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長編10
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事故ト私怨ノ先ニ

親友夫婦…弥一と凜が亡くなった。

車の空いてる深夜に旅行から帰ってきてる途中だった。

自宅まであと20分の場所で、見晴らしの良い十字路。

狙い通り車は少なかった、というより車はなかった。

防犯カメラに映っていたのは親友の青い車だけで、十字路を横断中突然後ろからぶつかって来られたかのように突如ガクガクと揺れ電柱へと突っ込んだ。という話だった。

何故、親友とはいえ他人である俺が知っているかというと

親友夫婦は両方とも身寄りがないのだ。

夫は両親と絶縁し連絡先もなにもわからない。

嫁は両親を幼い頃に亡くしており、親戚との繋がりは全くない。

事故当時真っ先に警察からの連絡を受けたのも俺だった。

夫、嫁両方の携帯の着信履歴、発信履歴共に俺との履歴が一番多かったからだそうだ。

二人の訃報を聞き呆然とした。

頭がパニックになり、理解できないせいで涙なんか出てこない。

なんとか、病院の住所を聞き、急いで向かった。

病院へ向かう途中、煙草に火をつけた。

段々と理解に頭が追い付いていき少しずつ手が震え始めた。

理解が追い付いていくと、大きなことに気がついた。

唯一無二二人の肉親…一人娘の紗千のことだ。

病院に着くと真っ先に紗千の病室へと向かった。

病室の外には警察官がいた。病室へと走っていき、入ろうとする俺を止めようとしたが振り払い中へと入った。

紗千の小さな体に点滴やコードが繋がっていた。

その姿を見て追い付き始めた理解がまたどこかへといき、呆然となった。

そんな俺のもとへ初老の刑事がやって来て別室へ案内された。

【この度は御愁傷様です…。現状から、娘さん今は眠っておられます。命に別状はありません。後部座席に奥さん娘さんが座っており、娘さんを抱き抱える形で守っておられました。運転していた旦那さんは即死だったと思われます。奥さんは打ち所が悪く…】

当時俺はこの辺りまでしか覚えていなかった。

その後、現場検証を終えてからの話は冒頭で述べたものである。

一先ず話を終えて霊安室へと案内された。

無機質な部屋の中、白いシーツをかけられた二人。

二人の顔を確認した。

おい…なにしてんだよ?

俺に土産買ってくるって言ってたじゃねぇか

自分の家族を持つ喜びを俺に見せつけるって言ってたじゃねぇか

“娘といつまで一緒に風呂に入れるか?俺の洗濯物と一緒に洗わないで!何て言われるのかなぁ”

“私はこの娘と友達みたいな仲の良い母娘になりたいなぁ”

“俺達夫婦は二人とも親がいねぇからさ、絶対にどんなときもお互いを大事に思いやれる家族になるんだ”

言ってたじゃねぇか…

“…俺達二人に何かあったら…紗千のこと見守ってやってくれないか…?

「知るかよ。 何か なんてないようにしろよ。大切な娘を人に託すんじゃねぇよ」”

おい…紗千…どうするんだよ?

