中編3
  • 表示切替
  • 使い方

愛してる〜三〜

暗い部屋の中。

右手に包丁、左手に手紙を握りしめ、僕は佇んでいる。

殺してやりたい…殺したい…殺す…。

今すぐに…この手で…。

人を殺したいと願う今の僕は愚かなのだろうか?

そんな事を彼女は望んでいないのだろう…。

分かってる…。

彼女は絶対にそんな事を望んではいない…。

そんな事は分かってるんだよ!!

じゃあどうすればいいんだ?

教えてくれよ!

ヤツを警察に突き出せばいいのか?

刑務所に放り込まれればそれでいいのか?

寝る部屋を与えられ、最低限の食事も与えられて十年も入れば罪を償った事になる…。

本当にそれで罪を償った事になるのか?

それで誰が納得するんだ?

そんな物に何の意味があるんだよ!!

彼女の失われた時間も未来も、もう二度と戻っては来ないんだ!

僕はアイツを…江川を絶対に許さない…。

他の誰も望まなくとも、僕が望む…。

江川の確実な死を…。

部屋の中、一人自問自答を繰り返す僕。

このまますぐにでも江川を殺しに行きたい。

だが、アイツは副社長という立場にある。

なんの策略も無く突撃した所で、警備員に抑え込まれて計画は失敗に終わるだろう。

それでは意味が無い…。

僕は確実にアイツを殺さなければならないのだから…。

その日から僕は江川に徹底的に張り付いた。

出勤から帰宅まで、朝から深夜に及ぶまで毎日毎日、江川の行動を監視した。

だが、江川の周りには常に二人の護衛がぴったりと張り付いており、中々襲撃のチャンスが訪れない。

そして、江川に張り付いてから一週間が経った頃、遂に襲撃のチャンスが巡って来た。

深夜に自宅マンションへ帰宅した江川が、マンション前で護衛二人を手で追い払う様に帰したのだ。

包丁を握る手に力が入る。

この機会を逃したら次は…無い。

僕は身を隠していた茂みから飛び出すと、一気に江川へと駆け寄った。

駆け寄る足音に振り返った江川の慌てた表情が目に写る。

僕は包丁を握った手を大きく振り上げ、江川目掛けて一気に降りおろした。

……………………。

もう少し…。

もう少しで切っ先が江川の胸に突き刺さっていた…。

だが、その寸前で僕は羽交い締めにされた…。

マンションの中にも江川の護衛がいたようだ…。

僕はその場で護衛によって意識が飛ぶ程に殴られた。

倒れ込んだ僕の頬を涙が伝う。

僕は彼女の仇すら討てないのか…。

目の前にいる江川を殺す事も出来ないのか!

情けない自分に対する怒りと、彼女の復讐を果たせない悲しみが混ざり合い、涙となって僕の目から流れ落ちていく。

江川はそんな僕の頬を足で踏みながら言う。

「面倒だから警察沙汰にはしない。

お前が誰だか知らねぇけど、俺に怨みがあんならいつでもどうぞ(笑)」

そう言うと、笑いながらマンションへと姿を消した。

一人冷たいアスファルトに横たわる僕。

ごめん…ごめんなぁ…。

僕は、君の仇すら討ってやれなかった…。

君を守ってもやれなかった…。

最低な男だよ…。

僕は冷たいアスファルトに思い切り拳を叩き付けた。

アスファルトに削り取られた肉の隙間から白い骨が見えている。

耳に届いた鈍い音と体を突き抜けた電撃の様な痛み…。

恐らく骨が砕けたのだろう…。

だが、僕はもっと耐え難い痛みを知っている。

なのに…僕は…。

彼女を守る事も、彼女の仇を討つ事も出来なかった。

僕みたいな人間が生きている必要はもうない。

彼女の為に何もしてやれ無かった僕が、死んで彼女の側へ行くなんて厚かましい事は言わない。

ただ、彼女のいない人生に何の意味も感じない。

僕は痛む体をゆっくりと起こすと、宛もなくさ迷った。

暫く歩くと僕の視界に入って来た踏切。

遮断機が下り、赤い警告灯が電車の接近を告げている。

僕はなんの躊躇いも無く、遮断機をくぐり線路の中へと入って行った。

心地よい風が吹き、前髪が揺れる。

その中で、僕は大きく息を吐き、静かに目を閉じた。

ごめん…。

プァ―ン!!!!

電車のけたたましい警笛が僕の耳に届く。

ごめん…。

目を閉じた僕の瞼をすり抜け、電車のライトが入り込んで来る。

それがこの世で見た最後の光だった。

グジャっ。

これが僕が聞いたこの世で最後の音…。

エガワオマエハゼッタイニユルサナイ。

これが僕が発したこの世で最後の言葉…。

そして…僕はその人生を終えた。

Concrete
コメント怖い
9
17
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信

月舟様。

まぁ見てて下さい!
自分が作り出したキャラクターながら、この江川っちゅう男は絶対に許しません!

返信

むぅ様。

鬼畜お好きですか?(笑)

返信

せらち様。

復讐なんかしたらあきませんよ?!Σ(゜Д゜)
絶対虚しくなるだけです!
まぁ、そんな簡単に抑えられる感情でも無いんでしょうけど…。

返信
表示
ネタバレ注意
返信

珍味様。

こ、こんなもんですよ?!
こんなもんです…。

返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信