彼女と初めて会ったのは、彼女が道に迷っていたときだった。
声をかけると 、引っ越したばかりで ここから帰宅するのは初めてだと、笑顔を見せた。
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方向が同じだったので、彼女のアパートまで一緒に歩いていった。
困っている人を進んで助けるなんていい人ね、と彼女は言った。
話もはずんだが、彼女は、室の前まで来ると急に振り返って叫んだ。
「ついて来るな!」
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俺は、苦笑した。 家人に誤解されたくないとしても、この仕打ちはないだろう。
彼女は、はっとした顔で詫びた。
「ごめんなさい。 あなたに言ったんじゃないんです。 私、少し霊感があって・・・、外出すると霊が寄ってくるので、付いて来るなって言って払ってるんです。」
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ゲッ、なんて女だと思った。
そのときは適当に切り上げて別れたが、なぜかこのあと付き合うことになった。
彼女によれば、霊的な因縁らしい。
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付き合ってからは、彼女のアパートへ行くとき、俺はいつも車を使っていた。
その日は、アパート近くの交差点で、大きな事故に出くわした。
何台もの車が衝突、横転し、漏れた燃料からは火の手が上がった。
俺は、間一髪避けられた・・・はずだったが、交差点から少し行ったところで、車が動かなくなってしまった。
どうやら、巻き添えで何らかのダメージを受けたらしい。
携帯を取り出すと、電源切れ。
彼女のアパートが近いので、とりあえず歩いていくことにした。
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アパートの前に着いたとき、背中に違和感が走り、振り返った。
そのとき、奴らを見た。
事故で亡くなったばかりの霊だと、直感で分かった。
ゾンビのような奴らが、交差点の方から、列をなして俺の後を付いて来てる!
俺は、思わず怒鳴った。
「ついて来るな!」
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気配を感じ、前を見ると、いつの間にか彼女が立っていた。
彼女は、見たことがない悲しげな顔で言った。
「あなたは、いい人だから、助けてあげたかった。」
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次の瞬間、俺はものすごい力で、背中を引っ張られた。
俺の体は、宙に浮いて、あの交差点の方へ引き飛ばされていった。
彼女の姿が豆粒のようになったかと思うと、あっという間に視界から消えた。
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俺を引っ張る力は、交差点のところまで来ても止まなかった。
だが、どこに連れて行かれるのか、そこの状況を見て、ようやく分かった。
「そうか、俺は交差点事故で死んでいたんだ・・・」
作者退会会員
蜘蛛の糸と、ビアスの橋の真ん中を狙って、なるべく短くしてみましたけど、どうでしょうか。