中編3
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金さえあれば何だって

最近見た映像の話。

どこで見たかは伏せる。

ネットで見付けたのか、知り合いから渡されたのか、そのどちらでもないのか。

それは皆さんの想像に委ねる。

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ただ、一つ言えるのはこの映像を見た人間はけして多くないということだ。

だからこうして皆さんに話せる。

大勢が知っている話はつまらない。

あまり知られていないことは話す価値がある。

価値があると思える。

では、その映像の話。

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これから先、固有名詞は全て仮名であることをお断りしておく。

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黒い画面の中央に白字でテロップが流れる。

「岩手富士放送開局30周年特別番組」

次いで、人気の無い山村の風景が遠景で映し出される。

徐々にカメラはその一角にある狭い畑に寄っていく。

そこには日に焼けた逞しい体をした一人の老人が鍬を振るっている。

その老人のアップに被せるように再び画面中央にテロップが出現する。

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白い毛筆で、

「~我、郷土を支える柱に~」

「高田憲啓(仮名)氏に聞く」

いかにも地方局が作りそうなドキュメンタリー番組だ。しかしこの後、画面は暗転し不可解なメッセージが表示される。

「この映像は鬼畜、高田憲啓が行った悪行を晒す為に制作された。」

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狭い和室、というよりは半分物置小屋のような部屋でインタビューが行われる。

インタビュアーはカメラの後ろに位置しているため、画面には高田氏しか映っていない。

高田氏は郷土の名士らしく、部屋の壁には数多くの賞状類が所狭しと飾られている。

高田氏の生い立ちからインタビューは始まるのだが、始まってすぐにまた画面は暗転し長いテロップが表示される。

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感情のない男の声でテロップは読み上げられていく。

「この男は人間を金に変える錬金術を生業としていた。保険金や年金を不正に得る為に43人の人間を故意に殺害、もしくは損壊し、死体・障害者の山を築いた。依頼されて行う以外にも、自分の欲望のため何人もの児童を強姦、解剖している。

その残虐行為の殆んどはこの部屋で行われた。」

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読み上げが終わると、画面はインタビューに戻るのだがそれからもインタビューをまともに見ることは出来ない。

何故ならそこから先はホラー映画としか思えない映像が続くからだ。

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障子にじわじわと血の染みが広がる。

高田氏の背後にあった襖が急に開き、内臓をはみ出させた少女が覗く。

本棚にもがき苦しむ何本もの手足が並ぶ。

窓に全身焼けただれた老婆が張り付く。

テーブルの表面に無数の顔が浮かび上がる。

押し入れの天袋の戸が透けてギュウギュウに詰められ紫や緑に変色した人間の体が見える。

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一つ一つの現象が起きる度に画面は静止し、次のようなテロップが流れる。

「〇〇×子 享年十一歳 性的虐待(実際はその内容についても詳細に書かれていたが省略する)の後絞殺」

「×〇夫 ××××駆動部にて両腕切断」

このような映像が三十分程続く。

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映像の中の高田氏は何が起きても一切反応を示さない。

淡々とインタビューに答えているだけだ。

全くの素人である僕から見てもこの映像に合成やCGが使用されていることはわかる。

そんなレベルの編集だった。

見ている間、三つ、疑問点が浮かんだ。

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一つ、この映像が高田という男を糾弾するために制作されたのだとしたら余りにも悪ふざけがすぎる。

二つ、岩手富士放送というテレビ局は岩手県に存在しない。

そして三つ目。

何故、そんなに詳しく知っているのか。

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スタッフロールが流れた後、最後に表示されたテロップがその疑問を全て解消した。

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「この映像は高田憲啓氏の指示の元、製作された。」

Concrete
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