水「何って、祓うんですよ(笑)」

やっぱり…。

僕「は、祓うって僕もですか?!

そんな話し聞いてませんよ?!

またいつもの言葉足らずってやつですか?!」

紫水「いえ。

今回は敢えて伏せておきました。

でないと、一緒には来てくれないでしょう?(笑)」

や、やられた!

紫水「大丈夫ですよ(笑)

カイさんには少しの間、逃げ回って頂くだけですから(笑)」

全然大丈夫には聞こえない…。

僕「ど、どういった相手なんですか?」

紫水「この屋敷のお嬢様が突然、獣の様に四つん這いで暴れ出したそうです。

本当に突然。そうお聞きしております。」

僕「何かそうなった理由とか無いんですか?

突然そんな風になるなんて考えられませんけど…。」

紫水「いいえ。

何も特別な事ではありませんよ?

怪異とはそういうモノなのです。」

僕「そういうモノ…。」

紫水さんの言葉に妙に納得させられた僕は、それ以上、何も言わなかった。

紫水「いいですか?

今から二人で部屋の中へ入ります。

中へ入ったらすぐに扉を閉めて下さい。

後は中に入ってから、説明しますので。」

紫水さんはそう言うと、心の準備が出来ていない僕をそっちのけで扉を開いた。

部屋の中へ入った二人。

そこは広い和室になっている。

僕の部屋、何個分だ?

広々としたその部屋には家具や生活に必要な物は一切見当たらなかった。

それだけではなく、この屋敷の娘さんとやらも見当たらない…。

本当に何も無い部屋なので、隠れようも無い筈なのだが、不思議な事にどれだけ辺りを見回しても娘さんが見当たらなかった。

僕「あの…紫水さん?

もしかして違う部屋…」

ヒッ!?

僕は話の途中で声にならない声を上げた。

ソレは間違いなくこの部屋にいた。

娘さんと呼んでいいのか分からない程に、常軌を逸したモノ…。

ソレはこの部屋の天井に、まるで蜘蛛の様に貼り付いていた。

紫水「おや?

今気付いたのですか?(笑)」

今にも倒れそうな僕とは対象的に、紫水さんは落ち着いた様子で言った。

僕は恐怖のあまり何も言えない。

それ処か、今すぐこの部屋から…いや、この屋敷から逃げ出したかった。

紫水「大丈夫ですよ。

アレに私達は見えてません。

勿論、私達の声も聞こえてはいませんよ。

ご安心下さい。」

え?

アイツには僕達が見えていない?

紫水「私の周りに結果を張ってますので、今は大丈夫ですよ。

今は…ね(笑)」

紫水さんの言葉に戸惑いつつも、ソレをゆっくり見上げる僕。

確かにソレは僕達に気付いていない様で、忙しなく天井を動き回っている。

それにしても…。

これが本当に人間と呼べるのだろうか…。

服は来ておらず、その身体は痩せ細り骨が浮き出ている。

目は血走り、だらしなく開かれた口からは、まるで蛇の様に長い舌とそれを伝い滴り落ちる涎…。

これがナニかに憑かれた者の姿…。

僕はあまりの衝撃にその場にヘタり込んだ。

紫水「さて…。

とりあえず彼女はそのままにして、元凶を探ると致しましょうか。」

元凶を探る?

ナニかが彼女に憑いているんじゃないのか?

紫水「カイさん?大丈夫ですか?(笑)」

僕「全然大丈夫じゃありません!」

紫水「そうですか…。

私が元凶を探している間に、カイさんにあの娘さんを引き付けて貰う積もりだったのですが…。」

?!

僕がアレを引き付ける?!

僕「無理無理無理無理!!

無理ですよ紫水さん!」

紫水「そうですか…。

それなら仕方ありませんねぇ…。

無関係の娘さんに手荒な真似はしたくは無かったのですが…。」

無関係?

あの娘さんが無関係?

一体どういう事だ?

紫水「カイさん?