なぁ…

なぁ…

なぁ…

俺は膝から崩れ落ちた…

想い出が…

家族の将来を楽しそうに話す姿が…

笑顔が…全てが甦ってきた

刑事の肩を借り立ち上がった俺は部屋の外にあるベンチに腰を掛けた。

涙は…とめどなく溢れてきた。

――――――――――――――――――――

存命であろう、弥一の両親と連絡をとりたかったが方法が見つからなかった。

突然の訃報であったため、遺族無しの葬式となった。

参列者は近しい友人や関係者のみとなった。

紗千を参列させるかどうするべきか、友人たちとも話し合い。

参列させることにした。

今はとても辛く、理解が追い付かないかもしれない。

けれど、大人になったとき

いつか、ちゃんと自分も見送った。とケジメや区切りといったものをつけるためには必要なことなのではないか?と結論付けたからだ。

式の最中、紗千は俺の隣に座り唇を噛み締め涙を流していた。

涙を流しながらも必死に色々なものと葛藤している紗千の姿に、また俺は泣いた。

友人たちも同じように泣いていた。

泣き疲れた紗千を抱き抱え布団へと連れて行き、布団をかけてあげると

『一蹴くん…』

「どうした?」

『…あのときね?赤い車がね?ぶつかってきたの…』

「赤い車?」

『うん…。すごくはやかったの……それでね…それでね…』

紗千の目から涙がこぼれる

『ママがね…紗千をね…ぎゅーってしたの…』

「…うん。そっか……ほら、疲れたろ?ゆっくり寝な。」

『うん、おやすみ。一蹴くん』

「あぁ、おやすみ。紗千」

…俺はこのときほど良い夢を見てほしいと願ったことはなかった。

けど、今の紗千にとっての良い夢ってなんなんだろう?

弥一と凜が一緒にいる夢?

病室で目が覚めたときの『パパ?!ママ?!』とパニックになった紗千の姿を思い出してしまう。

そんな夢を見たら、覚めたときまた絶望するんじゃないか

きっと俺には慰められない

紗千を抱き締め一緒に泣くしかできない

俺は紗千に何をしてあげられるんだろう

なぁ。弥一…凜…二人は紗千のため、俺に何をしてほしい?

――――――――――――――――――――

式も終わり紗千のことをこれからどうしようかと役所の人間と相談した

正直俺が面倒を見たいと思ってた、

しかし、現実問題それは難しい

情で考えてはいけないことだ

紗千は養護施設で生活することとなった

後見人なんかはもちろん俺

『一蹴くんといたい…』

「俺も紗千と一緒にいたいよ?でもね、それは難しいことなんだ」

『でも…』

「毎週会いにくるよ♪紗千は一人じゃない、俺がいる」

『…うん』

紗千が養護施設で生活を始めてから俺は“赤い車”について調べてみると、意外と早く手がかりのようなものを掴めた。

それは、初老の刑事に連絡したときにだ

「あの事故は、単独のものだったんですよね?」

“えぇ、そうですよ。なにか?”

「いや、赤い車を見たって話を聞いたもので」

“…赤い…車ですか?…その話はどなたから?”

「たまたまあの時間近くにいたって人から聞きまして、赤い車を見た。って」

“カメラにも写ってませんでしたし、赤い車なんて通っていませんよ?”

「そうですよね。すいませんでした、失礼します。」

何かあるかな。

ただの直感だけど、そう感じた。

次に俺は事故のあった付近について調べてみるとここ数ヶ月のうちで5件の事故が起こっていた。

事故の大きさはまちまちだった、死亡事故もあれば

重症ではあるが命に別状がないものなど

いずれも単独事故だった

俺が調べられるのはせいぜいここまで

それに、殺人などでないことだけは明白だったため、赤い車がなんだったのかがわかってもどうしょうもない

けど、知りたい。それに、また同じことが起こり、続く。

そんな気がする、終わらせなきゃならない。

事故の遺族や当事者たちの連絡先はわからない。

できるとしたら…

――――――――――――――――――――

事故現場には思った通り花が供えられていた。

ここで張っていたら遺族や当事者に繋がることができる。

予想通り、手を合わせにきた遺族と話すことができた。

「あの、すいません」

“はい?”

「ここで事故に合われた方のご遺族の方でしょうか?」

“…はい”

「お話聞かせて貰えないでしょうか?」

“え?あなたは?”

