「カイ…。
アレは…ヤバい…。」
突然僕に小声でそう告げた来夢の額から汗が流れている。
え??ヤバい??
確か…此処にいる幽霊達は無害では??
僕は来夢の辻褄の合わない発言に戸惑いを見せた。
そんな僕の表情を読み取ったのか、来夢が僕に説明を始める。
「カイ?
アレはこの病院で起こった事故とは無関係だよ…。
多分、事故のずっと前から此処にいる…。」
?!Σ(゜Д゜)
事故とは無関係?!
て…ことは…??
…………。
?!Σ(゜Д゜)
アイツただの幽霊?!
事故の犠牲者も目の前にいるアレもどちらも幽霊なのだが、この時の僕は頭が混乱し、こんな考えを巡らせていた。
「ど、どうする来夢?
逃げるか?逃げるのか??」
慌ただしく問いかける僕に対して、来夢は少し考えた後、口を開こうとした。
「カ…」
「来夢くぅ〜ん!
この廊下怖くて私達だけじゃ無理だよぉ〜(泣)」
絶妙なタイミングで会話に割り込んで来るアマゾネス…。
ブッ飛ばすぞ!!
心の中でそう叫び、アマゾネスの方を見る僕。
?!
妙に体をクネクネとし、乙女モ―ド全開で此方を見るアマゾネス…。
その肩口にソレはいた…。
艶の無いボサボサの白髪…。
大きく見開かれたその目に眼球は無く、暗い闇が広がっている…。
そんな不気味な老婆が、わざとらしく怯えるアマゾネスの肩越しに僕達を見ている。
あっ…多分、俺死ぬ…。
不思議と僕はそんな事を冷静に考えていた。
「カイ?
大丈夫か?
しっかり…。」
呆然と立ち尽くす僕に、今行くと言わんばかりに笑顔でアマゾネス達に手を振りながら来夢が話し掛けて来た。
「カイ?
そのまま黙って聞いてくれ。
アレは俺が何とかする。
だから、カイは女子達をこの階から遠ざけてくれ。
すぐに。
いいか?」
来夢はそう言って僕を真剣な眼差しで見た。
僕は混乱した頭を何とか落ち着かせ、黙って頷いた。
大きく深呼吸をする僕…。
「さぁ!やって参りましたぁ!
輝け!第一回、廃病院かくれんぼ大会〜!!!」
突然大声で訳の分からない事を叫び出した僕を、アマゾネス達が冷ややかな目で見つめる。
来夢でさえも驚愕した目で僕を見ている。
い…痛い…。
女子達の視線が痛い…。
だが、これは僕の使命だと自分に言い聞かせ、尚も続けた。
「この企画は此処にいる来夢君の提案であります!
今から女性陣には、この廃病院の中で隠れて頂きます!!
そして〜!隠れた皆様を来夢君が鬼となって探して回りま〜す!
そしてそしてぇ〜。
見事最後まで見つからなかった女性には、なんとぉ!!
来夢君の熱いハグをプレゼント致しま〜す!!!」
途端にざわつき出すアマゾネス達。
来夢は勝手な事を口走る僕に対する怒りからか、体をプルプルと震わせている。
だが僕はそんな事は気にしない!
「ただ〜し!
女性陣が隠れていいのは、一階部分のみとさせて頂きます!
宜しいですね〜??」
………………………。
僕がそう言い終わった時、アマゾネス達はもうそこにはいなかった。
とても先程まで怯えていた者達の物とは思えない足音だけが、一階へと遠ざかっていく。
よっしゃあ!!
俺ナイス!!!
僕は見事迅速にこの場から女子達を遠ざけた事に気を良くし、どや顔で来夢を見た。
?!Σ(゜Д゜)
「ちょ…ちょっと…来夢さん?!」
そこには、いつの間にか眼帯を外し、存在しない左目で僕を見る来夢が…。
や…殺られる…。
「絶対に見つかってあげないんだから〜!!!」
身の危険を感じた僕は、猛ダッシュで階段をかけ降りて行った。
あ〜危なかった…。
そんな怒らんでもええやん。
一階に降り立った僕はブツブツと呟きながら辺りの詮索を始めた。
静まりかえるフロア内…。
物音一つしない。
アマゾネス達は上手く隠れている様だ。
僕は一人、誰もいないフロアを歩く。
………………?!
