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長編8
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遅刻

壮絶なる闘いの末、二体の鬼を撃破した二名の能力者達。

緊張の糸が解け、意気揚々と帰ってくる二人の背後に新たなる強敵が迫っていた。

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「あ〜疲れたぁ!

まさか禁呪を使うとは思って無かったぜ。」

「禁呪か…。

あれも中々の術じゃったの。」

二人は互いの闘いを振り返りながらこちらへと歩いてくる。

ポタ。

「何だ?!

おいおい…。

鬱陶しいなぁ…雨かよ…。」

男性は頬に垂れた滴を拭いながらそう言った。

「おい!

お主!それは?!」

それを見た老僧が驚きの声を上げる。

男性の拭われた頬に伸びる赤黒い液体。

頬を拭った自分の腕を見て、男性も瞬時に何かを悟った様だ。

そして二人は上を見上げた。

シュ。

突然、男性に激痛が走る。

ボトッ。

男性は右頬辺りを手で覆い、苦悶の表情を浮かべている。

「おい!若造!

大丈夫か!!」

?!

男性に声を掛け、足元に落下した何かを見た老僧は絶句した。

それはごくごく見慣れた物。

先程まで、男性の体の一部であった右耳。

その右耳がスッパリと切り落とされ地面に転がっていた。

「誰だ!

出てきやがれ!!」

男性は痛みに耐えながら、何処かに潜むであろう何者かに向かって叫ぶ。

「後ろだ!」

?!

不意に青年が叫び声を上げる。

その声に二人はすぐに後ろを見た。

すっかり日が沈み、暗闇が支配する時間。

その闇の中に蠢く何者かのシルエット。

それがこちらに近づくにつれその姿がはっきりとして来る。

そして二人の目が何者かの姿をはっきりと捉えた時、言葉も発せず臨戦態勢に入った。

闇の中より二人の前に現れし者。

それは紛れもなく鬼であった。

しかし、先の二体とは明らかに違っている。

巨木が如く太い腕と足。

頭には二本の角をはやし、その口は耳まで裂けている。

そして、その体色は漆黒が如く黒。

それはまるで、おとぎ話に出てくる鬼そのものであった。

「チッ!

三体目の鬼かよ!」

男性は流れ落ちる血も構わず、ブレスレットを両の手に握る。

「おい!若造!

お主、その体でやれるのか?」

老僧は男性に問う。

「あぁ?

良くきこえねぇよ!」

男性は片耳を失い聴覚が麻痺していた。

「ふん!

えぇ根性しとるわ…若造が…。」

老僧は男性を讃えながら、胸元の袋に入った数珠玉を地面にばらまいた。

「若造!!

よぉく聞け!

儂がヤツの動きを止める!

その間に、お主の禁呪で仕留めろ!!」

老僧は二人の術を合わせ、黒鬼を仕留める提案をする。

「あぁ!

今のは聞こえたぜ!!

あの野郎、一瞬で終わらせてやる!」

二人は各々に間合いを取ると互いに術式を開始する。

「青鬼は十八玉で絶命しよったからの。

残る数珠玉は後、九十玉。

この全てを貴様に食らわせてやるわ!」

そう言うと、九十もの数珠玉が一斉に飛行を始め、鬼を中心に四方八方へと散っていく。

そして…。

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

辺りに散っていた数珠玉が、その進路を鬼へと変え凄まじい速度を保ったまま、鬼へと激突していった。

「いけ!

若造!!!」

老僧が男性に合図を出した。

男性の結界は、既に鬼を取り囲み、老僧の合図と共に光のピラミッドが完成する。

「禁呪、…」

バリッ…

?!

男性が二ノ術を発動する間際、光のピラミッドを突き破り鬼の腕が姿を現した。

バリッ…バリ。

その後も、鬼は何事も無かったかの様に結果を破壊し、遂にピラミッドが崩壊してしまう。

「う…嘘だろ…?」

「先に儂の数珠を食らっておるのじゃぞ?!」

目の前で起こった光景に二人は動揺を隠せない。

そんな二人を嘲笑うかの様に、グググっ。とくぐもった声で鬼が笑う。

「何が…

何がおかしいんだテメエ!!」

激昂した男性が鬼に殴りかかる。

その拳にはチョ―カ―が巻き付けられ、その上から呪符が張り付けてある。

「砕け散れ!」

バキッ!!

