この作品は、以前投稿した「特級死刑囚特別収容所」のアナザーストーリーです。特級死刑囚についての説明は省いていますので、前作を読んでいない方は、説明欄のURLから前作をお読みになってから読んでください。
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ある日、特級死刑囚特別収容所 検体管理局の内線が鳴った。検体管理局局長の白井は番号を確認し電話を取った。
「はい、こちら検体管理局の白井です
「もしもし、私です。白井君ですね?」
「はい。所長、どのようなご用件でしょうか」
「先ほど佐久間 正義に特級死刑囚判定が下されました。彼の身柄の引き渡しの手続きと護送をお願いします」
「分かりました」
そう言って白井は電話を切ると、すぐに佐久間が拘留されている警察署へ電話をかけた。
「はい、こちら◯◯警察署です」
「もしもし、特級死刑囚特別収容所検体管理局局長の白井という者ですが、留置管理課の課長の方に取り次いでいただけますか」
「少々お待ちください」
「お電話代わりました。留置管理課課長の渡辺です。どのようなご用件でしょうか?」
「そちらの拘置所に拘留されている佐久間 正義の身柄の引き渡しをお願いします」
「身柄の引き渡しですか。分かりました。今すぐ準備します。それでは失礼します」
1時間後、白井は部下を一人連れて◯◯警察署前に来ていた。白井が到着したことを携帯電話で連絡すると、ほどなくして二人の警察官が佐久間を連れて出て来た。
「それでは、佐久間 正義の身柄はこちらが引き取らせていただきます。ご苦労様でした」
白井たちは佐久間を護送車に乗せると収容所へ帰っていった。
収容所へ着くと、白井たちは佐久間を独房へ連れて行き、彼に無表情で感情のこもらない声で言った。
「佐久間 正義、お前の名前は今日から54番だ。今からお前に癌を発生させる特殊な薬を投与する」
「……」
佐久間は黙っていた。
白井は構わず側に控えていた看守から渡された注射器で佐久間に薬を投与した。
「今から24時間後に54番の検査を行い、癌の発生の有無を確認する」
そう言って、白井たちはその場を去っていった。
翌日白井は部下二人を連れて54番が収容されている独房へ来た。
「これより54番の検査を行う」
「……」
54番は相変わらず黙ったままだった。
そして全身のレントゲン撮影をはじめ血液検査等一通りの検査が行われた。
「検査の結果、54番の大腸に腫瘍が発見された。よってこれより、54番に癌治療薬の投与を行う。」
「どういうことだ?なんで、わざわざ癌をつくって治療をするんだ?」
54番の言葉に白井は答える。
「お前に投与されるのは未認可の新薬だ。つまりお前は臨床試験のための被験体となる」
「まるで、人間として見られていないみたいだな」
白井はそれには何も答えず、治療薬を投与した。
「今から24時間毎に、検査を行い経過を観察する」
そう言うと白井たちは去っていった。
検体管理局に戻る途中、白井の部下の一人が彼に話しかける。
「局長。あの54番ですが、奴は養護施設を襲撃して入所者を20人も殺害した外道らしいです。特級死刑囚判定を受けたのも納得がいきます。局長はどう思われますか?」
「さあ?興味がありません。それよりも相馬君、職務に感情を持ち込まないでください。検体管理局員は職務中は一切の感情を捨てなければいけません。」
「申し訳ありません。しかし、局長はなぜ検体管理局員になられたのですか?」
「さあ、なぜでしょう。忘れてしまいました。」
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「それでは皆さん、私は先に失礼します」
──お疲れ様です。局長──
白井が帰った後の検体管理局で白井の部下たちが噂話をする。
「なぁ、局長って本当に感情が読めないよな」
「確かに、一部では局長はもともと感情がないんじゃないかって噂もあるぜ」
「まさか、ロボットじゃあるまいしそれはないだろう」
「まあ検体管理局の局員は職務中は感情を持たないように指導されるしな」
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半月後、特別収容所所長室
「所長、54番の死亡が確認されました。死因については現在調査中ですので、判明し次第ご報告します。」
白井が所長にそう報告する。
「ご苦労様です。それにしてもあなたは本当に真面目ですね、白井君。あなたが検体管理局に配属された時に当時の局長だった私から言われた感情を持つなという指示をずっと守っていますから、今度飲みにいきませんか?久しぶりにあなたの熱い想いを私に聞かせてください」
「はい、それでは失礼します」
白井は相変わらず無表情でそう答えると、所長室を出て行った。
「本当に白井君は真面目ですね。あくまで職務中は感情を出さない」
作者白真 玲珠
どうも、プラタナスです。
この作品は過去作「特級死刑囚特別収容所」のアナザーストーリーですので、まだそちらを読まれていない方は下のURLからそちらを先に読んでから読むようにお願いします。
http://kowabana.jp/stories/28572?copy