長編8
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名付け親〜二〜

二人の男性により、封印を解かれた者。

ソレは次々と人々を襲い、被害者を増やしていく。

そんな中、一族とソレとの因縁を聞かされた静音。

そして、ソレの目的は自分だと語る姉。

思いもよらぬ話の展開に複雑な心境の静音。

そして…。

そんな静音の前に、遂にソレが姿を現した。

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「お前…強いかえ?」

突如、背後で聞こえた声と聞き覚えのある言葉に、静音はバッと後ろを振り返った。

そこには着物を身に纏う一人の美しい女性。

間違いない…コイツが…。

その姿を確認した静音は、目の前にいる女性こそが、先祖の封印から解かれた者だと確信し、瞬時に思考を巡らせた。

「当主二人でさえ、封印するのが精一杯だった…。

あの雫さんでさえ太刀打ち出来ない相手…。

そして…この質問に自分は強い。と答えると…。」

静音はしっかりと女性を見据える。

その表情は何故か穏やかで、目の前の化け物に臆した様子は微塵も感じられ無かった。

そして…。

「えぇ。

私は…。

私は強い。

お前を倒す程に。」

静音は女性を見据えたまま、はっきりと言い放った。

そんな静音の返事を聞いた女性が、ニマニマと気持ちの悪い笑みを浮かべる。

「そうかえ。

お前は強いかえ(笑)」

?!

嫌な気配を感じとった静音は、咄嗟に半歩身を引いた。

「いっ…」

だが、いつの間にか静音の手の甲が裂かれ、そこから血が流れ出ている。

「な…何をした…?」

静音は一瞬の出来事に、自分の身に何が起こったのか理解出来ないでいた。

女性は相変わらずその場を動かず、嫌な笑みを浮かべている。

「お前強いねぇ(笑)」

そう言いながら女性が歩を進める。

「お前つよ…」

シュ。

静音へと歩を進め、再び口を開いた女性の右手に、青く光る矢が突き刺さった。

「不用意に近付き過ぎだよ?」

静音が女性に対し、次なる矢を構え言う。

女性は呆気にとられた表情を見せ、暫く自分の手を眺めていたが、矢の刺さるその手を自らの顔に近付けた。

?!

途端に女性が目をカッと見開きブツブツと何かを呟き出した。

「この匂いこの匂いこの匂いこの匂いこの匂いこの匂いこの匂いこの匂いこの匂いこの匂いこの匂い」

女性は呟きながら、その身を震わせている。

辺りの空気が張り詰めていくのが分かる…。

静音は、異様なまでの空気の変化に、只事では無いと感じとり、すぐ様、印を結び始めた。

「お願いします…。

少し…少しだけ私に力を貸して下さい。」

静音は印を結びながら頭の中で願う。

?!

張り詰める空気が更に重みを増した時、静音は目の前の女性に驚愕してしまう。

先程まで綺麗に結われていた髪は、いつの間にか全てほどけ、その一本一本が意思を持つかの様に宙に浮いている。

そして、吸い込まれる程に美しかったその顔は、青くピクピクと脈打つ血管で埋め尽くされていた。

「くっ…。

化け物め!」

静音が構える。

「見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた!!!」

?!

女性が静音との間合いを一気に詰めた。

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「大僧正様!」

一人の僧が慌ただしく走り寄る。

「何事か!

騒がしいの!」

大僧正と呼ばれるこの老僧は、以前集会にて最前列に腰掛けていた、三人の内の一人。

僧は大僧正の元へ駆け寄ると話し始めた。

「ご報告にございます!

新たに東の僧が三名、被害に遭ったと報せが入りました。」

また犠牲者が増えた様だ。

「くっ…。

またか…。

東の大僧正も苦労されておるであろうな…。」

西の大僧正が東の大僧正を労う。

「そ…それが…。

東の犠牲者三名の中に、大僧正も含まれていると…。」

「なっ?!

何?!」

東の大僧正の死を告げられ動揺を隠せない西の大僧正。

「だ、大僧正様!!」

別の僧が慌ただしくこちらへ走って来る。

「えぇ〜い!

次は何だと言うのだ!!」

次々と来る報告に西の大僧正は苛立ちを隠せない。

「ご報告致します!

