のどかな山々に囲まれた県道沿いに白い建物の工場があった。
先日その工場前にある信号で止められた際、門口の表札でそこが食肉加工場だということがわかった。
それまでその信号にかかったことがなかったので表札にまったく気付かなかったし、何の工場かなど気に留めたこともなかった。
冷凍車が二台、門から出てきて走り去った。
帰ってから妻に話すと、自分も知らなかったと言って驚いていた。
二人して観察眼のなさを笑った。
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あれから数日後、再び同じ信号で止められた。
一度かかったら何度もかかるもんだなと苦笑しながら、逆に今までなんでかからなかったのかと不思議に思う。
工場の門から、板を張り巡らせあおりを高くした軽トラックが出てきて自分と同じ車線を先に走っていった。
信号が変わり走りだすとすぐ軽トラの後ろに追いついた。
数十メートル走ったところで片側一車線が二車線に増え、その先の交差点でまた赤信号にかかってしまった。
この交差点は交通量が多い上に多叉路で信号の待ち時間が異常に長い。
ギアをパーキングにし、サイドギアを掛けてから凝った首を回す。
いつもはいないカラスが数羽、電線に留まっているのがフロント窓から見えた。
それらがすいっと飛んできて目の前の板張りの縁に止まり、中の何かをついばみ始めた。
ハンドルに身を乗り出し眺めていると、中の一羽がピンク色の内臓のような切れ端を咥えて悠々と飛び去った。
二羽めも白っぽい脂のような欠片を咥えて飛んでいく。
それを見てこのトラックは工場内で出た廃棄部分を運んでいるんだと得心した。
カラスがトラックを待っていたように思え、通過する時間を把握しているのかと感心してしまった。
廃棄される部分とはいえ新鮮な肉だ。ご馳走に違いない。
残りのカラスはまだ物色を続けていた。何か気に入らないのか、くちばしに咥えたものを放り投げている。
こんっ。
カラスの投げたものが落ちてきてフロントガラスを叩いた。
切断面がまだ新しい人の指だった。
びちゃりと音を立て、今度は血糊のついた髪の毛の固まりがガラスに張り付いた。
右隣に止まっているドライバーもカラスの所業に気付き、目を見張ってこちらを見ている。
信号が変わり、軽トラが動き出してカラスも飛び立った。
トラックはそのまま走り去ったが、自分と右隣のドライバーは車を降りて指と髪が本物だと確認し、携帯電話のボタンを押した。
何も知らない後続車が激しいクラクションを鳴らしていた。
作者shibro