そこで僕はおかしな事に気づく。
余りにも静か過ぎる…。
僕が今いる一階部分には、こうして一人歩く僕以外には誰もいない…。
そう…。
先程まで慌ただしく動き回っていた事故の犠牲者達も…。
それに気付いた途端、僕はこのフロアに一人でいるこの状況に猛烈な恐怖を感じた。
なんでや…?
アマゾネス達はどっかに身を潜めてるにしても、あの犠牲者達…は?
僕の体を嫌な汗が流れていく。
「キャ―!!!」
「助けてぇ―!!」
「うわっ!逃げろ!逃げろ―!」
「お母さ―ん!!!」
?!
突然、フロア内のあちこちから聞こえて来る悲鳴。
僕は思わず、首を左右に振り、声の出所を探す。
バタバタバタバタ!!
?!
それまでその姿を消していた、この病院での犠牲者達が一斉に此方へ向かい走ってくる。
右からも…左からも…。
流石にこの状況には僕も冷静でいられず、その場で立ち尽くしたまま絶句した。
叫び声を上げながら必死の形相で迫り来る犠牲者達…。
右、左と両サイドから押し寄せて来る犠牲者達が、僕の佇む地点に辿り着き、そのまま衝突するかと思われたその時、犠牲者達はまるで霧の様にその姿を消した。
ドッドッドッドッ…。
激しく動く僕の心臓の音だけが耳に届いてくる。
先程までの喧騒が嘘の様に静まりかえるフロア。
た…助かった…。
僕は徐々に落ち着きを取り戻し、無事に事なきを得た事を素直に喜んだ。
だが、それと同時に僕の頭に浮かんだ一つの疑問。
恐らく、先程の犠牲者達はあの痛ましい事件を今も繰り返している…。
彼等は自らが死んでいる事に気付いていない。
だから今も尚、生前に起こった事を繰り返している。
胸が痛む…。
彼等があの事件の呪縛から解き放たれるのはいつになるのだろう…。
僕は彼等に対し、心の底からご冥福をお祈りした。
だが…。
僕が感じた疑問…。
それは左から僕へと向かって来た数名の犠牲者達。
そのいずれもが体の何処かに傷を負っていた。
顔…腕…胸…。
鋭利な刃物で切られた様な跡…。
それだけで命の危険を感じさせる程の痛ましいものだった…。
だが、右から来た犠牲者達にはそんな傷は一切無かった。
もしかして…報道以外の事実が何か…。
僕は左に伸びる廊下へと目をやり、唾を飲み込んだ。
闇が広がり、突き当たりが見えない廊下。
そう言えば、こっち側はまだ行って無かったな…。
僕は、先程一階を見て回った時、左側へは行っていなかった事を思いだし、突然不安にかられた。
この先に何が……?
?!
しもた!!
アマゾネスは?!
アイツらもしかしてあっち行ってへんやろな?!
この階に隠れているであろうアマゾネス達が左側へ行った可能性を感じた瞬間、僕はそっちへ歩き出していた。
アマゾネス達が危ない…。
何故かそう感じた僕の体が自然と動き出していたのだ。
静まりかえった廊下。
見つかるまいと、アマゾネス達は声を潜め身を隠しているのだろうか。
丁度、廊下の半分程に差し掛かった時、突き当たりにぼんやりと見え始めた案内板。
手術室…。
それが目に入った瞬間、僕の全細胞が警告を鳴らす。
これ以上先に行っては行けない!
「タイムア〜ップ!
かくれんぼ終了〜!!!
皆様お疲れ様でしたぁ!!
