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中編7
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君の肝臓をたべたい④

第二変体を遂げた師範代の足の匂いは強烈だった。

うっかり鼻から吸い込んでしまった事により、欽也は身体の自由を完全に奪われ、最終奥義であるロボットダンス(改)を繰り出す事もままならなかった。

「く、くっそ!」

「ふふふ金森君、そんなに知りたいのなら少しだけ彼女の秘密を教えてあげましょうか?」

G師範代はソッと壁の方へと目配せした。

するとそこにはこの道場には不釣り合いなモノが掛けてあった。

「般若のお面…ですか?」

「そう、あれは死んだ彼女の遺品ですよ。彼女は亡くなる前にあの面を私に託しました。これに纏わる曰くなども含めてね」

「せ、先生、この般若の面と今僕が受けているこの呪いとは、何か関係があるという事ですか?」

師範代はそっと頷いた。

「まあ、その体制では辛かろう。つまらない戦いは一旦休戦してあっちで紅茶でも飲みながら話しましょうか。確か冷蔵庫にチーズケーキがあったはず」

師範代が床に脱ぎ捨てた靴下をまた履いた瞬間、紫色のオーラは消え、欽也の体に自由が戻った。

ここからは、G師範代の話の内容である。

今から三十年前、ある仲良し高校男子三人組がいた。

彼らは夏休みを利用して、男だけの旅行をすることにした。


一泊した旅館で旅の汗を流そうと早々に露天風呂に入る一行。 ふと見ると、向かいの山の頂上付近にどうも廃屋らしい建物があるのに気づいた。


今入っている露天風呂の隣りは女性風呂、つまりその廃屋にさえたどり着けば、2階の窓から女性風呂を覗き見ることが出来る… 思春期真っ只中の男たちの行動は早かった。 


早速その日の夜、山の頂上を目指すことを決意したのだ。


「向かいの山には入らないでくださいね、マムシやイノシシが出ることがありますさかい」


田舎の旅館には不釣り合いな艶めかしい女将の忠告も、露天風呂の魅力に取りつかれた童貞男子達の耳に入るはずもなく、一行は険しい山道を登りつめなんとか廃屋への侵入を果たした。

しかし時間がかかりすぎた。 もう女性たちが入浴する時間を過ぎてしまっていたのだ。せっかくの露天風呂も中に人影はない。

落胆する男達、しかし、あきらめずに双眼鏡をのぞいていた一人が、小さく声を上げた。


よく見るとあの女将の部屋のカーテンが開いている。そして今まさにあの美人女将が寝巻きに着替えようとしている最中だったのだ。

一気にテンションが上がる、しかし、すぐに違和感が生じた。


なめらかな女将の背中、その乳白色の肌の背中の中央部分に、妙な色合いの筋が浮かび上がっていたのだ。


よくよく見ると、背中の色の正体は女将の背中全体に彫られた見事な般若の入れ墨だった。

息をのむ。

と、暗くて此方が見えないはずの廃屋の中の一行を、女将ははっきりと睨みつけていた。


驚く一行。だが、怪異はそれだけではすまなかった。誰もいないはずの廃屋の外から奇妙な歌声が流れてきたのだ。


どうやら子守歌らしいその唄声は、あろう事か徐々にこちらへと近づいてくる。

パニクる一行、しかしなんやかんやでその場を脱出した一行は、転がるように部屋に逃げ込み、眠れないままの一夜を過ごした。

翌朝、女将の娘が布団を上げに来た。

自分たちよりも幼いであろうその女の子は、はきはきした動きで布団をたたんでいく…


と、


「お客さん」


呼びかけられてふと見ると、女の子が般若の面をかぶっていた。

「うわっ!!」

思わず飛び上がりそうになる一行。

「じゃーん。びっくりしましたか?」

ケラケラと笑いながら般若の面を外す少女。


「この辺の言い伝えなんです。夜になると、子供を亡くし悲しみに取り憑かれた女の人が森の中をさまようんですよ。子守歌をうたいながら。


哀しさのあまり、顔が般若みたく恐ろしい事になっていて、見つけた男の人を攫って食べちゃうんですって。


お客さん、女将さんから言われませんでしたか?あの森には入っちゃダメだって」


こくこく頷く一行。


「入ってませんよね?」


「え?」

「お客さん、森の中には入っていませんよね?」

繰り返す少女の顔には、先ほどの愛くるしい表情は一遍もない。まるで感情のない能面のようだ。

頷くしかない一行。

「そ、よかった」

少女はまたにっこりと笑い、鼻歌を歌いながら去っていった。

ねーんねーん

ころーりーよー

おこーろーりーよー


その歌は、廃屋で聞いたあの子守歌に間違いなかった。

一行は話し合った末、この後の予定を全てキャンセルして早々と帰る事にした。理由はただ気持ち悪いからだ。

会計の際、美人女将は彼らに向かってこう言った。

「あんたらが昨日行ったあの廃屋な、あれ腹に子を身ごもった女が昔、首を吊った場所なんや。

理由は知らん。恐らく望まれない子を身ごもってしまった挙句に追い詰められたんやろ。よくある話や」

一行は金縛りにあったかのように女将の次の言葉を待った。

「ここからが不思議なんやが、翌朝女の遺体を発見した村人達は驚愕したそうや。梁からぶら下がる女の体からは内臓が綺麗に抜きとられていた。子供もろとも小屋の中から忽然と消え失せていたらしいんや。

