遂にその姿を表した二体の鬼。
そしてそれを迎え撃つは二名の能力者。
人目に付かぬ山の中。
今、闘いが始まる。
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「これが本物の鬼か?
舐めてた訳じゃねぇけど、ここまでとはな。
一瞬でも気を抜きゃ、即死ってやつか?」
男性は赤鬼と対峙し、そう呟いた。
その頬には汗が流れている。
顔を合わせただけで体がビリビリと痺れる程の威圧感。
男性が言うように、少しでも気を抜けば即死は免れない。
男性は付かず離れず、一定の間合いを取り、鬼と対峙する。
?!
突然、巨木にぶらさがった赤鬼がその体を前後に揺すり始めた。
「来やがるか…。」
男性はそう言うと、ジャラジャラと手首にぶら下がるブレスレットを抜き取り、両の手に持つ。
赤鬼はまるで鉄棒でもするかの様にその体を揺らし続けている。
そして…。
?!
ドン!!
揺れる反動を利用し、赤鬼が男性へ目掛け飛びかかる。
その速度に男性は一瞬意表を突かれたが、何とか回避し赤鬼は地面へ激突する。
地に降り立った赤鬼は四つん這いで男性を見据え、地鳴りの如く咆哮を上げる。
「そう怒んなよ。
悪いけどこっちも手は抜けねぇ。
一瞬で終わらせて貰うぜ?」
男性はそう言うと、円を描く様に鬼の周りを走り出した。
鬼はそんな男性を黙って見ている訳もなく、鋭く尖った爪で男性に襲いかかる。
が、男性は間一髪でそれをかわしていく。
そして鬼の攻撃をかわしながらも、その周りにブレスレットを投げていく。
残るブレスレットが一つになった時、男性はその足を止め、再び鬼と向かい合った。
「楽しかったぜ?」
残る一つのブレスレットを鬼の頭上に放り投げ、男性はそう言った。
そして次に男性は呪文の様な物を唱え、術式を施した。
「禁呪、破幻の呪法 其の一 剥!」
男性がそう叫ぶと、鬼を囲む様に配置されたブレスレットが一斉に光を放った。
そして、その光は一直線に頭上のブレスレットを目掛け伸びていく。
全ての光が頭上のブレスレットに集まった時、鬼の体は光のピラミッドの様な物に閉じ込められていた。
男性はそれを確認すると、すかさず次の術式に入る。
「禁呪、破幻の呪法 其の二 砕!!」
男性が第二の術式を施した途端、頭上のブレスレットが一際、眩い光を放ち、徐々に光のピラミッドが、その面積を縮めていく。
鬼は両の手を押し上げ必死に抵抗するもその勢いは止まらず、遂に鬼は立って居られなくなった。
それでも尚、光のピラミッドはその力を弱める事無く、その面積を縮めていく。
そして…。
「グァ"〜!!」
断末魔と共に押し潰され、消滅する鬼。
後には光を失ったブレスレットが落ちているだけ。
「俺が地獄へ行ったらまたやろうや…。」
そう言いながらブレスレットを拾い上げる男性。
「す、凄い…。
こ、これが本物の霊能力者の力…。」
彼等に依頼をした男は、初めて見る本物の力に驚愕しつつも興奮していた。
青年は何も言わず、ただ黙って男性を見ていた。
全てのブレスレットを拾い上げた男性は、少し離れた所で青鬼と対峙している老僧に目を向けた。
「あちゃ〜…。
あっちの鬼の方がつえぇな…。」
男性が言うように、老僧は青鬼との闘いに苦戦を強いられていた。
先程から老僧は、幾度となく術を放ってはいるが、そのどれもが通じず、徐々にその体力を奪われていく。
「お〜い!
じいさん?ヤバそうだな?
手貸そうか?」
男性が老僧に声を掛ける。
「ほざくな若造!
貴様の手など要らんわ!
それにお主の術もコイツには通じはせん!」
「ならどうすんだよ?
本当にやべぇんじゃねぇの?」
軽口をたたきながらも、男性の表情が強ばっていく。
「ふん!
術がきかんなら直接ブチのめせばよかろうが!」
老僧はそう言うと、首からぶら下げた数珠を外した。
「化け物と云えど、これを使うのは少し気の毒じゃわい。
青鬼よ?
すまんが、貴様只では死ねぬぞ?」
老僧はそう言って数珠を繋ぐ紐を解く。
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
?!
「おいおい!
何だよそれ?!」
男性は驚いた表情で老僧に問う。
それもその筈…。
老僧が数珠の紐を解き、地面へと落下した数珠玉。
その数珠玉が地中深く埋まってしまったのだ。
その深さは50cmを越える。
「その数珠何キロあんだよ!
なにで作ってあんだじいさん?!」
男性が問う。
「うるさい外野じゃのぉ…。
これは正真正銘、ただの数珠じゃよ。
まぁ何十年と毎日清め続け、儂の気を吸い続けておる代物じゃがのぉ。」
老僧はそう言うと不適に笑った。
「それじゃ先ずはその足かの?」
老僧は青鬼の足を指差しそう言った。
しかし、青鬼はそんな老僧を嘲笑うかの様に悠然と歩を進め、その距離を詰めていく。
「一ノ玉、二ノ玉、三ノ玉!」
?!
