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中編5
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雨の日

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雨の日は苦手だ。

蒸し蒸ししてジメジメして、鬱陶しい。

しかも傘なんていう、一種の凶器まで皆々軽率に持ち歩いている。

地に溜まった雨水や泥がズボンの裾に跳ねて汚れる。

ああ、雨の日は気分が憂鬱になる。

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しかし、それと同時に湧き上がる高揚感。

…そうだ、あの日からか。

あの日も今日みたいに雨が降っていた。

ああ、本当に憂鬱になる。

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あの日、俺は職場の馬鹿上司にあらぬ言いがかりを付けられ、職場のミスを俺のせいにされた挙句、酷い叱責を受けた。その場には俺の片思いの彼女も居て、そんな醜態を晒した俺を見て、彼女は幻滅しただろう思うと、ムカムカして、勝手に失恋した気分になって、一人居酒屋でやけ酒をしていた。

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「すいません、隣良いですか?」

そう声を掛けて来たのは、髪の長い女性だった。

これがまた驚くことに、超美人で、片思いの彼女に少し雰囲気も似ていて…

「ど、どうぞ…!!」

なんて、みっともない上擦った声を上げてしまった。

「すいません、ありがとうございます。席がいっぱいでカウンターしか空いてなくて。」

そう言って俺の隣に腰を下ろし、彼女は生ビールを注文した。

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女性と2人で飲み屋なんて十数年ぶりだった俺は、何を話せば良いのか分からず、注文していたハイボールをチビチビと飲みながら、会話の種を脳内でまさぐっていた。

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「女性が一人で居酒屋なんて、ちょっと変わってますよね。」

そう切り出した彼女は、少し恥ずかし気に長い髪を耳に掛けながら俺を見た。

「いっ、いや、そんなことないですよ!俺はよく見ますよ?一人で来られる女性!でも、今日は金曜の晩ですしご友人と飲みに行ったり…なんて事にはならなかったんですか?」

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「今日は少し嫌な事があって、一人で飲みたいなーと…でも、いざ一人で来たら、やっぱり寂しくなってしまって、貴方に声を掛けたんです。おひとりのようだったので。…迷惑でしたか?」

心配そうに眉尻を下げつつ、俺を見るその視線に、ドキドキが止まらなかった。

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「そっ!そんなことないです!!俺も丁度一人は寂しいなって思ってたところでしたから!」

「良かったです…。」

安堵したように微笑む彼女を見て、俺は思った。

『ヤバい。めっちゃ可愛い。こんな可愛い子と飲めるなんて、もう二度とないかもしれない。』

そんな俺の顔は酒に酔ったこともあって、さぞだらしない顔をしていたことだろうな。

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彼女の頼んだ生ビールが届かない。

再度注文をした。今日は店が混んでるから仕方ないか。

ようやく届いた生ビールと、半分ほどに減った俺のハイボールで乾杯をした。

「素敵な出会いに乾杯。」

「で、出会いに、乾杯っ。」

カチンとグラスを合わせ、俺たちはグイッと酒を煽った。

『神様ありがとう。こんな出会いをくれて…かんぱーい!!!!』

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出会ってから1時間程ですっかり俺たちは打ち解けて行った。

どうやら彼女が一人酒をするに至った経緯は、今日、まさに先程、恋人に別れを告げられたらしい。

「本当は一緒に此処へ来るはずだったんですけど…ね。」

そういった彼女の表情はとても沈んでいるようで、安易に励ますのもどうかと思った俺は「今日は飲みましょう。俺、明日休みですし、全然付き合いますから!!」そういって彼女の開いたグラスに注文した瓶ビールを並々と注いだ。

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「ふふ…優しいんですね…?ありがとうございます。」

泣きそうな顔で笑う彼女。

とうに俺は恋に落ちていたのだろう。

話はますます弾み、お酒もいくら飲んだか分からない程になっていた。

彼女も俺も、相当に酒がまわっており、終電なんてとっくに終わっている時間だった。

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「家、何処ですか?タクシー、呼びますよ?」

少し残っている理性でそう告げる俺の腕に、彼女は指を絡めて来た。

「私、まだ帰りたくないんです。初対面でこんな…はしたないですよね…。でも__。」

彼女の言葉を遮るように、俺は彼女に口づけた。

なけなしの理性なんて、とうにぶっ飛んでいたようだ。

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そこからは、ご想像の通り。ホテルへ行き、大人の時間を過ごした。