一旦は獣の仕業かとも考えられたらしいが、損傷具合からみて人間の仕業に間違いないだろうという結論が出たそうや」

余りの凄惨な内容に息をするのも忘れる一行。

「そこからは今朝娘が言った通りや、子を奪われた女は、夜な夜な山の中を彷徨うようになり、見つけた人間を襲う化け物になってしもうた。あんたらはまだ命があっただけラッキーやったんやで」

いつの間にか、今朝の女の子がカウンターの端から彼らを見ていた。

その表情はまた能面のようだった。

「あんたらは私の忠告を無視してあそこへ行ってしもうた。あの歌声も聞いてしもたんやろ?私には分かる、あんたらの後ろにもう憑いとるさかい。

さあ、これ持ってお帰り」

女将は三人の若者に般若の面を手渡した。

「これさえ手元に置いとったら、女も悪さはでけん。残念やけどお祓いなんかしても無理やで、小細工が通用する相手ちゃうねん。

そしてこの呪いは受け継がれる。あんたらにもし子供が出来たらこれを持たすんや、肌身離さずやで、分かったな?」

一行は女将の言葉を信じ、深々とお礼を言って家路についた。

帰りの電車の中で、手渡された面を見つめながら一人が呟いた。

「なあ、このお面なんか臭くないか?」

その後、なんやかんやあった一行も無事に高校を卒業し、一人は大学進学、一人は歌のお兄さん、一人は北関東で有名な彫り師に弟子入りした。

一人目の川来田 蓮はサークル内でのイジメが耐えきれずに精神を病んでしまい、大学を中退後、家族にさえも行き先を告げずに家を出てしまう。

川来田は日雇いの仕事を転々としながら、飯場で般若の入れ墨を背負ったスキンヘッドのガチムチ系のおっさん、町田と出会ってしまった。

町田に調教された川来田は、三十二歳の時に彼の指図のもとゲイバー「オカマです❤︎」を開店。ポン太と名乗る。

身体中を改造し尽くした川来田を判別出来る人間はもう町田しかいない。ポン太の口癖は「さおだけ〜」である。

二人目の重谷 弘也は、彼が一八歳の時に親が内緒で応募した「36代目歌のお兄さん」に一次審査で通り、なんやかんやあってトントン拍子に芸能界を渡り歩いた結果、一躍茶の間の人気者となる。

しかし、三十二歳の時に事務所ごり押しで組んだバンド「下衆のバラライカ」が大失敗。

曲もダサいが、一番の失敗はMステの生放送中に質問に答えない司会者にブチ切れした重谷が司会者のサングラスを踏み潰した事が原因とされている。

芸能界を干された重谷は、売れないハーフタレントを連れて国外へ行き、地元のマフィア連中と連んで怪しいジュエリーを売り付ける商売をしているという。

そして三人目の金森 裕二。

彼は元々手先が器用だった事もあってか二十五歳の時には師匠を追い抜き、更には北関東をも飛び出し世界的に有名な彫り師にのし上がっていた。

Mr.カナモリと呼ばれたその男は三十二歳の時に今年最も世界に影響を与えた人物トップ10に贈られる快挙をも手にし、連日連夜雑誌取材やテレビ、ラジオ出演などに追われる忙しい日々を送っていた。

さて、「三十二歳」というこの奇妙な共通点。

これは一見ただの偶然にも見えるが、どうやらそうでもないようだ。

例えば、三人のパートナーの名前は全て「ナオミ」。飼い犬は甲斐犬。おすわりは出来るがマテ!が出来ない。

子供は男の子が一人、チンポジ左、冬でも短パン、好物はハンバーグ、蕎麦アレルギー、冬が好き、好きなアーティストはエレカシ。

十代でバラバラになってしまった三人にこれだけの共通点があるという事実、最早これはただの偶然とは思えないのである。

ねーんねーん

ころーりーよー

おこーろーりーよー

ある冬の夜、これまた偶然その街を別々に訪れていた三人が聞いたこの唄声。

「…懐かしい」

久しぶりに対面する三人。

唄声のする方を見やると、そこには古くさい一件のBARがあった。

朽ち果てる寸前のボロボロの看板には「般若」の二文字が。

彼等はその唄声に吸い寄せられるように、その店のドアを開くのだった。

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あれ?な、なんで僕はこんな異臭のするお話を投稿しているんだ?!…ひ…

き、記憶がない!この話を書いて投稿するまでの記憶が全くありません!も、もしや僕は誰かにこの話を「書かされている?」のか?

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