大僧正の命により、調査しておりましたあの女性の素性が確認出来ました。」

西の大僧正は、あの集会の後、そこに集まった一同を馬鹿にして会場を去った女性について調べさせていた様だ。

「おぉ、そうか。

で?どうであった?

どうせその辺のインチキ霊能力者であろ?」

「そ…それが…。」

僧は調査結果を大僧正に報告する。

「なに?!

あの小娘がその様な一族の末裔とは?!

…………………………………………………………。

すぐに…すぐにあの小娘の居場所を探しだせ!」

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「痛いかえ?

痛いかえ?(笑)」

女性が静音を見ながら言う。

片膝を地面に着き、呼吸を荒くしながら女性を睨みつける静音。

その口は真一文字に切り裂かれていた。

静音が呼吸をする度、漏れ出した空気がヒュ―ヒュ―と音を立てている。

「話せんかえ?(笑)」

女性は嬉しそうに笑いながら静音に歩みよって来る。

そんな女性を睨みつけたまま、静音は地面に両手を叩き付けた。

?!

静音が手を着くと同時に、無数の刃が地面より突き出し、女性の足を深々と貫いた。

だが…。

女性は何事も無かった様に歩を進め続ける。

刃が刺さったままの足を、無理矢理に動かしている為、肉が裂かれ、大量の血が流れ出している。

それでも女性は気にする事無く、静音へと迫って来た。

そして…。

「お前…強いかぇ?(笑)」

遂に静音の眼前に辿り着いた女性がそう言った。

静音は口からの大量の出血により、意識を保つ事で精一杯…。

「ば…化け物…が…」

深傷を負いながらも、化け物に屈しずそう言い放つ静音に対し、女性がその腕を振り上げた。

「姉さん…。

ごめん…。」

シュ!

……………………………………………………。

「はぁ〜…。

間に合った…。」

?!

聞き慣れた声に、閉じていた瞳を開けた静音。

瞳を開けた静音の前には先程と同じ様に、女性がその腕を振り上げている。

だか…その動きが止まっている。

そして、静音の前に立つ女性の背後に佇む、一人の男性。

「本当に危なかった…。

本当に…。」

そう言ってこちらへゆっくりと歩いて来た男性。

「し…雫さん!」

静音は思わず叫んでいた。

切り裂かれた傷口から血が吹き出すのも構わずに。

そんな静音に対し、雫は優しい笑顔を見せた。

「逃げなかったんだね?

やっぱり静音君は凄いよ(笑)

きっと姉さんもそう言うと思う。

でも…少し頑張り過ぎたね…。

後は僕がやる。

静音君は休むといい。」

そう言って雫は静音を離れた場所へと連れていく。

静音を避難させた雫はゆっくりと女性の前に立つ。

「また凄いモノが出てきたね…。

お前何者だ?」

雫が女性に問う。

女性は腕を振り上げたままの態勢で、目だけをギョロギョロと動かし、雫を睨みつける。

そして、固まった様に動かなかった体が徐々にその動きを取り戻し始めた。

「参ったなぁ…。

全力でかけたんだけどなぁ…。

もう解けるか。

これじゃ逃げるのは無理…か。」

雫は女性から間合いをとり、身構える。

チリン…。

雫が懐から鈴の付いた紐の様な物を取り出した。

「ギギギギギギギギ!」

完全に動きを取り戻した女性が歯軋りの様な奇声を発し、雫を睨む。

その顔にはもはや女性の面影など無く、顔に広がる無数の血管からは血が滲み出している。

「その積もりは無かったんだけどね…。

まぁ…仕方ない。」

雫が紐の先端を地面に垂らし、片手で印を結ぶ。

「さぁ…。

やろうか…化け物。」

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「ただいま〜!

いやぁ、アイツが逃げるもんだから、遅くなっちゃった!

静音?ご飯出来てる〜?」

依頼を終え、家へ帰った女性が門をくぐりながら言った。

だが、返事が無い。

「あれ?

静音?

お〜い!静音〜!!」

女性は家の中へ入り、静音を呼ぶが返事は無かった。

「アイツ!

何処いった!」

そう言いながら裏庭へ回る女性。

?!?!

「な…何これ…。」

裏庭へ回った女性の目に飛び込んで来たものは、辺り一面に飛び散った夥しい血痕…。

?!

辺りを見回していた女性が、地面に倒れ込む一人の男性を見つけた。

「ちょ…ちょっとあんた!

