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短編2
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水滴

 なにか大切なことを忘れているような気がする。

 それよりも水滴が落ちる音が気になる。

 蛇口をよく閉めてなかったのかしら。

 夜だけど、しばらく続くようなら台所を見に行こう。

 一滴目。

 うーん、気になって眠れない。

 二滴目。

 やっぱり、蛇口をよく閉めてなかったのかな。

 三滴目。

 あの男は誰だったのだろう。

 四滴目。

 蛇口が壊れていたとしたら、大家さんに修理を頼まないと。

 五滴目。

 修理代はいくらかな。

 六滴目。

 胸が痛いのはなぜだろう。

 七滴目。

 そういえば、台所の水道のパッキンは交換してもらったばかりだっけ。

 八滴目。

 じゃあ、どこだろう。

 九滴目。

 どうしてこんなに体が冷たいんだろう。

 十滴目。

 もう限界。

 私は寝室から台所に向かった。

 やっぱり、台所の水道からは水滴は落ちていない。

 けれど、水滴が落ちる音は続いている。

 いったいどこだろう。

 私は家の中を移動中、タンスの引き出しが開けられていること、靴が挟まって玄関のドアが開いていること、床に湿った足跡があることに気が付いた。

 なにがあったのだろう。

 不安になった私は、ふと浴室の明かりに気が付く。

 恐る恐る浴室を覗き込む。

 壁や浴槽が赤く染まった浴室に全裸の女性があおむけで倒れていた。

 露わになった胸が赤黒い液体で染められていた。

 白目を剥いた女性の耳にシャワーヘッドから滴り落ちる水が当たっていた。

 この女性は誰だろう。

 見覚えのある女性だ。

 でも、どうして浴室で……?

 そうか、思い出した。

 私は入浴中、ナイフを持った知らない男に襲われたんだっけ。

 その男、私に馬乗りになって何度もナイフを振り下ろしてきたんだっけ。

 私は口を手で押さえられ、悲鳴すら上げられなかったんだっけ。

 そうだ、ついでに思い出した。

 忘れていた大切なこと。

「私ヲ殺シタ男ヲ絶対ニ呪イ殺シテヤル」(了)

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