男性の拳が鬼の顔面を捉え、凄まじい音が辺りに響いた。

「ぐッ…ぐぁ"―!!」

鬼の顔面を捉えた男性。

だが…その腕が在らぬ方向へ捻曲がっている。

「退け!若造!!」

老僧の叫び声に、男性は転がる様に鬼との間合いを取る。

そして老僧は胸の前で合掌の体制をとる。

「この化け物が!

消えて無くな…」

シュ。

「ぎぃあ"―!!!」

悲鳴を上げ、地面に倒れ込む老僧。

その左足には膝から下が無かった…。

「こ、こやつの速さ…。」

体を引きずりながら後退り、鬼を見上げる老僧。

その手には老僧の切り取られた左足が握られていた。

「じ…じいさん…。」

男性が老僧を呼ぶ。

その目には生気が感じられない。

「む…無理じゃ…。

こやつは儂らではどうしようも…。」

老僧も圧倒的力の前に心が屈してしまっていた。

そんな二人を鬼は嫌らしい笑みを浮かべ眺めている。

そして、老僧の足を後方へ投げ捨てゆっくりと二人に近付いて来る。

「く、来るな!

来るんじゃねぇよ!」

「わ、儂らの負けじゃ!

も、もういい!」

それはとても哀しい光景であった。

二人の能力者には、先程までの自信も誇りも何も残ってはいなかった。

あるのは目の前にいる化け物への恐怖心のみ…。

圧倒的力を見せ付けられ、二人の心は壊れてしまった。

だが、鬼は相変わらず二人へ向かい歩を進める。

怯える二人を見て、楽しんでいるかの様にゆっくりと。

「我が身に宿りし精霊よ…。

今、その姿を現し、汝が力を以て悪しき者を闇へ還さん…。」

それまで、黙って闘いを見ていた青年がゆっくりと二人の前に出た。

?!

青年が前に出た瞬間、鬼は後方へ飛び、青年と間合いを取った。

「へぇ〜。

見た目によらず利口なんだね?」

青年は微笑みながら鬼に言う。

そして鬼を見ながら、男に対しこう言った。

「二人を連れて今すぐに山を降りて下さい。」

青年の言葉に依頼者である男は驚いた表情をしている。

「に、逃げろですって?

し、しかしあなた様は…?」

そんな男の言葉には答えず、青年は鬼との間合いを詰めていく。

「お前、式神じゃないだろ?」

青年は鬼に問う。

鬼はそんな青年の言葉を理解した様に不適な笑みを浮かべた。

「幾ら主が強いとは言え、式は所詮操り人形。

その力は限られてくる。

だが…それが正真正銘、生身の鬼だとしたら話しは変わってくるよね?

そりゃあ強い訳だよ。」

青年はそう言いながら両手を前に突きだす。

その両手の掌が青白く光輝いている。

それを見て、鬼はゆっくりと体制を低くした。

「行け…。

光の刃よ…。」

青年がそう言うと、両手の掌より二本の刃が姿を現し、鬼へと向かい飛んでいった。

鬼は直ぐ様、空中へと飛び上がり刃をかわした様に見えたが、一つの刃が鬼の腕を見事に貫いていた。

「お前の速さも見事な物だけど、私の刃も光の速さを持っている。

どちらが速いか、勝負を着けよう。」

青年はそう言うと再び両手を突き出す。

鬼は先程よりも更に身を低くし、期を伺っている。

そして…。

青年が再び刃を飛ばした瞬間、それと同時に青年は後方へ吹き飛ばされた。

巨木に体を打ち付けられ、崩れ落ちる青年。

絶体絶命に思われた。

が…。

青年と対峙する鬼も又、その右足に光の刃を受けていた。

相討ち…。

互いの速度は互角、故に双方共に傷を負う事となった。

だが…。

人間である青年が受けたダメージは深刻で、鬼のダメージと比べると比較にもならない…。

この闘い…鬼の圧倒的有利…。

それが意味するもの…。

青年は背中を巨木に預けたまま鬼を見据える。

鬼もその場から動かず、青年の様子を伺っている。

ブクブク…。

「ははっ(笑)

そんな事も出来るんだね?

まいったなぁ…。」

佇む鬼。

刃を食らった腕と足の傷から流れる血。

その血がまるで沸騰するかの様にブクブクと泡だっている。

そして…。

その動きが止まった時、鬼の傷は完全に癒えていた。

鬼は、又も嫌らしい笑みを浮かべ、青年に歩みよる。

そして、座り込む青年の顔を覗き込む様に前屈みになる。

「余裕。って顔をしているね?(笑)」

青年は眼前にある鬼の顔を見ながら言う。

ズン!