裸でベッドへ横たわっていると、彼女が俺に擦り寄り、こう言った。

「もっと早く出会いたかった。そしたら、こんな思いしなかったのに…。」

そうすすり泣く彼女を抱きしめながら、眠気と疲労のピークを迎えた俺はいつの間にか夢の中へ落ちて行った。

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ふと目を覚ます。

となりに彼女はいない。

シャワーの音が聞こえる。

シャワーを浴びているのか。

20分ほど待ってみた。出てこない。

…まさか。

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俺の中で嫌な予感がよぎった。

バスルームの扉を静かにあける。

出しっぱなしのシャワーがあるだけで、彼女の姿は無かった。

『良かった…でも、彼女は何処に行ったんだろう。』

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不意に浴室内の鏡に目をやった。

俺は戦慄した。手が震え、服が上手く着れない。

頭の中は真っ白で、カチカチとなる自分の歯の音が煩わしい。

半裸の状態でホテルを転がり出た。

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鏡には赤い口紅で記されたメッセージ。

【____________】

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「うわああああああああああああああああああああ!!!!!!」

奇声を上げながら道端に転がり、蹲り、在らんばかりの声で叫んだ。

俺の悲痛な叫びは雨音に消され、消えて行った。

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それからの俺は変わってしまった。道行く髪の長い綺麗な女性に目を付け、鋭い傘の先端で喉元を貫く。こんな時にだけ、雨は良いと思う。汚れても気にならない。勝手に雨が洗い流してくれるのだから。

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雨の日は憂鬱だ。嫌な事を思い出してしまう。

雨の日は気持ちが高揚する。彼女を思い出せるから。

髪の長い女を殺せ殺せ殺せ殺せ。脳内に響く彼女の声。

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殺して、殺して、殺して。

私の代わりに、髪の長い綺麗な女を、たくさんたくさん、殺して?殺して?ねえ。

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彼女はまだ探しているんだろう。

自分をこんな風にした元凶の女を。

『さて、今日も雨よ。いきましょうか。』

「…ああ。」

彼女が果たして、現実なのが、幻なのか。

そんなことは、どうでも良い。

今は、ただ遂行したいだけだ。彼女の想いを。

Concrete
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@ちっちっち♪ 様

コメントありがとう!!!
過去作品にさかのぼってのコメントって本当に嬉しい♪

梅雨の時期ならではのお話しでした☆
アフターストーリーは考えて無かったけど、ちょっと面白そうよね!!
ネタの一つとして、キープしとこ★

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ふたば様

www
なめくじとは!!www
それは確かに発狂ものです!!!www

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F様

コメントありがとうございます!!
心が躍ったなんて…
なんて素敵で喜ばしく照れてしまうお言葉でしょう…
ありがとうございます( *´艸`)///

F様お察しの通りです!!
私、特融と言いますか…
オチを付けるのが苦手な私の「読者様、この話にオチを付けて下さい!!」的なお話しでした…
うーむ、まだまだ創作は苦手です…

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まー様

コメントありがとうございます!!
今回も素敵なコメントありがとうございます♬

創作は苦手な私は、どうもオチが上手く作れず…
結果、読者様の想像に任せてしまうようなお話しにしてしまいます。
うーん、まだまだ精進が足りませんね…
アメリカンジョークのエイズのお話し!!
懐かしいですね!小学生の頃に、学校の怪談という本で読んだ気がします!

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ゆか

久々ー( *´艸`)
今回の話で、読者の皆様がもやもや、悶々としているのが
うちには「よっしゃ!!」って感じよ!!
今回の話の目的はそこ!!
後味の悪い、解答が見えない、そもそも女性は生きてるの?
初段階から積もる謎。
しかして、殺害は生々しく…
雨の鬱陶しさ、ジメジメさにかけて、こんなお話を♬

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shibro様

お久しぶりですー!!
shibro様の「赤ちゃんのいない団地」も怖かったです…

この女性は、霊なのか人間なのか…
彼女が頼んだ生ビールが届かなかったのは、店が忙しかったからなのか…
そして女性が残した言葉とは…
もやもや後味が悪いですよね!!!
私が読み手だったら発狂しますwww
ですが、今回の話の目的は、その皆さまのもやもやを引き出すことでしたー♬

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たけさま

お久しぶりです!!
コメントありがとうございますうううう!!

ふふふ…
女の人が残した言葉は明かされることの無い謎なのです。
もやもやもや…
そう!!まさにそれが狙いです!!
読者の皆様をもやもやさせるのが目的の、後味のわるーい作品でした♪

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むぅ様

ルージュの伝言…w
一気にファンタジー感が出ましたww

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こめちゃん

こめちゃん、この間は大長編お疲れ様!!
凄い面白かったなりー♬

こめちゃんが好きそうな、謎めいた作品。
女性が残した言葉は謎のまま。
後味悪いよね…
そんな創作を書いてみたーっ

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つっきー

久しぶりー!!!
夏前の梅雨の鬱陶しい時期…
雨の話っておどろおどろしくて良いよね!!
つっきーの話も楽しみにしてるで♬

女の人が書いたメッセージ…
それは誰にも分からない…
って後味の悪さを出してみた創作でした♪

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