何があった…?!」

うつ伏せに倒れ込む男性を抱き起こした女性は、一瞬言葉を失った。

女性が抱き起こした男性は雫であった。

だが、その両目と口は無残にも切り裂かれていた。

「し…雫?!

雫…あんた何してんの?!

ねぇ…冗談だよね?

ねぇ!」

女性は雫の体を揺さぶりながら、必死に呼び掛けた。

「そ…そのこ…声は…。

そ…か…やっとか…帰って…きた…んだね…。」

雫は生きていた。

女性の必死の呼び掛けに答えたのだ。

「あんた何してんのよ!

関わるなって言ったでしょうが!

あんたじゃ無理だって言ったでしょうが!!」

女性は言葉とは裏腹に、その表情は今にも泣き出しそうな程に悲痛なものであった。

「そ…それより…。

し…静音くん…は、ぶ…無事かい…?」

?!

雫の事に気をとられていた女性は、その言葉にはっとなり、辺りを見回し、静音を探す。

?!

少し離れた巨木の前に倒れている静音の姿を発見した女性。

静音もまた雫と同様、その両目と口を切り裂かれていた。

ただ…雫と違う所は、静音はその首を折られていた。

女性は、静音が既に絶命している事を理解し、その視線を空へと移し、唇を噛み締めた。

そして…。

「雫…。

あんた静音を助ける為に、アイツとやったんだね?

ありがとね…。

静音は向こうで倒れてるけど、気絶してるだけみたい。

ありがとね(笑)

いやぁ、あんたのおかげであの子は命拾いしたよ(笑)

ありがと…。

本当にありがとう…ね…」

女性の優しい嘘だった。

「そ…か…よか…った…。

ほ…本当に…よ…よか…ったな…サ…サク…ラ…」

男性が言う。

「サクラ?

サクラって何?」

「君は…いつも…な…名前をよ…呼ぶと…怒る…だろ?

だ…だから…サ…サクラ(笑)

これで…君もす…少しは…女性らしく…な…なるだろ?(笑)

なぁ…サ…サクラ…」

雫はそのまま何も言わなくなった。

女性は動かない雫を暫く抱きしめ、その体をそっと地面へ置くと、ゆっくりと立ち上がった。

風が木々を揺らす。

いや…風など吹いてはいない。

だが、辺りの木々が大小問わずその身を震わせている。

「いました!!

こちらにいました!!」

突然、叫び声が聞こえた。

「大僧正様。

こちらです。」

僧に案内され、姿を現したのは西の大僧正。

大僧正は女性に近付くと、すぐに雫と静音の亡骸に気が付いた。

「お主の周りにも被害が及んだか…。

のぉ?娘よ?

お主、悔しくはないのか?

化け物に身内や友人を葬られ、その仇を討とうとは思わんのか?

我々が力になる。

共に化け物を討とうぞ。」

大僧正は女性に仲間になれと促す。

「今の内だよ?」

女性が背を向けたまま呟く。

「今の内?

何を言うておる?」

「今…あたし機嫌悪いからさぁ…。

今の内に消えないと…。

あんた達…殺しちゃうかも…。

ねぇ?」

?!

そう言って女性がこちらを振り向いた途端、その場にいた全員の体に電流の様な痺れが走った。

「ぎゃあ!」

女性に圧倒され、その場から動けなくなった大僧正が悲鳴をあげた。

見れば、大僧正の人差し指がゆっくりとあらぬ方向へ曲がっていく。

「ねぇ?

力…抑えるの大変なんだ…。

早く行かないと本当に死んでも知らないよ?」

女性のその言葉に、一同は蜘蛛の子を散らす様に一斉に退散していった。

一同が去った後、女性はゆっくりと空を見上げた。

「雫?

あたしには女性らしくってのは、まだ無理みたい…。

静音と雫…。

あたしから二人を奪ったアイツを…。

アイツを殺すまではね!!」

Concrete
コメント怖い
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shibro様。

なんかすいません!m(__)m
ほんまにすいません!

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月舟様。

す、すいません!!
ちょっとやり過ぎたかもです(^^;

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むぅ様。

トメ言うたらシバかれますよ?(笑)
さぁ…サクラさんが暴れますよ〜

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セレ―ノ様。

被せてる(゜ロ゜;ノ)ノ

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珍味様。

本◯寺?!
成る程!
それ頂きますm(__)m

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