?!

突然、地面から刃が突き出し、鬼の両足を貫いた。

「お前、ちょっと油断し過ぎ。」

青年はそう言うと、鬼に向かって両手を伸ばした。

鬼は両足を縫い付けられ、動けない。

「巡れ…雷…。」

青年がそう唱えた時、両掌に小さな雷が発生し、それが鬼の体内へと吸い込まれていった。

途端に狂った様に地面を転がり、揉んどり打つ鬼。

そんな鬼を青年は暫く見つめていたが、その視線を空へと移した。

「ふぅ…。

やっぱり無理か…。」

そう呟くと再び視線を鬼へと戻す。

そこには、先程まで苦痛に襲われていた鬼が、憤怒の表情を浮かべ、仁王立ちでこちらを見ていた、

鬼はゆっくりと両手を広げ、前傾姿勢で身構える。

その姿は、獣が獲物を狩る時の姿に類似していた。

青年はそんな鬼に取り乱す事も無く、静かに呟いた。

「あ〜。

負けた…。

ホント損な役回り…。」

そう呟き、瞼を閉じた。

青年は鬼への敗北と同時に、自らの死を認めたのだ。

そんな青年に対し、鬼はゆっくりと近付いていく。

先程のダメージがまだ、抜けきってはいないのだろう。

足を引き摺る様に歩いてくる。

しかし、確実に青年との距離は縮まっていく。

男達、三人は何も出来ず、ただ見ているしか無かった。

青年との距離、後、五メ―トル。

心地よい風が木の葉を揺らし、葉の揺れる音だけが辺りを包む。

そんな時…。

「お〜い!!どこ〜?!

誰かいませんかぁ〜?」

突然、山中に響き渡る声。

余りに突然で、有り得ない事態に誰も声を発する事が出来ず固まっていた。

だか、尚も声は続く。

「ちょっと〜!

誰かいるんでしょ?」

その声はもうすぐそこまで来ている。

そして、男達のいる後ろの茂みがザワザワと音を立て始めた。

「あっ!

なんだ!やっぱりいるじゃない!」

この時、その場にいた誰もが目を疑った。

鬼でさえも、その歩みを止める程に。

茂みを掻き分け、姿を現した者。

上はTシャツ、下は短パン、おまけに足元はサンダルという、何とも場違いな格好で現れた一人の女性。

年齢は恐らく二十代半ば。

肩まである黒髪に纏まり付いた蜘蛛の巣をとりながら、その女性は周りに目もくれず、青年に向かって歩いていく。

そして、青年を見下ろした。

「で?

あんたはそこで何してんの?」

女性が青年に問う。

青年は、そんな女性を見上げ、軽く溜め息をついた後、こう言った。

「遅いよ…。

姉さん…。」

Concrete
コメント怖い
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智花様。

次でお姉さんの実力がはっきり致します!
びっくりする位、弱いかもです(笑)

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むぅ様。

閲覧注意?!Σ(゜Д゜)
グロかったですか?!
す、すいません!

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はと様。

全然気にしないで下さい!
それより私の話を読みながら寝てしまって、うなされたりしないですか?(笑)

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りりぽょ様。

無茶苦茶な設定の話しで恐縮ですm(__)m
な〜んとなく。程度にお読みくだされ(笑)

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最初から見てますがめちゃくちゃおもしろいです❗続きが、きになって気になって!

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月舟様。

真打ち登場でございます!
暴れちゃいますよ!

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沙耶様。

肩ガッチガチです!(笑)
ガッチガチのまま頑張ります!

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ゆ―にゃ様。

す、すいません!
◯◯シリーズと表記してないのでややこしいですよね(^^;

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珍味様。

全然気にしないで下さい!
常に行き詰まってますので(笑)

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誤字ってしまいましたf^_^;。”行き詰まる”ではなく、勿論”息詰まる”です。失礼しました。

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どうも初めてコメントします。前々前回あたりで読んで、これが連作だと気づき、一気に最初から全部読ませていただきました!実に面白い。脳内では何故かサウンドノベルゲームのかまいたちの夜の曲が流れてしまいます(笑)毎回楽しみに読んでおります。毎回の展開に目がはなせません。次回、続きを楽しみに待ってますね!(>_

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