「…私の友人夫婦もここで事故に遭い亡くなったんです…」

“あ…そうでしたか…構いませんよ”

「ありがとうございます」

それぞれの車で喫茶店へと向かった。

「いきなりもうしわけありません。

私は黒須一蹴と申します。」

“今谷 結です。”

「先程話しました通り、先日友人夫婦があそこで事故に遭い亡くなりました…一人娘を遺して。」

“そうですか…。私も夫をあそこで…。”

「…それで、娘…紗千と言うんですが。紗千が言うには、事故直前赤い車がぶつかってきたっていうんです。」

“え?…私も見ました!私は助手席に乗っていたんですが、交差点に差し掛かったところで突然赤い車がぶつかってきたんです。

彼には見えてないようでした。事故に遭い、病院で目覚めた私は彼が亡くなったことを聞きました…。赤い車について警察に尋ねましたが、カメラには写っていなかったらしく単独事故ということになりました。

警察に頼み込んで、車を見せてもらいましたが、たしかに赤い塗料なんかついていなくて納得せざるを得ませんでした。”

「きっと、紗千が見たものと今谷さんが見たものは同じものですね。」

“どうするんです?”

「調べてはいますが、実際どうしようもないんですよね。

幽霊車に復讐はできないし、しても仕方ない。

生きてる人間が相手ならどんな復讐でもできるんだけど…

もう、ただの私怨ですよ。二人を殺したやつがどんなやつなのか知らなきゃいけない気がするんです。できることなら次が起こる前に止めたい。」

それからいくつか話し今谷さんと別れた。

紗千と今谷さん二人が見たと言うんだ。

赤い車は恐らく実在した…

ここから先を調べるのは案外簡単だった。

赤い車の持ち主は恐らく最初に事故を起こした者だということ。

所謂“族”に所属していた、またその中でもヤバイやつだと敬遠されていたらしい。

“流す”と称して事故現場あたりをいつも暴走していたり、賭けとしてレースをしていたらしい。事故自体は暴走中のハンドル操作ミスによるものだった。

事故は決まって最初の事故と同じ17日に起こっていた。

ということ

自分が死んだことに気がつかず暴走してるのか、

自分だけが死んだことが許せないのか

わからない

死んでなお人様を巻き込んでやがる、ふざけたやつだ…

終わらせてやる

――――――――――――――――――――

相手は見つけた

いつ現れるかも分かった

けど、その先だ…

本を読んだり、ネットで調べたりして

出た答えは【塩を撒いて焼く】

これが正しいかなんてわからねぇ、相手はもとより死んでるんだ

全部常識じゃあり得ないし、あり得ないことをやろうとしてるんだ

正解なんてはじめからないのかもしれない

決行日

その日、俺は朝養護施設に紗千を迎えに行き水族館へと連れて行った。

当然だが紗千完全には立ち直っていない、けど事故当時よりは回復してるようだった

『一蹴くん、海月さんきれいだねぇ!』

「そうだねぇ、俺は水族館では海月を見るのが一番好きなんだぁ。紗千は何が好き?」

『紗千はねぇ、イルカさん!』

「イルカさんかぁ♪イルカさんはスッゴク頭が良いんだよ~」

紗千に手を引かれながら水族館中を楽しんだ。

帰りの車の中でも紗千は水族館の話をずっとしていたが、疲れたのかイルカのぬいぐるみを抱いたままいつのまにか寝ていた。

「こんな時間まですいません…」

“いえいえ、紗千ちゃんずっと今日を楽しみにしてたんです。一蹴くんと水族館行くんだ!って”

「そうですか。紗千のこと…よろしくお願いいたします。」

俺は施設職員の方に深く頭を下げた。

紗千…行ってくるよ

車を走らせ交差点まで残り5キロといったところで煙草に火をつける

ふーっ

もう少し…

ハンドルを握る手に力が入る

さて、そろそろだ…

来るか?赤い車…

来い…

来い…

来い…!

ぶおん…!

けたたましいマフラー音をたてながら

後方から走ってくる赤い車

来たな!

