学生の頃に体験した話です。
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その日は友人達と飲み会の日でした。
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僕は授業の関係で数分遅れて到着し、、既にメンバーは集まっていました。
先に店に着いた者から順に飲み物を注文していたようで、既にできあがって居る者もいました。
「もう潰れてるのか?早いな」
「あ”あ”あ”-?お前女連れてきたのかあ?きいでね”-」
「何言ってんだ?酔っぱらい過ぎだよ、水飲みな」
周りの客達も酔っぱらい声が大きかったのですが、それ以上に大きな声で話していて、ビール瓶に向かって話していました。
「おー!来た来た!こっち空いてるよ」
「はじめましてですね」
メンバーの中には知らない人が何人かいましたが、気さくで陽気な人達で、すぐに打ち解けられました。
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サトコさんという女性は煙草片手にビールを飲んでいて、既に酔っぱらっている様でした。
力強い目で質問が幾つも飛んできて、僕はなかなか席に座れなかった記憶があります。
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酒も進み皆それぞれ酔っぱらってきた頃。
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「ねーねー、暑いしー皆酔っぱらってるから、皆が涼しくなる話してあげる」
「あー、分かった...またあんたお得意の気持ち悪い話でしょ。キヨミセレクトのスプラッタムービー...やめときな、皆ドン引きするから」
サトコさんが煙草を吸いながらキヨミと言う子へ冷たい目で言い、その言葉を聞いて本人は少し悲しい顔をしましたが、話を続けました。
「サトコさーん、そんな事言わないで下さいよー。流石にその話はしませんよー」
キヨミさんは30分近くその気持ち悪い話を披露し、酔っぱらっていた友人達の酔いはだんだんと冷めていきました。
確かにキヨミさんの言う通り、皆は色々な意味で涼しくなりました。
あと1時間でお開きになる予定がその話を聞き終わるや否や、飲み会の幹事がきりがいいから今日はここで終わりにしようと言い出し、お開きになりました。
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「ごめんね、変な話して。でもこの子、変な子じゃないんだよ。今日はこんな感じになっちゃったけど、また一緒に飲もうね」
酔っぱらって半分寝ているキヨミさんを支えながらサトコさんは言いました。
「もちろん!また飲みましょう」
店の前で解散し、二次会に行くものと帰る者と分かれました。
僕は二次会へ参加せず、一人で家に帰りました。
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歩いていると酔いと疲労感がじわじわやってきて、目を閉じると頭の中をかき混ぜられている様にぐるぐる回り、目を開けると一瞬目の前の景色が歪んでみえました。
そんなに飲み過ぎたのかと思い、小さい声で早口言葉を言って、呂律が回るか試してみました。
「赤巻き紙、青巻き紙、黄巻き紙...言えた...隣の客はよく柿きゅ....はぁ、言えない」
当時ルームシェアで一緒に住んでいた友人は酔っぱらいを嫌がる人だったので、家に着くまでに自分の呂律や酒臭くないか確認しました。
傍から見たら不審者です。
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ガチャ ガチャ
「開いてない、まだ帰ってないのか」
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カチャカチャ...ガチャ ギィ......
部屋の中は真っ暗で、家のドアから外の光が中へ光を照らし、玄関の靴に靴がないのが見えました。
「まだ帰ってないのか」
僕は玄関の明かりをつけ、ドアを閉めました。
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shake
「お帰り~!」
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真っ暗なリビングの方から声が聞こえました。明るい女の子の声です。
「ただいま...起こしてごめんね」
二人で寝ているところを起こしてしまった...ムードを壊して申し訳ない...
僕は音をあまり立てないように靴を脱ぎ、そのまま忍び足でリビング手前の風呂場へ向かいました。
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何度かうたた寝をしながらシャワーを浴びていると。
ガチャガチャガチャガチャ...コンコン...
sound:14
誰かがドアを回し、ドアを叩いてきました。
「入ってるよー!もうすぐ出るから!」
暫くすると、また。
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ガチャガチャガチャガチャ...コンコン...
