かなり前の話だ。
ある日、俺は夢を見た。
近くの公園の白いベンチに腰掛けていた俺の隣に、美しい金髪の女性が座った。
蒼い瞳をしたその女性は、隣に座るなり俺をジッと見つめた。
本当に人形のような女性で、心を奪われるというのは、こういうことかと思った。
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この女性との奇跡の出逢いを無駄にはすまいと、俺は思い切ってその女性に話しかけた。
その女性は意外にも日本語が堪能で、名前は『すみれ』だと言った。
見た目とは裏腹に古風な日本的名前に驚いたが、弾む会話にウキウキしていた俺に、すみれは哀しげな笑みを浮かべて言った。
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「私から去っていったのは誰?」
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俺は首を傾げた。
そんなことを俺が知る訳がない。
彼女の問いをはぐらかして、俺は別の話題に変えた。
何とか話を盛り上げようと必死に話していた俺に、彼女が潤んだ瞳を細めて微笑んだ。
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「私からいなくなったのは誰?」
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まただ……。
俺は「知らねぇよ」と思いながらも、何処か寂しげな彼女を刺激しないように、どうにか話を逸らせて話し込んだ。
すみれが退屈しないように、時折、話を盛ったりしながら、彼女を笑わせようと頑張った。
すると、彼女は立ち上がり、俺の方に体を向けて見下ろすと、狂ったような笑顔で俺の首を絞めてきた。
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「私から消えたのは誰なの?」
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苦しみながら、すみれの言葉の意図を理解した俺は、彼女に掠れた声で答えた。
俺の回答に満足したのか、彼女は掴んだ俺の首を離した。
「そうね……」
そこで、俺は目を覚ました。
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この話を古い付き合いの悪友に話したら、ソイツは俺を小馬鹿にしたように笑っていた。
所詮は夢だからな。
数日後、ソイツが死んだと俺に連絡が入った。
あんなに元気だったのに。
ソイツは朝、自室のベッドの上で、変わり果てた姿で見つかったらしい。
死因は窒息死だった。
どうやら、すみれの質問に答えられなかったみたいだ。
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答えなんか目の前にあったのに……。
作者ろっこめ
もうひとつ、オムニバスからぶっ込んでおきます。
背水の陣で、執筆に取りかかろうと思いまして。
この話は、わたしが中学生の時に書いたモノを謎解き風にアレンジしたモノです。
夢の中の美女に、何と答えたらいいのか?
それを考えながら読んでいただけると幸いです。
もしかしたら、こんな夢を見た時、語り手のように危機回避できるように。
早く新作書かなきゃなぁ……。