7月10日。台風が過ぎ去り、この街にはジメジメとした蒸し暑さだけが残されていった。高校の帰りに俺は一人、墓石の前で合掌している。今日は妹のひなの命日だ。
「ひな、もう3年経つんだな・・・お兄ちゃんは元気でやってるよ。今年は、夏祭りどうしようかな。露も毎日楽しそうにしてくれてるけど、お祭りはひなが居ないから、まだちょっと迷ってる」
最後に妹と果たせなかった約束、夏祭り。3年前の夏、ひなと約束したきり一度も行ってない。今は義妹の露がいるけれど、あの子にあまり気を使わせるのも悪い気がする。
「そういえば、たまにお前の夢を見るよ。やっぱり、寂しいからかな。いっそ幽霊でもいいから・・・いや、何でもない。ひなは天国で笑ってくれてるかな?お兄ちゃんはそれを望んでます」
幽霊でもいいから、ひなに会いたい。たぶん、それが本音なのかもしれない。でも、そんなことになったとして、俺は本当に幸せなのだろうか?
「ひな・・・大好きだよ」
気付けば、小さな雫が睫毛の下から零れ落ちていた。また、泣いてしまっているのか。
「お兄ちゃん、泣き虫だなぁ」
俺は涙を拭いながら呟いた。そろそろ帰ろう。そう思い立ち上がった直後、妙な胸騒ぎがした。
「!?」
なんだろう、この感覚は・・・そういえば、以前にも同じような胸騒ぎを感じたことがあった。いつだっただろうか。
「そうだ・・・ひな、お前」
思い出した。去年の同じ日にここへ来たときも、同じようなものを感じた。この前、7月10日以外の日に墓参りへ来ても、何も感じることは無いのに。
「お前・・・俺に何か伝えたいことがあるのか?」
俺はそう言ってもう一度墓石に話しかけた。勿論、返答は無い。ただ、ひなは俺に何か言いたいことがあるのかもしれない。そんな漠然とした理由だけが、俺の心に引っ掛かった。
「旦那様?」
不意に、聞き慣れた少女の声がした。そちらへ向くと、義妹の露が中学校の制服姿で首を傾げて立っていた。
「あ、露か。学校の帰りか?」
「いえ、一度帰ったのですが旦那様がいらっしゃらなかったので、もしかしたらと思って来ちゃいました」
「そっか、おつかれさん。今から帰ろうと思ってたんだ。一緒に帰ろう」
「はい」
露はひなの墓石の前にしゃがむと合掌し、少しするとまた立ち上がった。
「帰って、夕ご飯つくりましょう」
彼女はそう言って微笑んだ。
「いつもありがとう」
陽の沈むまちの中、俺たちは帰路に着いた。
作者mahiru
こんにちは。
今日はしぐるの妹、ひなちゃんの命日ということで番外編を書かせて頂きました。しぐるが高校二年生で鈴那と出会う前のお話です。