作戦とよべる作戦はなかった。

せいぜい俺のちょうど後ろに来たときにブレーキをかけて赤い車ごと止める

そのくらいのもの

だが、赤い車速さは俺の予想を超えていた。

俺の車の後ろにぴったりとついたときブレーキを踏んでみたが無理だった。

こっちのブレーキに合わせてやつも減速し、加速をする。

それに、ただ加速するだけでなく衝突してくる。

たしかに、いきなりこんなのに来られたら事故を起こすのは当たり前だ

予測していたからこそ電柱にぶつからずに済んでるだけにすぎない

それに、これじゃぁじり貧だ

そのうち確実に俺も突っ込む

くそっ…

どうしたらいい…

いっそ、一気にブレーキかけてやつもろとも…

それはできない

俺までいなくなったら紗千はどうなる…

また泣かせるのか?

それはできねぇ…

くそっ…

ブォン…!

一瞬の出来事だった

凄い勢いで横から突っ込んできた青い車がバックミラーに映った

激しい衝撃音が響いた

車を止め外に飛び出した。

赤い車の側面に衝突した青い車

車の前には弥一と凜が立っていた。

「なんだよ…良いとこもっていきやがって…

…わかってるよ。俺が無茶する前に止めたんだろ?

二人してなに笑ってんだよ…」

言いたいことはたくさんある…

けど、言葉が出てこない

「俺じゃ心配だろうがよ…紗千のことは任せろ。」

弥一と凜は笑顔で頷いて消えた。

そして、赤い車に塩を撒き火をつけた。

現実には存在し無いものを焼いている

この火を誰しもが見えるのか

それとも、火をつけた俺だけにしか見えていないのかはわからない

けど、この火が二人や他の被害者の方を弔う炎にでもなればいいな

そう思った。

――――――――――――――――――――

時は経ち

今日は1月9日

「良かったのか?今日は友達と飲み会とかあったんじゃないのか?」

『良いの!今日は一蹴君と一緒にお酒を飲むと決めてたの!』

「そりゃ嬉しいな。成人式おめでとう。」

『…うん、ありがとう…。私がここまで来れたのはパパとママ、一蹴くんのおかげです…。

事故があってからずっと一蹴くんは私と一緒にいてくれた。

ランドセルを一緒に買いに行ってくれた。入学式も、卒園式も授業参観も、運動会には大きなお弁当作ってきてくれた…。たくさん迷惑をかけた。』

紗千の目から涙が溢れてくる。事故のときとは違う暖かい涙

「…迷惑なんて思うかよ。

紗千、渡さなきゃならないものがある。」

『これ…』

「一つは二人が遺した財産なんかだ。紗千の学費なんかはそこから少し出した。弥一と凜のためにもその方がいいと思ってさ。

それと」

あの日俺が帰るために車に乗ると助手席に2通の手紙があった。

俺宛と二十歳の紗千に向けたもの。

紗千は手紙を広げて読み始める

こぼれ落ちる涙が手紙を濡らしていく

『パパとママは亡くなってしまったから親孝行はできないけど…これからは一蹴くん孝行するから!一蹴くんにもらったたくさんのものを今度は私が返していくから!』

「楽しみにしてるよ。」

こんなことを言えるまでにこの子は大きくなったんだな…

そんなことを考えると思いでと共に俺まで涙が溢れてきた。

『お酒飲もう!朝まで飲むぞ!』

弥一、凜…紗千は良い子に…

そして俺に似て凄く酒を好きな子に育ったよ。

Concrete
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月舟様
お読みいただきありがとうございました!
長い話でしたのに最後までお読みいただいて( ;∀;)
お褒めいただき光栄です!!
もっと雰囲気が伝わりやすいように書きたいんですが難しいですね…
フワッとしたものを伝えるって本当に難しい( ;∀;)
また書かせていただきますのでよろしくお願いいたします!

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shibro様
はじめまして!
長い話でしたのに最後までお読みいただいて( ;∀;)
ありがとうございます!
こういうの書きたいな~って思ってたものなんですがやっと書けました!
一蹴と紗千を出した他の話も考えたりしてたんですが、これで終わった感もあるし難しいです笑
また書かせていただきますのでよろしくお願いいたします!

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