見事、誰一人見つかる事無く、制限時間となりましたので、参加者全員に来夢君からの熱いハグをプレゼント致します!!
さぁ!皆様!もう大丈夫ですよ〜!
出て来て下さい!」
アマゾネス達や僕自身の身の危険を感じ、一刻も早く此処から離れようとかくれんぼ終了を叫ぶ僕。
「きぃやぁぁぁ〜!!」
?!
突然、耳をつんざく様な悲鳴が廊下に響き渡る。
どこから聞こえて来たのか分からない僕は前後左右と首を忙しなく動かした。
体は硬直し動けない…。
ガタン!!!
バタバタバタバタ!!!
バンっ!!!
「ヒッ!」
激しい音の後、こちらへ駆け寄って来る足音…。
そして、突然乱雑に開け放たれた扉。
僕はそれらの現象全てに心臓が止まる程恐怖し、情けない悲鳴を上げた。
「やったぁ〜!!!」
「ハグやってぇ!!
どうしよ!あたし気絶するかも!(笑)」
「ヤバイって!
ハグした後…とかなったらどうしよ〜(笑)」
?!
乱雑に開け放たれた扉から次々と現れたアマゾネス達…。
こ…コイツら…。
僕は口々にその喜びを表現するアマゾネス達に、一気に体の力が抜けていく。
一…二…三…四……………?!
足りひん?!
今日此処に来た女子は全部で六人の筈!
「おい!
後二人は?!
AとBはどこにおんねん!」
僕には嫌な予感しかせず、喜び騒ぎ立てる女子達に問いただす。
「おい??
あんた…おい?て何偉そうに言うてくれてんの?」
強く問い詰めた僕の口調に対し、アマゾネス達が不満をぶつけて来る。
「ほんまやし!
何であんたにそんな偉そうに言われなあかんの??」
「ほんまやわ!
来夢君に言われるんやったらええけど、あんたに言われる筋合いないし!!」
僕に対し、口々に不満をぶちまけるアマゾネス達…。
僕は下を向いて黙っている。
「あれぇ〜?
カイ何か震えてへん?(笑)」
「ほんまや!(笑)
あんたもしかして…泣いてんのちゃうん?!(笑)」
「泣くかぁ?普通(笑)」
そう言いながらアマゾネスの一人が、下を向く僕の頭に手を乗せ、小さな子をあやす様に頭をさすった。
「よし、よし。
良い子は泣かないのよぉ〜(笑)」
………………………。
「キャ!痛い!!」
頭の上に乗せられた手を強く掴む僕。
「だ……れ………や………」
「ちょ、ちょっと!痛いって!
離しぃや!」
「ほんまや!
あんた女の子に何してんの?!」
「ブツブツ言うてんとはよ離しぃや!!」
僕の行動を次々に非難するアマゾネス達。
……………………………………………………。
そして…遂に僕は…。
「黙れやコラぁ!!
お前らみたいなモンにかもとる暇無いんじゃ!!
後二人が何処やて聞いとんねん!!
黙って答えんかい!!!!!!!
しばき倒すぞボケが!!!」
や…やってしまった…。
アマゾネス達に暴言を吐いた直後に反省した僕は、それでも、もう後には引けないと、驚きの余り固まっているアマゾネス達を睨み付けた。
「ふ…二人?
二人は確か手術室に隠れるって…。」
僕が声を荒げた事が効果覿面だった様で、アマゾネス達は急に大人しくなり、二人の行方を僕に知らせた。
だが…僕の嫌な予感は的中し、残る二人は手術室に…。
どうする…。
カイ…お前どうする…。
僕は自問自答を繰り返す。
もし、僕の予感が的中していたなら、あの手術室には…。
そうなれば僕が行った所で…。
………………………。
そして僕は決断する。
「お前らここにおれ。
絶対此処から動くなよ?
もうじき来夢が来る筈やし。」
僕は女子達にそう言い残すと、一人手術室へと続く廊下を進み始めた…。
作者かい
かくれんぼ大会〜!!