「龍二か?もうすぐ出るから待ってくれ」
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sound:14
ガチャガチャガチャガチャ...コンコン...ギィッ ギィッ ギィッ
「しつこいなーもう出るよー」
あまりにしつこいので、勢いよくドアを開けました。
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ガチャッ!
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そこには誰もいませんでした。目の前には、自分の脱いだ服が洗濯物籠に無造作に入っているだけです。
変だなと思いながら体を拭いていると、浴室の換気口に何か挟まっているのが見えました。
「なんだこれ...げっ...」
shake
それは、爪でした。派手なピンク色の爪。
手に取り触ってみると、裏にシールが貼ってあったので、それが付け爪だということが分かりました。
「なんでこんなところに...あ、龍二じゃなくて、彼女がふざけてたのか...そうかそうか...」
彼女はきっと寝惚けてあんな事をしたんだろう、きっとトイレと間違えたんだろう。
自分に言い聞かせるように繰り返し言いました。
その付け爪をゴミ箱に捨てると、水を飲みにリビングへ行きました。
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電気をつけキッチンへ向かい、寝惚け眼で冷蔵庫から水を取り出しました。
グラスを片手にテーブルへ行くと、そこで置き手紙を見つけたんです。
「ん?...」
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“今日は実家に帰る。酔っぱらって帰ってきて床に吐いたりするな”
明日帰ってくる
龍二
読んでいるうちに、酔いがだんだん醒めてくるのが分かりました。
僕は急いで玄関のドアを確認しに走りました。焦りと動揺で上手く走れず、何度も転びそうになりました。
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ガチャガチャ...
ベランダも窓もすべての鍵を確認しました。
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全てしっかり施錠されていました。全部の部屋の電気をつけ、クローゼットを開け、人が隠れられそうな所を探しましたが、誰もいません。
バクバクバクバクバクバクバクバク バクバクバクバクバクバクバクバク
心臓の鼓動が早くなる音が耳の奥で聞こえてきます。
落ち着こうと水を一杯飲み、部屋をもう一度一通り見回ったところで友人に電話をかけました。
こんな遅くに迷惑なのは分かっていましたが、この不気味な部屋に1人で居るのが怖かったんです。テレビをつけてみましたが、砂嵐ばかりでそれが逆に恐怖に拍車をかけました。
怒鳴られるのを覚悟で電話をかけました。
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プルルル...プルルル..ブツッ
shake
「もしもし?あの..」
「どうした...今何時か分かっているのか」
相手が思いの他落ち着いた声だったのでホッとしました。
「遅くにごめん、申し訳ない!でも、どうしても今確認したいことがあるんだ!緊急なんだ!頼む!」
一人でこうして話しているのが怖くて、受話器を持つ手が震えました。壁を背にして電話していましたが、後ろに誰かがいる様な変な気配を感じていました。
「おいおい大丈夫か?とりあえず落ち着け」
「ああ、ああ、ごめん、ありがとう。さっき帰ってきたんだけど、家にお前の彼女が居たんだよ..びっくりしたよ...家に居るなんて聞いてないからさ。風呂のドアガチャガチャ回すし、ドアを叩くし...風呂出たら帰っててさ...お前が居ないから帰ったんだよな?」
シーンと静まり返った部屋に、自分の声が厭に大きく感じました。
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「誰だその女」
「お前の彼女だろ?」
「彼女?彼女なんていない。俺とお前の他に鍵を持っていないのに、その女どうやって入ったんだ?」
友人の言葉を聞いて、鳥肌が立ちました。
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「その女、本当に帰ったのか?」
作者群青
学生時代に体験した話です。リビングへ行かずに、そのまま寝てしまえばよかったです。
誤字脱字などございましたら、ご指摘頂けると幸いです。