今から私の周りに張ってある結界を解きます。

彼女はすぐに私達に気付き、襲ってくるでしょう。

しかし、決して取り乱さず私の後ろにいて下さい。

いいですか?

でないと…死にますよ?」

死ぬ、という言葉を聞き、僕は金縛りにあったかの様に動けずにいた。

紫水さんはそんな僕をにこやかな表情で見つめると、彼女に向き直り静かに両手を拡げた。

キ―ン!!

紫水さんが両手を拡げた瞬間、今までに幾度と無く感じた事のある、空気が張り詰める感覚が部屋中に広がった。

それと同時に、とてつもない速度で僕達に接近してくる彼女。

僕達との距離が、後1mになろうかという時、紫水さんが両手で円を描く様な動きを見せた。

次の瞬間。

彼女は真っ直ぐ後ろに飛ばされ壁に打ち付けられた。

壁に打ち付けられた彼女はそれでも動じずもがいていたが、まるで縛り付けられたかの様に身動き出来ないでいる。

紫水「やはりダメですねぇ…。」

ダメ?

彼女を縛り付ける事に成功したのではないのか??

紫水「私は昔から、縛が苦手でしてねぇ…。

どうも手荒になってしまいます。」

どうやら紫水さんは、縛る事には成功したが、手荒になってしまう自分の未熟さを反省している様だ。

僕「い、今は反省してる場合じゃ無いのでは?」

?!

紫水「それもそうですね(笑)

すみません。

本分を忘れてしまう所でした(笑)」

紫水さんはそういうと、部屋の中を歩き回る。

暫くすると紫水さんが何かを見つけた様で、独り言の様に呟いた。

紫水「これですね…。

何と愚かな事を…。」

そう言って此方に戻って来た紫水さんの手には、小さな熊の人形が握られていた。

紫水「カイさん。

行きましょう。」

人形を持ったまま部屋を出た紫水さんは、家主を呼びつけた。

紫水「あなたのお気持ち…解らぬではありませんが、私には愚かとしか言い様がありません…。」

紫水さんに諭され、家主はその場に泣き崩れた。

そんな家主を他所に、紫水さんは部屋から持ち出した人形を庭に置き、何か小さな声でボソボソと呟いた。

?!

僕の目の前で、突然人形が燃え出した。

あまりに突然の事で驚いたが、僕はただその光景を黙って見つめていた。

炎に焼かれ徐々に黒くなっていく人形。

だが、不思議とそこからは一筋の煙も出ていなかった。

紫水「さぁ…行きましょう。」

そう言って紫水さんは屋敷を後にした。

屋敷を出た後、紫水さんが僕に経緯を話してくれた。

紫水「今回の事は全て、あの家主がとった愚かな行動が原因です。」

僕「あの人形を使って何かをしたんですか?」

紫水「えぇ…。

あの方は自分の娘さんを本当に愛しておられたんでしょうね…。

何処へも嫁がせず、ずっと自分の側に置いておきたかった。

あの人形は娘さんが小さな頃から、大切にされてきた人形。

その人形に…どこで知ったか分かりませんが、あの家主が念を込めたのですよ。」

僕「念…?ですか?」

紫水「はい…。

言霊というのをご存知ですか?

何かを強く念じ、それを言葉にする。

すると言葉にした事が現実となる。

今回の事もそれと同じ様な事。」

僕「念じる…。

でも…あの家主は娘さんを愛していたんですよね?

なら、おかしくはないですか?

そんなに愛している娘さんをあんな目に合わせるなんて…。」

紫水「そこなんですよ…。

勿論、家主には娘さんをあんな風にするつもりは無かったでしょう。

しかし、何の知識も力も持ち合わせていない人間が、軽はずみに今回の様に念などと愚かな行為に走るとこうなってしまうのですよ。

家主の念に吸い寄せられて、善くないモノが娘さんに憑いていました。」

僕「善くないモノ?

それは祓えたんですか?」

紫水「家主の念に比べればあんなモノは数にも入りません。

縛の時点ですんなりと離れてくれましたよ。

……。

いいですかカイさん?

