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これは私がまだ幼い頃の話です。
夏休みになると、祖母の姉が住んでいる田舎によく遊びに行きました。
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私は祖母の姉のことを「おばちゃん」と呼んで慕っていました。
真夏のとても暑い日、おばちゃんの家でダラダラしていると「こんなにお天気なんだから外に遊びに行ったらいいべ、おじちゃんがスイカ持って帰ってくっからお腹すいたら帰っといで」そう言われて半場無理やり外で遊ぶことになったのです。
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と言っても、実家から遠く離れた田舎の村に友達なんているはずもなく、当時は携帯など持っていなかったので迷わないように近くを散策することくらいしか出来ませんでした。
最初はつまらないと思っていても子どもは遊びのプロ、当時の私は探検隊の隊長になった気分で木の枝を掲げ、セミの抜け殻を集めて、ひとり遊びをしていました。
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おばちゃんの家はドがつくほどの田舎にあり、お隣さんの家に行くのにも軽く20分はかかりますし、コンビニもなければスーパーもない、自販機もない。
あるのは、山と川と畑と沢山の空き家です。
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私は探検隊ごっこに少々飽きてきたのと暑さでバテたのもあり、二階建ての空き家の日陰で休むことにしたのです。
誰も住まなくなってから随分経つであろうその空き家はツタがビッシリと張り付いていて窓も割れていてボロボロでした。
今思えば明らかに不気味な場所です。
しかし、当時の私はそんなこと微塵も考えず探検隊のいい基地を見つけたとなんだか心が踊ったのです。
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門には南京錠がかかっていましたが付けている門自体が劣化していたのか、すぐに外れました。
玄関の扉は何故か外されていて、代わりにベニヤ板で塞いであったのですが、それも劣化していて大きめの枝を隙間に入れて、てこの原理を使えば簡単に開けることが出来ました。
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玄関に入ると、蔦で家が覆われているせいか、なんだか空気が冷たく真夏の暑い日なのに別世界にいるような感覚になりました。
玄関の目の前に二階へと続く階段があります。
私はじっとその階段の先を眺めていると
「ミシ…ミシミシ…」と畳を歩くような音が聞こえたのです。
「やばい!誰か住んでたんだ…」
幼い私は瞬時にそう思いました。
しかし、窓も割れているようなボロボロの家に人が住んでいるとは今の私にはとても考えられない事です。
それを当時の私は何故かまだ人が住んでいると勘違いをしてしまいました。
何故だったのかはわかりませんが
恐らく、そこには"何か"がいる。
そしてその"何か"がいる場所にお邪魔してしまったのだという意識がどこかにあったからだったのかもしれません。
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私はその畳を歩くような音を聞いて咄嗟に玄関から出ようとしました。
すると背後から「…オイデ…」
と呼び止められたのです。
全身に冷や汗をかきました。
誰が私を呼び止めたのか
恐る恐る後ろを振り返るとそこには誰もいませんでした。
何かの聞き間違え、きっと畳を歩くような音だって、風が建物を揺らしてそう聞こえただけ。
そう自分に言い聞かせて外に出ました。
すると、いきなり大粒の雨が降って来ました。
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まずい…これは帰れない。
なぜなら、私はバッグの中に買ってもらったばかりのゲーム機が入っていたからです。
本当に暇になったらやろうと持ってきたゲーム機が災いの元、これさえ無ければずぶ濡れになって帰っても問題は無いのに…。
私は仕方なく、不気味な家に入ることにしたのです。
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本当はこんな場所からすぐに出たいのに、なんでこんなことになってしまったの…
そんなことを考えていると次はハッキリと
「…おいで…」と二階から聞こえてきたのです。
外はいきなりの雨で暗くなっているため、二階はもっと暗くその奥から聞こえてきたのです。
私はゲーム機の明かりを頼りに行ってみることにしました。
なぜ、二階に上がろうと思ったのかはわかりません。
きっと"何か"に呼び寄せられていたのだと思います。
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二階に上がる最中は何故か恐怖心は和らいでいました。
二階に上がると廊下がありその廊下に沿って部屋がいくつかありました。
「…おいで」また声が聞こえてきました。
どうやらその声は一番奥の部屋から聞こえてくるようで、私はその奥の部屋の扉を開けてしまいました。
するとそこには1人のお婆さんが下を向いて立っていたのです。
髪は後ろでお団子をしていて着物を着ているお婆さんでした。
「こ、こんにちは」
私は震える声で話しかけました。
するとお婆さんは俯いていた顔をゆっくりと上げてニコっと笑ったのです。
口角はお婆さんの顔のたるみを押し上げて、目は垂れていて、それはそれは笑顔と呼ぶ他ない顔でしたが、なぜかとても怖いのです。
その笑顔が不気味で恐ろしくて仕方ないのです。
お婆さんは笑顔のままゆっくり近づいてきて押し入れを指さしました。
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私は押し入れになにか入っているのかと思い、開けてみると
そこには、ボロボロの着物や櫛や裁縫箱などいろんなものが詰め込まれていて、その奥に壺みたいな物がありました。
幼い私はその中に何が入っているのか想像して怖くなりました。
よく見るとボロボロに詰め込まれた着物の柄は今目の前にいるお婆さんが来ているものと同じで…
間違えない。ここにあるのは全てこのお婆さんの物で、あの壺の中にはお婆さん本人がいるのだと確信しました。
恐ろしくなった私はすぐにその部屋を出て階段を駆け下り外に出ました。
すると雨はすっかり止んでいて道も乾いていました。
私は外からその家を見ると二階の窓からお婆さんの後ろ姿が見えました。
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急いで家に帰るとおばちゃんが
「おかえり、ずいぶん長いこと遊んでたね、でもこれから雨降るって言ってっから降る前に帰って来れてよかったよかった」
「え、雨ならさっき降ってきたじゃん」
おかしい…
「んなはずないべ?洗濯物濡れてないし、おばちゃんずっと畑にいたもの」
私の頭はもうハテナでいっぱいです。
その日の夜私はおばちゃんの横に布団をしいて今日あったことを話しました。
空き家に入ったこと、大雨が降ったこと、空き家にお婆さんがいたこと、空き家の押し入れで見た物のこと…全部話しました。
すると、おばちゃんは
「もうその空き家には行っちゃダメだよ。あそこはねお婆さんが亡くなってるんだ」
やっぱり…
「そのお婆さんの息子は都会で働いていてね結婚して帰ってきた。若い嫁さんがお婆さんの介護をしていたんだ、でもちょっと気難しいお婆さんでね。嫁いできた嫁さんにしょっちゅう小言を言っていたそうだよ」
「そうだったんだ」
「疲れてしまった嫁さんはだんだんお婆さんを恨み始めて介護も雑になったんだ。もう何年も前、夏のある日、嫁さんはお婆さんを置いて街まで買い物に出かけたんだ。その日はとても暑くてね、帰ってきたらお婆さんは熱中症で亡くなっていたんだ。」
そんなことがあった家とは知らず忍び込んでしまった私は本当に愚かだと痛感しました。
「おばちゃんその後はよく知らない。でもあそこはね良くないことが起きた場所なんだ。だからもう近づくんじゃないよ」
夏の暑い日に起きた不気味な出来事は今でも忘れません。
皆さん、空き家を見つけても入ることはオススメしません。
もしかしたら、犯罪になりうる可能性もありますし、なんせそこには何がい憑いているかわかったものじゃありませんから…。
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終
作者さ とうあ み
いやぁ、幼き私は恐るべしですね本当に
皆さんもどうかお気をつけて…