老僧が叫ぶと、地中深く埋まっていた数珠玉が三つ、勢いよく飛び出し、青鬼に向かって飛んでいく。
これには青鬼も体制を低くし、警戒の色を見せた。
青鬼を目掛け一直線に飛んで行く数珠玉は、その距離が後、二メ―トルと言うところで突然進路を変えた。
一つは右へ、一つは左へ、そしてもう一つは上へ。
青鬼はそんな数珠玉を目で追い、更に警戒を強めた。
そして、上へ上がった数珠玉が巨木の高さを越えた時、今度は青鬼を目掛け急降下を始めた。
その速度は凄まじく、まともに喰らえば流石の鬼も無事では済まないだろう。
危険を感じた青鬼はすぐさま後方へ退いた。
?!
ドス!
後ろへ退いた青鬼の、右の太ももに後方から数珠玉が炸裂した。
ドス!
間髪入れずもう一つの数珠玉が青鬼の右太ももを、今度は前方より襲った。
恐らくその痛みは想像を絶するものだろう。
二つの数珠玉は、その姿が見えぬ程に、肉に食い込んでいる。
しかし、青鬼も只者ではない。
体制を崩しはしたものの、その場に留まり、憤怒の表情で老僧を見据えていた。
シュ!
その時、鬼の眼前を閃光が通過した。
「ガッ…ガァ"ァ"ァ"!!」
頭上より落ちる数珠玉が、閃光が如く速さで青鬼の右足の甲を貫いた。
これには流石の青鬼も雄叫びを上げその場に崩れ落ちた。
「やるじゃねぇかじいさん!
そんなモン隠し持っていやがったのかよ!
いける!いけるぜ!」
男性は興奮ぎみにそう叫ぶ。
「あの方もこれ程の力を…。」
男は二人の能力者の力に脱帽した。
その時。
「へぇ…。
これは本当に凄い…。」
?!
突然、背後から聞こえた声に驚き、男と青年は振り向いた。
其処に居たのは、真っ白な着物を纏った一人の青年。
「何やら変わった匂いがすると思い来てみたら、こんな事になっていようとは…。」
突如現れた正体の分からぬ青年はそう切り出した。
「あっ…。
ご挨拶が遅れました。
私は「響」と申します。」
その名を聞き、青年は咄嗟に印を結ぼうと腕を動かした。
いや…動かそうとした。
だが…動かない。
腕はおろか、指一本動かす事が出来ない。
「あぁ…。
動きませんよ?」
それを見ていた響が言う。
「貴方に暴れられては少し厄介ですので、体の自由を奪わせて頂きました。
少し時間が経てば、自然と解ける程度にしてありますのでご心配無く。」
そう穏やかに話す響に対し、青年は言い知れぬ恐怖を感じていた。
青年は二人の闘いが始まる直前、半径二百メ―トルに及ぶ結界を張っており、闘いの最中も周りへの警戒を怠ってはいなかった…。
にも、関わらず気付かぬ内に結界に侵入し、おまけに警戒している自分の背後をとり、体の自由さえも奪った。
各の違い…。
そう思わざるを得なかった。
そんな青年を余所に、男は不覚にも響と名乗った青年に魅入られていた。
この響という青年は其ほどまでに美しかった。
綺麗に整った顔立ちに、艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、体の線は細く、肌は透き通る様に白い。
黙っていれば、女性と言われても決して疑いはしないだろう。
そんな響が、視線を男に移し言う。
「貴様は必ず私の手で葬ってくれる。
必ずな!」
その顔は、先程とはうって代わり、怒りに満ちた憎悪の表情。
やはり、響は村長の末裔であるこの男に、一番の怨みを抱いている様だ。
「ベラベラと…
ベラベラと喋ってんじゃねぇ!!」
?!
「ほぉ…。
これはこれは…。」
突然、青年が叫んだかと思うと、響の頬が裂け、そこから血が流れ落ちた。
「その状態で、私に傷を付けますか…。
やはり貴方の自由を奪っておいて正解のようですね。」
響はそう言うと、二人に背中を向けた。
「どうやら二体目もやられてしまいそうですね。」
響がそう言うと同時に、青鬼の断末魔が山中に響き渡った。
二人が響に意識を向けている間に、老僧が鬼を仕留めた様だ。
「もし…。
もし、貴女方が私の元へ辿り着けたなら、その時は死よりも恐ろしい恐怖を味会わせて差し上げましょう。
それと…。
これは私からの忠告です。
陰陽師と…それに従う式の力をあまり舐めない方がいい…。」
そう言い残し、響は煙の様に姿を消した。
響が去った後、青年は己の不甲斐なさに怒りを露にし、血が滴る程に唇を噛み締めた。
「いやぁ〜。
すげぇじゃねぇかじいさん!(笑)」
男性が老僧に駆け寄りそう言った。
「ふん!
あんなモン楽勝じゃわい!」
そう言いながら二人はパチン!と互いの手を合わせた。
この二人の能力者により、二体の鬼を仕留める事が出来た。
彼等の力は本物と言えよう。
其ほどまでにその力は二体の鬼を圧倒していた。
だが…。
意気揚々と話す二人の背後に、本当の恐怖が迫っている事を、まだ知るよしはなかった。
作者かい
お待たせ致しました!
って…。
誰も待ってませんでした?(笑)