この世で一番恐ろしいモノ。

それは幽霊や妖怪の類いではありません。

本当に恐ろしいのは、それらに関わる人間なのですよ。」

本当に恐ろしいのは人間…。

僕「何となく分かる気がします…。」

紫水「まぁ私達も人間ですから、あまり偉そうな事は言えませんが(笑)」

そう言い、微笑む紫水さんを見ながら僕は思った。

僕には、はっきりとは分からないが、この人は恐らくとてつもない力を持っているのだろう。

不意に見せるあの冷ややかな目付き…。

一瞬でその場の空気を変えてしまう程の圧力。

この人は一体、今までにどれだけの修羅場と呼ばれる場面を乗り越えて来たのだろう…。

僕はこの紫水という人間に益々惹かれていった。

そんな事を考えていると、不意に紫水さんの携帯が着信を知らせた。

電話に出る紫水さん。

紫水「はい…。」

また依頼の電話だろうか?

紫水「これはこれは(笑)

ご無沙汰しております。

葵さん。」

葵さん?

葵さんが紫水さんに電話?

僕はこの時、何だか胸騒ぎがした。

紫水「えぇ…。

えぇ…分かりました。

それでは後程。」

そう言って電話を切った紫水さん。

僕「葵さんからですか?

珍しいですね?」

紫水「えぇ。

何かお急ぎのご様子でした。」

葵さんから紫水さんに急ぎの用?

どう考えてもただ事じゃなさそうだ…。

紫水「カイさん?

私はこのまま葵さんの元へ向かいます。

あなたはどうされますか?」

僕「勿論、僕も着いていきます。」

紫水「そう言うと思ってましたよ(笑)

本当に物好きな方です(笑)」

そして僕達は葵さんの元へ向かった。

葵さんの家に辿り着いた僕達。

いつ来ても何とも言い様の無い雰囲気だ。

紫水「遅くなり申し訳ありません。」

葵「いえいえ。

此方こそお呼び立てして申し訳ありません。」

挨拶を済ませ、向かい合い席に着いた三人。

紫水「で?

何やら慌てたご様子でしたが?」

早速本題を切り出す紫水さん。

葵「……。

私と同じ様に、呪いを生業としている者が二人、消息を絶ちました。」

葵さんと同じ呪術師が行方不明??

紫水「ほぉ…。

ですが、それが特別不可解には感じませんが?」

葵「仰る通りです。

それ自体は何も特別な事ではありません。

私共、呪術師は多方面から怨みを買いますので、人知れず消される。という事も珍しくはありません。」

紫水「……。」

葵「問題は消えた二人にあります…。

この二人は狂気に満ちており、己が欲望の為だけに人を呪殺してきた輩。

私も最初は怨みを買い、消されたものと思っておりました。

しかし、この二人が消息を絶つ前に、ある事について熱心に調べていたと耳にしました。」

紫水「ある事…?

そのある事というのが今回消息を絶った事と関係があると仰るのですね?」

葵「はい…。

紫水さんはS峠、N峠。

この二つの峠の噂をご存知ですか?」

葵さんのこの質問に紫水さんは何も答えなかった。

でもこの時僕は、紫水さんの顔色が変わるのをはっきりとこの目で見た。

だが、その意味をこの時の僕はまだ知らない…。

Concrete
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月舟様。

すいません…。
繋げちゃいました(--;)

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マコさん様。

点と点が繋がらず、点のままかもしれませんよ!

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ちっちっち♪様。

過度な期待は禁物ですよ!笑
楽しみにして頂きありがとうございますm(__)m

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叔父さーーんに会いたーい!

点と点が繋がり、線となる。素晴らしい!

次回も読ませていただきますよ!

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はと様。

もう少し…もう少しだけこの自己満足作品にお付き合い下さいm(__)m

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セレ―ノ様。

オ―ルスタ―ズですか?!Σ(゜Д゜)
し、しかも蛍まで?!!!
何と恐ろしい事を…(--;)

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